【みんな、なにか言っている】福間健二 2facotry43
ざわざわと追いつめられ、段ボールの箱と箱のあいだに落ちる。「みなさんのために歌をうたっていました」と答えたいが、質問されてないし、見つけられてもいない。老人ホームから運びだした母の荷物のなかに何種類もの爪切りの入った箱があった。(みんな、なにか言っている1)#2factory43
2013-08-21 11:22:10雨を待っているのに雨が降ると困る事情がある。そういう生き方。ユイちゃん、ユマちゃん、マオちゃん、みんな好きなのにひとつも恋にしていない。半端な色の使い方と我慢で、夜と取引して、気持ちいい風吹くけど、草原の語っていることわかるか。(みんな、なにか言っている2)#2factory43
2013-08-22 07:54:57大声を出した。だめだなあと思いながら駅の階段をのぼった。青梅行、立川行、豊田行。どれも八王子まで行かない。プラットホームの女子中学生たち、ジャージで日焼けして何部だろう。可愛くない。八王子に行く用があったのは半年前までのぼくだ。(みんな、なにか言っている3)#2factory43
2013-08-23 09:43:46苦しそうに立っているおばあさんの姿が目に入らないふりをする。めんどうくさくなってなぞりかえされた正解を言う。きみたちとぼくの可愛くない理由の一部でしかないけど、八王子。有名すぎるラーメン屋と古本屋。ユーミンの実家、荒井呉服店も。(みんな、なにか言っている4)#2factory43
2013-08-24 08:21:39知っているってこと。何をなくして、だれに見送られているのか。逃亡者。汗のかわいた背中が痒い。土曜日の夕刻。好きな果物、桃。好きな場所、岬の先端。あるいは公園、図書館、安食堂。解くべき秘密はないけれど、事件をもつ。鐘が鳴っている。(みんな、なにか言っている5)#2factory43
2013-08-25 10:45:06事件。きみの呼び方がわからない。自分がかぶさっているべきネジからはずれ、血の匂いをかぎ、ぼくのポケットに逃げ込んでいたもの。「小さな神様」だとしてもいい。ぼくはきみを運び、この宇宙のさまざまなネジの音を聴く。洗濯機、停まったね。(みんな、なにか言っている6)#2factory43
2013-08-26 09:15:01フランゴ、アサード、やきとりも食べたくて。すぐに破れるもの、上手に使って。無用の、小さな点の集合となれば。八王子、拝島、新宿というコース。アテネ、バルセロナ、リスボンのつもりで。事件の追跡。ベッドでの「複写」、最小限にして。(みんな、なにか言っている7)#2factory43
2013-08-27 08:16:30拝島から乗った電車。人よりも景色のささやく声に眠気をもよおしてあいさつする。初対面、あたりさわりない質問から、どうしたろう。光る粒たち。里山に指令が飛ぶ五日市線、いや、銀河鉄道でしか許されない純粋病の「気持ちいい」を通過して。(みんな、なにか言っている8)#2factory43
2013-08-29 07:49:17そしてある日、ぼくはずぶぬれになり、使いそこなっている北の部屋も雨でいっぱいにするのだ。二人ですることを曖昧な数でするグループとの対決のための、その窓。すこし明るいのは、外、ビニール袋をかぶった実験材料が笑顔で戻ってくるからだ。(みんな、なにか言っている9)#2factory43
2013-08-30 09:20:49でも、どうしたというのだ。人生経験にならない八月。例外だらけの、接触の物語。材料と機会を得ても、やりなおす気にはならないのか。雑音の息子たち。まっすぐ遠くを見る目を、拝島の病院のスミちゃんの「たすけてください」に奪われている。(みんな、なにか言っている10)#2factory43
2013-08-31 08:11:27