ヨウカイスレイヤー第五話より「バット・フー・イズ・ザ・イービル・ヨウカイ」#3

第五話「フラワリング・サツバツ・ナイト」 ファンタズマゴリア・ケイム・フロム・ジゴク #1:http://togetter.com/li/352567 バット・フー・イズ・ザ・イービル・ヨウカイ #1:http://togetter.com/li/361069 続きを読む
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ダンザイ・シテンノのメディスン・メランコリーは、夢を見ていた。柔らかなフートンに包まれる感触、遠くから聞こえてくる子供の声。窓から見える月は二つあり、片方は青、もう片方は緑に光っていた。窓枠も大きくゆがんでおり、月が三つに増えた。メディスンは何か喋ろうとするが、声が出ない。1

2012-09-03 18:47:13
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視界が湖底めいて青くなってゆく。いけ好かない世界だわ、と彼女は思った。不意に体が宙に浮き、上半身にぬくもりを感じる。メディスンは顔を上げた。そんなことはできない。全身の力が抜け、だらりと四肢がたれる。自分を抱きかかえた少女の口が動いているが、何を言っているのかは分からない。2

2012-09-03 18:50:34
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何も聞こえない。聴覚?そんなもの、人形が持っているはずもない。この人間は誰だ、私の記憶にはない……記憶?人形が記憶を持つのか?ニューロンが高速回転しながら体の外へと飛んでゆく。月はもはや六つだ。視界を覆う青が深さを増し、漆黒へと変化してゆく。体が深みに沈んでゆくような感触。3

2012-09-03 18:55:03
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電子的ノイズが視界いっぱいに広がり、やがて、始めからあるはずもなかった視界も閉ざされる。次いで四肢の感覚も、あたたかな人間の腕の感触も消えゆく。ふざけるな。私から私を奪う気か。メディスンは思った。思っただけだ。そしてその思考も、ついに奪われてゆく。……11011001001(4)

2012-09-03 18:58:13
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00101100101010010101010010101101第五話「フラワリング・サツバツ・ナイト」より「バット・フー・イズ・ザ・イービル・ヨウカイ」#3 (5)

2012-09-03 18:59:31
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「……!」メディスンは超自然のベッドから飛び起き、上半身を起こす。一面のスズラン畑に太陽が照りつける。スズランの匂いがしみ込んだフートンの感触。遠くから聞こえるバイオセミのけたたましい鳴き声。大丈夫、大丈夫。メディスンは深く深呼吸をした。自己生成された毒が体中を循環する。6

2012-09-03 19:03:04
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彼女の住処は非常に簡素であった。畑の端に捨てられていたトタン板を屋根に使い、UNIX基盤をもぎ取ったタワー型デッキを積み重ね柱替わりにしている。東側の柱から朝食代わりのペラドンナドリンクを取り出すと、メディスンは一気に飲み干した。体中にドリンクが染み込む感覚。生を感じる瞬間だ。7

2012-09-03 19:05:29
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「オハヨ、スー=サン。今日も良好ね」メディスンは頭上でふわりと浮くヨウセイめいた存在にアイサツをした。スーと呼ばれたその存在はくるりと宙返りをし、羽をパタパタと震わせた。「異常なしね」スズラン畑の化身たるスーはメディスンに生を与えた、スズラン畑そのものなのだ。8

2012-09-03 19:09:49
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メディスン・メランコリーは人形である。サイバネでも高級綿でもない不思議な素材で全身がかたどられ、血液のかわりに毒が全身を駆け巡っている。何故生きているのかわからないが、彼女が気付いた時にはそれらはすべて備わっていた。人間を許してはならないという感情とともに。9

2012-09-03 19:12:32
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メディスンはたまたま近くに住んでいたカザミ・ユウカにケンカを売り、かわりに知識としての大量の書物とスズラン畑一帯の管理権限を売ってもらった(ダンマク勝負は惨敗した)。彼女はスズラン畑を無名丘と名付け、そこに入ってくる人間や野良ヨウカイたちを疑似的カロウシさせ追い払ってきた。10

2012-09-03 19:17:19
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それは今日も同じである。スーの左足がピクリと震え、南のUNIX柱に取り付けられたLEDライトがアンタイヤクザ警報機めいて点滅する。侵入者だ、しかも悪質な。メディスンは読んでいた新聞を綺麗に折りたたみ、紫色の可視オーラを周囲に発散しながら飛んだ。少し遅れてスーもそれに続いた。11

