【帰り道の天使たち】福間健二 2factory48

毎回思うのは、いままで書いたことのないようなものを書くこと。それも、遠くに材料を求めず、できるだけ「生活即アート」的にやりたいのです。それにしても、何をどう書くのか。いつも苦しいです。 今回は、書き出す日の朝、夢のなかで電車を乗りすごしてしまい、その中で正体不明の女性に「わたし、地震を信じません」と迫られていた。そこから書きました。どうも、珍しく抽象的になって、「生活即アート」からは遠ざかりました。 最初に見た夢で、電車を乗りすごす前、四十代の男性の詩人と二十代の女性の編集者と六十代のぼくの三人でいて、夜をどうすごすかを相談していた。それも出しそこなった。かわりに『神曲』のダンテが出てきた。ダンテが地獄をヴェリギリウスとめぐったように、ぼくも先輩詩人のだれかと歩きたくなった。でも、「地震、信じない」が「詩人、信じない」 続きを読む
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福間健二 @acasaazul

電車はおりるはずだった駅を通過して、友人たちは消えていた。「わたし、地震を信じません!」と叫ぶ女性がぼくに迫ってきた。どういう意味なのか。どういう夜なのか。石鹸の匂いと黒いストッキングと揺れが言う。「本物の自由はひとつしかありません!」(帰り道の天使たち1)#2factory48

2013-10-22 10:07:12
福間健二 @acasaazul

「それはセンタクの自由です!」ときのう破った地図が貼り合わされ、感情の川がつながった。月夜の、洗濯。いや、選択だろう。やさしくする自由、やさしくしない自由。見ろ、まだ揺れる画面のなかに彼女がいる。ツンツン、線路際を泣きながら歩いている。(帰り道の天使たち2)#2factory48

2013-10-23 10:24:49
福間健二 @acasaazul

そのモティーフ。その頬。その汚れとはにかみ。魔女のスーツの、クモの巣をはらって、「おとなになりたい」が交換可能な部位を点検している。その魅力。彼女になる自由、彼女にならない自由。タマネギとニンニクを食べた息。怖いもの、なくならないけど。(帰り道の天使たち3)#2factory48

2013-10-24 08:08:17
福間健二 @acasaazul

電車からおりている。逃げる影を追わないという常套で、眠たい炎は眠らせる。もう怒らないということじゃない。握手、しないさ。救いだった自動販売機の明かりの前で、迷う自由ともつれる線、「考える」と「感じる」が一メートルの距離を詰められない。(帰り道の天使たち4)#2factory48

2013-10-25 10:16:31
福間健二 @acasaazul

決定できない、という以上の、過失。ひとりの子どもが泣いて、それが伝染して、次、その次、その次の資料。切り札なしで案内された「地獄」の読み方。夜のなかにそこだけぽっと明るい広場があって、若者たちが酒を飲んで騒いでいる。そのわきを通った。(帰り道の天使たち5)#2factory48

2013-10-26 10:01:10
福間健二 @acasaazul

さびしい闇の方へ、あと戻りのきかない歩き方をして、とりあえず屋根のある場所で目の見えない老婆や牝牛と寝るだけでいいのなら、思い出をなぞる退屈な喜劇だ。さむい。国分寺駅北口。壊せるものは壊した。切り札なし。三十五歳のダンテもそうだった。(帰り道の天使たち6)#2factory48

2013-10-27 10:48:00
福間健二 @acasaazul

鉄条網で囲われた無人地区の、雑草たち。前にどこで会っただろう。ここでむきだしになっているのは。心を芯から凍えさせる寒さの正体は。戦争、千の嘘。地震、信じない。でも、あったことをなかったことにはできない。聞きまちがいよ。詩人、信じない。(帰り道の天使たち7)#2factory48

2013-10-28 08:06:46
福間健二 @acasaazul

だが、このぼくが停まらない電車からとびおりて、スパイのように月夜をさまよい、風の吹く囲繞地に立ちつくしたのは、どんな人と一緒だったからなのか。そしてどんな装置の命令にさからうための、この斜面なのか。すべる。すべりながら耳をかまれている。(帰り道の天使たち8)#2factory48

2013-10-29 10:22:48
福間健二 @acasaazul

人だとしたら、死んだ人。言葉だけが生きている。装置。だとしても、過程を生きている。耳をかむ。抵抗できないサーヴィス。だとしても、告げるべき「朝」が一方通行になって、スプーン、落とした、天使たち。ぼくはきみたちの養父の名前を知っている。(帰り道の天使たち9)#2factory48

2013-10-30 08:07:08
福間健二 @acasaazul

戦争、千の嘘。片付かない残骸のなかの低温動物。ひとつで針千本だから百万の針がその内側に刺さる。もう、どこも痛くないけど、責任者を呼んで。死ねない理由を知りたい彼女は言った。責任者、席にいない。彼は、彼女の息子は、まだ電車に乗っている。(帰り道の天使たち10)#2factory48

2013-10-31 10:10:38