宮沢賢治『なめとこ山の熊』(彦一彦:画 ベネッセ)

「人間」と「熊」の善悪を超えた哀しい<いのち>の物語を読んでいきます。
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クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”「熊。おれはおまえを憎くて殺したのでねえんだぞ。俺も商売ならてめえも射たなきゃならねぇ。ほかの罪のねえ仕事していんだが畑はなし木はお上のものにきまったし里へ出ても誰も相手にしねえ。仕方なしに猟師なんぞしるんだ。”:続

2012-09-21 12:03:49
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”てめえも熊に生まれたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次は熊なんぞにうまれなよ。」”:宮沢賢治『なめとこ山の熊』(彦一彦:画 ベネッセ):続

2012-09-21 12:04:04
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

因があれば果が生まれる。生まれた果は新しい因となる。するとまたそれが新しい因となって次の新しい果を生む・・・因果は永遠に回帰する。ただし、螺旋状に輪を描きながら因果の位相はちがっている・・・そんな話にも読める。

2012-09-21 12:12:19
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”そのときは犬は小十郎が四十の夏うち中みんな赤痢にかかってとうとう小十郎の息子とその妻も死んだ中にぴんぴんして生きていたのだ。 それから小十郎はふところからとぎすまされた小刀を出して熊の顎のとこから胸から腹へかけて皮をすうっと裂いていくのだった。”:続

2012-09-24 17:39:48
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

それからあとの景色は僕は大きらいだ。けれどもとにかくおしまい小十郎がまっ赤な熊の胆(い)をせなかの木のひつに入れて血で毛がぼとぼと房になった毛皮を谷であらってくるくるまるめせなかにしょって自分もぐんなりして風で谷を下って行くことだけはたしかなのだ。 ”:続

2012-09-24 17:40:13
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”小十郎はもう熊のことばだってわかるような気がした。ある年の春はやく山の木がまだ一本も青くならないころ小十郎は犬を連れて白沢をずうっとのぼった。夕方になって、小十郎はばっかい沢(注7)へこえる峰になった処へ去年の夏こさえた笹小屋へ泊まろうと思ってそこへのぼって行った。”:続

2012-09-24 17:40:48
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

そしたらどう言う加減か小十郎の柄にもなく登り口をまちがってしまった。”:宮沢賢治『なめとこ山の熊』(彦一彦:画 ベネッセ):続

2012-09-24 17:42:16
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

(注7)ばっかい沢:ばっかい沢(バッカイ沢)は青森県青森市にある沢。小十郎は熊を追ってこんなところまで猟に来ていたのか。熊の行動範囲は広いとは聞いていたが・・http://t.co/eRYdxs1k

2012-09-24 17:43:13
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

クマに襲われ、82歳女性死亡 福島・農作業中に http://t.co/CWpUXJ9L:ご老人を襲うとは・・・不祥のクマに代わって、亡くなられた女性と御家族に謝罪するとともに、心からお悔やみ申し上げます。このクマにも賢治さんの「なめとこ山の熊」を読んで欲しい。(クマゴロー)

2012-09-26 15:08:51
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”なんべんも谷へ降りてまた登り直して犬もへとへとにつかれ小十郎も口を横へまげて息をしながら半分くずれかかった去年の小屋を見つけた。小十郎がすぐ下に湧水のあったのを思い出して少しやまを降りかけたら愕いたことは母親とやっと一歳になるかならないような子熊と二疋丁度が額に手をあてて”:続

2012-09-26 15:26:17
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”を向う遠くを眺めるといった風に淡い六日の月光の中の谷をしげしげ見つめているのにあった。小十郎はまるでその二疋のからだから後光が射すようにに思えてまるで釘付けになったように立ちどまってそっちを見つめていた。すると子熊が甘えるように言ったのだ。「どうしても雪だよ。”:続

2012-09-26 15:27:30
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”おっかさん谷のこっち側だけ白くなっているんだもの。どうしても雪だよ。おっかさん。」すると母親の熊はまだしげしげと見つめていたがやっと言った。「雪でないよ、あすこへだけ降るはずはないんだもの。」子熊はまた言った。「だから溶けないで残ったのでしょう。」:続

2012-09-26 15:28:23
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”「いいえ、おっかさんはあざみの芽を見に昨日あすこを通ったばかりです。」小十郎はじっとそっちを見た。:宮沢賢治『なめとこ山の熊』(彦一彦:画 ベネッセ):続

