【超放浪者、四月】福間健二 2factory31

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福間健二 @acasaazul

名古屋、大須。晴れた日曜日、たくさんの人がいた。子供も大人もいた。歩いている者も立ちどまっている者もいた。しゃべっている者も黙っている者もいた。食べている者も食べていない者もいた。目的のはっきりしないやつ、たとえばぼくだけど、泣きたいか。(超放浪者、四月1)#2factory31

2013-04-17 08:35:37
福間健二 @acasaazul

きらきらと、ここに舞い込む破片たち。描写され、飽きられ、海の底に棄てられたんじゃないのか。めんどうくさいな。薄暗がりに行ってのんびり泣いてもいられない四月だ。壊れやすい胸のかわりにふくらませていいものは? そのお腹じゃないことだけは確か。(超放浪者、四月2)#2factory31

2013-04-18 09:26:00
福間健二 @acasaazul

まだ名古屋。納屋橋、錦橋、伝馬橋。堀川沿いに歩いていると、あっ、流れ星。「おまえ死ね」と言ってくれた気がする。「もう少し待ってくれ」と、この単純な男は慢性的に左肩が下がっている。食べる。排泄する。眠る。あと、できないと困るのはなんだろう。(超放浪者、四月3)#2factory31

2013-04-19 07:55:19
福間健二 @acasaazul

噛みきれないものを噛んで忘れていた。噛んで、噛んでいるのを。この夜、この黒い水にのまれ、たぶんどの方向にも、おやすみを言いあう相手はいない。姿勢と口のあけ方に気をつけた天使論も、空ぶりだ。いいさ、かまわず立つ。歩く。これだ。どこまでも。(超放浪者、四月4)#2factory31

2013-04-20 09:38:17
福間健二 @acasaazul

泣いていい。人間だから。生きているから。「生きている価値ない」と言われても。この夜のおおもとの装置をこわせばいいとわかっても。ガードの下、一瞬の光に刺されながら、自分とおなじ泣き方をする怪物と格闘する。つよいなあ。それに美人の助手もいる。(超放浪者、四月5)#2factory31

2013-04-21 08:20:04
福間健二 @acasaazul

嘘は、つかない。だから泣く。靴底の四月。水のなかに落として弱らせる。その甲羅と肉のあいだにひそむ辛抱づよいアジアを追い出せるか。その蜜を一度知ったら、まず、忘れることはできない。でも、できなくても、こっちにはイメージの時間に飛ぶ脚がある。(超放浪者、四月6)#2factory31

2013-04-22 08:23:02
福間健二 @acasaazul

涙がこおって突きささる尖端をもち、移動の途中、それが青い光を反射した。「もっと、もっと怖いものは?」と運転席の彼女が尋ねている。むかし話。オオカミじゃなくて、天然痘の島じゃなくて、名古屋発動機の幽霊じゃなくて、きょうはその揺れる耳飾りだ。(超放浪者、四月7)#2factory31

2013-04-23 09:10:20
福間健二 @acasaazul

彼女は、天然ボケで。運のいい日もわるい日も。のんびりしていて。逃げ込んだ市場の裏にネギ一本落ちていないときもある。人見知り。人前で話すのが苦手。泣かない女としても有名。ぼくは楽しかった。でも別れるときにこう言っただけ。怪物くんによろしく!(超放浪者、四月8)#2factory31

2013-04-24 07:50:04
福間健二 @acasaazul

名古屋発動機の大幸工場にいた、ぼくが生まれる前の父に会うはずだったが、石に躓いて迷った。時間の旅。天然痘、戦闘機、それともガード下で食べたエビのせいか。いまは、左の肩から上腕部が痒くて、ナゴヤドーム前のサンマルク。「ホッとするひととき」。(超放浪者、四月9)#2factory31

2013-04-25 09:14:02
福間健二 @acasaazul

アローン、アゲイン。雨と静寂の、宵の口。あかるい星の報告はまだ。「この人の思いを読みとって、なにか言ってあげてください」と、ぬくもりの消えたシートの、忘れられた耳飾り。帰れない。帰らない。薄暗がりを求める父になって時間の裏側に石を蹴る。(超放浪者、四月10)#2factory31

2013-04-26 08:04:14