山本七平botまとめ【ヒストリア/目撃者の記録①】/全てのしがらみから自由で”正確な記録”である回想記『虜人日記』

山本七平著『なぜ日本は敗れるのか―敗因21ヶ条』/第1章 目撃者の記録/10頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

26】思考への圧迫は一切皆無、軍事的圧迫はもちろん、アメリカ民主主義的圧迫もない。そこには「お前はかく考えねばならぬ」という思想的権威が皆無の世界であった。軍国主義は消えた、しかし「民主主義者になれ」と強制されたわけではない。従って、そういう擬態も必要でない。

2012-08-30 19:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

27】軍国主義の絶対化が消えたという以外では、過去はそのまま存続しており、人びとはごく普通に、軍国主義なき時代の普通の日本人がもつ伝統的常識でごく自然に対象を見た一時期である。

2012-08-30 20:28:11
山本七平bot @yamamoto7hei

28】新しい「タテマエ」も、その「タテマエ」を表象する「民生日本」とか「文化国家」とかいったスローガンも、そのスローガンを戦争中同様に騒々しく”奉唱”し強制する言論機関も、何もなかった。

2012-08-30 20:57:54
山本七平bot @yamamoto7hei

29】第一、新聞もテレビもラジオもなかった。そして小松氏は、この位置で、まだ過去とは言えないほど身近な過去とそれにつづく現在を、そのままに見、そのままに記しているのである。先日、小松真一氏の御子息にお目にかかったとき、氏は次のような意味のことを言われた。

2012-08-30 21:28:10
山本七平bot @yamamoto7hei

30】――自分は戦争を知らない。そしていま、ちょうど父がこれを書いたとほぼ同じ年齢になった。そしてこれを読んで、少しも違和感がない。あの情況で、あのような状態を見たら、こういう見方をし、こういう感じ方をするであろうと思われる通りのことが書かれている、と。

2012-08-30 21:57:55
山本七平bot @yamamoto7hei

31】本書(註:虜人日記)を読めば、おそらくすべての人が、同じようなことを感ずるであろう。一体これは何を意味しているのであろう。厳密にいえばこれは、「戦前」(終戦前)とはいえないが、「戦後以前」に、戦争について書かれた本であり、「戦後」の影響が皆無の記録なのである。

2012-08-30 22:28:13
山本七平bot @yamamoto7hei

32】これは、我々の常識とそれを基礎づける基本的価値判断の基準が、戦前も戦後も変わっていないことを示しているであろう。そして本書が提起している一つの問題は、なぜその常識を基準として国も社会も動かず、常に、”世論”という名の一つの大きな虚構に動かされるのかという問題である。

2012-08-30 22:57:54
山本七平bot @yamamoto7hei

33】これは戦前だけのことではない。日中復交前に本多勝一記者の『中国の旅』がまき起した集団ヒステリー状態は、満州事変直前の『中村震太郎事件』や日華事変直前の『通州事件』の報道がまき起した状態と非常によく似ているのである。

2012-08-30 23:28:11
山本七平bot @yamamoto7hei

34】こういう場合、「常識」は発言できない。それでいて常識はつねに変らず厳然と生きている。横井・小野田両氏がすぐに現在の社会に適合できたとて、このことを考えれば、少しも不思議ではない。ではそれでいてなぜ二人は、虚構の”非常識”の世界に生きつづけていたのか。

2012-08-30 23:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

35】だがそういう生き方は、戦後の日本の内地にも形を変えて生きつづけているであろう。本書は、これを解く一つの鍵と思うが、しかし話が先にすすみ過ぎたようである。この問題の探究は一先ず措き、ここでまた『虜人日記』出現の経過に戻ろう。

2012-08-31 00:27:54