ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/23

橘　颯 @so__w

教え子は幾度教えようともｒとoを取り違える。torchと書かれた部分に朱線を引くと、何方でも同じじゃないのと少女は薄紅の唇を尖らせた。しかし、此れでは燃えてしまうだろう。何れにせよ熱を点す事に変わりは無いでしょう。そう云って、触れた唇は確かに焼ける様に熱かった。 #twnovel

layback @laybacks

予期せぬ残業でくたくたになって帰宅した。ドアを開けると小さなおっさんが上がり框に腰かけていて、おかえり。と迎えてくれる。禿げ散らかした頭がかわいい。焼きプリン買ってきたよ。ほんまか！　おっさんの顔がパッと輝いて思わず笑ってしまう。疲れが吹き飛んだような気がした。 #twnovel

silf⛩️ @athene1020

制服という名前を冠した戦闘着に身を包む。どこまで着こなすかが勝負。ソックスを絶妙な長さに調整して、髪を整える。重要なのは機能美。キャンディの弾丸を詰め込んだバッグを持って。行ってきます。学校という名前の戦争へ、私は今日もiPod片手に出兵する。 #twnovel

鈴々@物語る鳥 @re_rhythm

朝の渡り廊下ですれ違う上級生はいつも文庫本を読みながら歩いている。挨拶をすると、眼鏡の向こうの瞳が一瞬こちらに向いて笑むように和む。それだけで一日幸せに過ごせる気がする。ブックカバーのかけられたあの本のタイトルが知りたい。いつか彼に直接聞くことができるだろうか。 #twnovel

茨城の新聞配達員(m0422w) @masahirosi

#twnovel「着眼点」女は言った。「飲み残しは排水溝に捨ててね、シンクの上にやるとシミになるから」網付きの帽子を被って女は出かけた。男は女の言われた通りに水を排水溝へ流す。排水溝には米を研いだ時に出たカスが網目に入り込んでおり、ロクに家事をしない男はそっちの方が汚く見えた。

Hiroyuki inoue @hiro_kinako

#twnovel 夏休みも終わりに近いというのに、小学生の息子は自由研究に取り組む様子もない。妻に話を聞くと、毎日友達の家を遊び回っているという。気になって問いただすと、息子はけろっとした顔で言った。「クラスのみんなの自由研究の進み具合を毎日調べているんだ。それが僕の自由研究」

Hiroyuki inoue @hiro_kinako

#twnovel ハザマさんは時の狭間に住んでいて、僕の人生の節目に現れてはアドバイスをくれる。そんな彼が、就活中の僕のもとに採用通知が届くと教えてくれた。浮かれる僕を見て彼は言った。「そんなに喜んでもらえると教えた甲斐があったというものだ。来年どこに受かるかも教えてやろうか？」

すわぞ @suwazo

#twnovel アメンボが水面を走る。水中の生き物と地上の生き物の言葉をそれぞれアンテナとして受け取り、翻訳し、送信する。アメンボの背には小さな女が座っている。あるいは男が。やさしい言葉がアメンボを通り抜け、女あるいは男は歌いたい気分になる。歌う。ついでに踊る。アメンボの背で。

ショウ @SHO_Y

野良猫のクロが僕を見上げて鳴いている。クロが向かったのは、人がひとり通れるくらいの路地。僕は誘われるままに後をついて歩く。この先に猫の国でもあるのだろうか。路地を抜けると見知らぬ住宅地に出た。「普通だな」僕は思わず呟く。「そうかもね」クロは目を細めて答えた。 #twnovel

くさがみ•R•シン @kusagamirin

#twnovel 昔々、葉っぱ一枚でどんな動物にも化ける狸がいました。八手で熊、楓で鹿、笹で蛇。それはもう変幻自在。ある日、彼は思いました。全ての葉を同時に使ったら？ どれほど強くて賢くて美しい動物になれるのか。頭に十数枚の葉を乗せて。ドロン！ 狸が初めて人間に化けた瞬間でした。