2012-09-03 19:22:59
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一方、無名丘北側の入り口付近では、少数のヨウセイとクローン毛玉を従えたクスリ売りがいた。ヨウセイたちはおのおの「合法薬品」「バリキより実際効く」「中毒が一切無い」とミンチョ体で縦書きされた紫色のPVCノボリ旗を担いでおり、その周りを護衛めいてクローン毛玉が取り囲んでいる。13

2012-09-03 19:29:01
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その中心にいるのは……聡明な読者の皆さんはお気づきであろう。そう、ヨウカイである!怪しげな煙を吐き出す箱を抱えた少女が、トークンの詰まった袋を片手で掴んだ。「フフフフフ、いいわね、今日の上がりは上出来……!」彼女の名はテヰ・イナバ。エイエン・テイ所属ヨウカイだ。14

2012-09-03 19:33:27
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その時、不意にダンマクが飛来し、クローン毛玉を数体爆発四散させながら新たなヨウカイが姿を現した。「ドーモ、哀れなヨウカイ=サン……」「……?ドーモ……あ、アンタは……!」テヰが驚愕に目を剥く。浮遊する毛玉の残骸の向こうで、紫のオーラを放ちながら立っている見知ったヨウカイ。15

2012-09-03 19:39:52
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「無意味にここへ来るなと言ったはずでしょう」「ああいや、たまたま帰り道だっただけですよう」「帰り?よく言うわ、この先にはアイツの住処と大結界しか無いというのに」そのヨウカイ、すなわちメディスンは威圧的な口調で言い放つ。「ドーモ。……メディスン・メランコリーです」16

2012-09-03 19:44:33
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「ケッ、面倒な……。ドーモ、メディスン・メランコリー=サン。テヰ・イナバです」テヰはオジギの姿勢を保ちながら地面を蹴り、身を起こすと同時に前方へ跳躍した。なんたるヨウカイ脚力か、メディスンが振り向いた瞬間には彼女を遥かに追い越し、畑の中央付近まで到達していた。17

2012-09-03 19:46:42
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テヰは特徴的なふさふさした耳と尻尾を持つ、ウサギめいたというよりもウサギそのもののヨウカイである。姿通り脱兎のごとく逃亡に成功したテヰは、無名丘出口に佇む一人のヨウカイとそれにつきそうヨウセイの姿を認めた。赤と黒に分かれたゴシックロリータ風の衣装を着た、金髪のヨウカイ。18

2012-09-03 19:50:34
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「ドーモ、テヰ=サン。メディスン・メランコリーです。イヤーッ!」「えっ……グワーッ!」驚きに身を硬直させたテヰが正面からのダンマクを受ける!「アバーッ!」メディスンは息を吸い込みテヰのワン・インチ距離にまで近づくと、紫色の毒針を無数に吐き出す!「コンパロ!」19

2012-09-03 19:55:31
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毒針の直撃にあったテヰは痙攣を始める。「グワーッ麻痺毒!グワーッ!」「幻覚に怯えるなんてよっぽどの様ね。薬も毒も同じ、合法な薬なんてありえないわ」すでに彼女は侵入された辺りの毒を操り、自分の分身を見せていたのだ。「グワーッ!」「……」「アバッ……アバッ」「……」「…………」20

2012-09-03 19:59:00
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テヰが動かなくなったのを見ると、メディスンは踵を返し去った。その目は一切の慈悲を感じさせぬほど鋭く、青い輝きを放っていた。21

2012-09-03 20:02:01
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……ドンツクドンツクスパコンブンブン、ドンツクドンツクブブンブーン。ドタツンドンタタッ、スタタカカカカカ……イヨォー!重低音を響かせたロック歌謡ポップスが流れる、人里のほぼ中心部に位置する複合商業的施設。イザヨイ・サクヤは食糧調達のためにここへ訪れていた。23

2012-09-03 20:07:30
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その施設はスーパーマーケット部分が全体の半分ほどであり、人間ヨウカイ問わず人気は高い。サクヤは品揃えの豊富さとウシミツ・アワーでも店を開いていることに惚れ込み通うようになった。彼女はオーガニック食品だけを選別し、滑らかな手つきでカートへと入れてゆく。24

2012-09-03 20:11:48
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店内には「実際安い」「合法マグロスシ」「素材の良品」「実際安い」「4連トーフ」といったポップが飾られ、購買意欲を促進させる。等間隔に整列された棚の一つからオーガニック・トマトを手にすると、彼女は数分考えた後もとの位置に戻した。「夏のトマトは味が落ちると言いますわ」25

2012-09-03 20:14:03