2012-09-26 15:28:40
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”月の光が青じろく山の斜面を滑っていった。そこがちょうど鎧のように光っているのだった。しばらくたって子熊が言った。「雪でなきゃぁ霜だねえ。きっとそうだ。」ほんとうに今夜は霜が降るぞ、お月さまの近くで胃(こきえ)あんなに青くふるえているし第一お月さまのいろだってまるで氷のようだ、続

2012-10-04 11:06:04
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”小十郎はひとりで思った。「おかあさまはわかったよ、あれなねえ、ひきざくらの花(注7)。」「なぁんだ、ひきざくらの花だい。僕知ってるよ。」「いいえ、お前まだ見たことありません。」「知ってるよ、ぼくこの前とって来たもの。」「いいえ、あれはひきざくらではありません。”:続

2012-10-04 11:06:39
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”お前とって北野きささげの花(注8)でしょう。」「そうだろうか。」子熊はとぼけたよに答えました。小十郎はなぜかもう胸がいっぱいになってもう一ぺん向うの谷の白い雪のような花と余念なく月光をあびて立っている母子の熊をちらっと見てそれから音をたてないようにこっそりと戻りはじめた。”:続

2012-10-04 11:07:16
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”風があっちへ行く行くなと思いながらそろそろと小十郎は後退ろした。くろもじの木(注9)の匂いが月のあかりといっしょにすっとさした。”:宮沢賢治『なめとこ山の熊』(彦一彦:画 ベネッセ):続

2012-10-04 11:07:33
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

(注7)ひきざくらの花:「コブシ」のこと。http://t.co/fjJAReJQ「キタコブシ」ともいう。モクレン科。和名:北辛夷。http://t.co/bJTLw9x8

2012-10-04 11:08:12
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

(注8)きささげの花:「高さ5~10m。中国原産とされるが日本各地の河川敷など、湿った場所に野生化した帰化植物。花期は6~7月。・・・果実は細長いさく果でササゲ(大角豆)に似るのでキササゲ(木大角豆)と呼ばれる。」(Wikipedia)http://t.co/AFYBLXq4

2012-10-04 11:09:18
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

(注9)くろもじの木:クロモジ(黒文字、Lindera umbellata)はクスノキ科の落葉低木。枝を高級楊枝の材料とし、楊枝自体も黒文字と呼ばれる。また香料の黒文字油がとれる。(Wikipedia)http://t.co/jAv9h1QL

2012-10-04 11:10:05
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”ところがこの豪儀な小十郎がまちへ熊の皮と胆を売りに行くときのみじめさと言ったら全く気の毒だった。 町の中ほどに大きな荒物屋があって笊だの砂糖だの砥石だの金天狗(注10)やカメレオン印の煙草(注11)だのそれから硝子の蠅とりまでならべていたのだ。 ”:続

2012-10-14 17:36:48
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”小十郎が山のように毛皮をしょってそこのしきいを一足またぐと店では又来たかというようにうすらわらっているのだった。店の次の間に大きな唐金の火鉢(注13)を出して主人がどっかり座っていた。 「旦那さん、先きごろはどうもありがとうごあんした。」 :続

2012-10-14 17:40:27
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”あの山では主のような小十郎は毛皮の荷物を横におろして叮(てい)ねいに敷板に手をついて言うのだった。 「旦那さん、そう言わないでどうか買ってくんなさい。安くてもいいます。」 「なんぼ安くても要らないます。」主人は落ち着きはらってきせるをたんたんとてのひらへたたくのだ。”:続

2012-10-14 17:41:05
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”あの豪儀な山の主の小十郎はこう言われるたびにもうまるで少しの畑からは稗がとれるのではあったが米などは少しもできず味噌もなかったから九十になるとしよりと子供ばかりの七人家内にもって行く米はごくわずかでも要ったのだ。 里の方のものなら麻もつくったけれども、”:続

2012-10-14 17:41:40
クマの『論点』 #みんくま草 @greenminkuma

”小十郎のとこではわずか藤つるで編む入れ物の外に布にするようなものはなんにも出来なかったのだ。小十郎はしばらくたってからまるでしわがれたような声で言ったもんだ。 「旦那さん、お願だます。どうか何ぼでもいいはんて買ってくんなぃ。」:続

2012-10-14 17:42:12
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