【無分別】福間健二 2factory10

スロヴェニアの「詩とワインの日々」から戻った三日後の8月30日から書きはじめた作品。ほんとうに何も考えていなくて、行き当たりばったりの進行でしたが、七年前に行ったブルガリアとマケドニアのことも思い出しながら、亡霊たちに負けることなく生きている者が踊るバルカン半島の夢を見つづけました。だれでもなく、だれでもありうる「きみたち」の最初の像としてあらわれたバンド、ロロブリジーダの演奏も聞いてください。 ‪http://www.youtube.com/watch?v=3bbTgapWtRE
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福間健二 @acasaazul

ロロブリジーダ。ザグレブが拠点の、懐かしいイタリア女優の名前をもつバンド。歌って踊るのは、イーダとペトラ。吉増さんが結婚する夢を見たジーナの海からどんな時間の迷路をたどって、生きている者たちのためのこの夏、この出会い、この炸裂なのか。(無分別1)#2facotory10

2012-08-30 11:05:53
福間健二 @acasaazul

唇をかむきみたちは。東京の黒い下水道で。小さな鋭い目のきみたちは。何を追いつめて汚れるのだろう。ぼくがスロヴェニアに来て最初に見た夢では、剣道着のきみたち。ホテルの中庭で太極拳をするぼくにエイッと打ち込んできた。痛くはなくて、竹刀、いい匂いだ。(無分別2)#2facotory10

2012-08-31 07:55:42
福間健二 @acasaazul

痛くはないが、十九世紀、二十世紀、そして今日へと幼い線をつないできた「あこがれ」に躓く一瞬だ。だまされたふりして踊って、切り傷、いつのまにかあちこちにblack & blueの。分別と多感。イーダとペトラ。ごめん、どっちがどっちだかわからない。(無分別3)#2facotory10

2012-09-01 09:12:27
福間健二 @acasaazul

きみたちの音楽。そのうしろにまわる。だれにも説明できないトンネルを歩いてきた「悲しい父性」が最後の演技をしている。懐かしい人も新しい人も激しい雨に打たれて、出発できない朝。世界を劇的に抱きしめたかった詩人を葬る風がぼくのなかを通りぬける。(無分別4)#2facotory10

2012-09-02 07:44:55
福間健二 @acasaazul

ぼくは遅く到着し、職人の部屋に入れられた。何を作るのかは言われていないが、スペインやスコットランド、遠い土地からやってきた身分の高い人に仕える。そのための、よく聞こえる耳。ドアの外では、また雨。インクの雨。反抗的な分身が皿を割っている。(無分別5)#2facotory10

2012-09-03 12:14:32
福間健二 @acasaazul

「光が足りない」とパレスティナの詩人Ghayath が言った。「ぼくの詩は、全部盗んだものだ」。ナイフ、雲、墓地、ダマスカス、その腰のくびれへの、おりる道。いくらきつく縛っても、ほどけるものはほどける。今夜の収穫、濡れているものはバスルームに。(無分別6)#2facotory10

2012-09-04 08:03:50
福間健二 @acasaazul

タバコがすいたくて中庭に出ると、だれもいないのにひとりじゃない。足音、だれかの足音。朝の空、きみたちの見ている空。花ではなくて人間であること、恥辱だとしても、ひとりで潰れるためにそうなのではない。最後の一本になった BOSS に火をつける。(無分別7)#2facotory10

2012-09-05 09:22:36
福間健二 @acasaazul

息をすう。とめる。はく。この世界の、いろんなものがくたばって、はっきりと見えてきた首筋や膝の傷あと。興奮するけど、目をつむって、きみたちの内側の静かな船に乗って水の上を進む。ラジオから女性の英語の声。「セクシーって心の状態のことよ」。(無分別8)#2facotory10

2012-09-06 08:21:05
福間健二 @acasaazul

つまり、北川さんの言った「弱い心」だ。深夜の映像の、岡山の終わらない夏を歩く娘を見送って、ワインの壜の並ぶ路地に未知の口語を走らせるのは。ゴルダナとカティヤ、スロヴェニアの娘たちの心の状態。姿勢と鳴き声。虫たち、小さなものほど、生命は必死だ。(無分別9)#2facotory10

2012-09-07 08:38:28
福間健二 @acasaazul

いつも、なにか、とんでもない間違いを二つして、悪魔に勝ってしまう「うるわしい体」。「魂はさらにうるわしかった」中世のきみたちと別れ、毒は十分に吸って、ウィーンの空港で日本人旅行者の集団に出会うまでの、寒い密室。愛した。早口になっていた。(無分別10)#2facotory10

2012-09-08 07:40:24