unpeu_k #twnovel 2012/8 「私は神々を咀嚼する」他

twnovelまとめ:その⑨(8月分)
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二月大笑 @unpeu_G

彼女が捕われていた沼は見かけより深く重かった。手を差しのべた私ごと呑み込んで頭上で閉じた。こうなるといくら叫んでも水面に波も立たないし向こうからこちらは見えない。あちらの私がいつも通りお茶を楽しむのが見えた。「私なんか助けて後悔してる?」彼女は静かにそう尋ねた。 #twnovel

2012-08-01 03:02:07
二月大笑 @unpeu_G

「そうですね、一人フリスビーとか」私は思い切って口にした。リポーターは発音せずに「一人フリスビー」と繰り返す。「自分で投げて追いかけるんです」既に後悔していたが続けて更に後悔した。しかし彼女はわかってくれた。「自分で自分を越えるのね?麻を飛び越える忍者みたいに」 #twnovel

2012-08-01 04:09:05
二月大笑 @unpeu_G

オフィス街のビルの間の小道は細い登り坂になっていた。その坂道は途中から舗装が途切れその先に大きな楠の木が見えた。何年も経ってからようやくその事を妻に打ち明けた。妻は静かに聞いてくれた。「時の流れが違うのよ。坂は下ると加速するから。」 #twnovelOFF #twnovel

2012-08-04 22:08:53
二月大笑 @unpeu_G

ああしまった、と思った時にはアスファルトに飛び込んでいた。真夏の夜の246のまだ温かいアスファルト。黒々として深そうで柔らかそうな地面に触れる、その瞬間まで本当にまるで永遠みたいだった。もちろん柔らかくなんてなく、打ち付けられて転がって打った骨にはひびが入った。 #twnovel

2012-08-05 09:29:49
二月大笑 @unpeu_G

食べる度殺していたのではいつか食べ尽くしてしまうが、伝統のスタミナ食でもある夏の味覚は守りたい。仕方がないので改良した。食料を大きく、私たちを小さく。こうすれば必要なだけ食べても食畜のダメージは小さい。それなのにやつらときたら蚊取り線香だの平手打ちだの… #twnovel

2012-08-05 23:17:56
二月大笑 @unpeu_G

Lady GAGAは高校の頃N.Y.のお嬢様校でいじめにあっていたという。「それを乗り越え輝く彼女は我々に勇気をくれますね」コメンテーターはそう締めた。そういうものなのだろうか。もしもまだLady GAGAじゃないGAGAが教室にいたら私には何ができるのだろう。 #twnovel

2012-08-07 02:31:53
二月大笑 @unpeu_G

浴衣で出かけようとしたら誰かにそでを掴まれた。誰もいないと思ってたのに。慌てて電気をつけてみたが確かに部屋には誰もいない。けれども出ようとするとまた暗闇の中で引き戻された。電気をつけたままもう一度。部屋のL字のドアノブに丁度たもとが引っ掛かった。 #twnovel #怪談じゃない

2012-08-07 19:07:16
二月大笑 @unpeu_G

暑くて寝苦しい夜だった。ウトウトと寝返りをうった時何かがドサリと落ちてきた。ちょうど顔から胸の上。長く柔らかく生暖かい。上に棚など無かったはずだ。生き物?怖くて動けない。そうこうするうちに血が巡り感覚が戻ってきてわかった。私の痺れた左腕だ。 #twnovel #怪談じゃない

2012-08-07 22:22:01
二月大笑 @unpeu_G

中高大と男ばかりの学校を卒業した故に女名の読み方がわからない。知っている絶対数が少ない。読み方のパターンがない。「絢子」に「史」に「木綿子」に「陽乃」、「奈子」って何だ「なこ」でいいのか?ぐるぐると考えてしまう 。読み方のわからない女の名前が頭をぐるぐる回る。 #twnovel

2012-08-08 21:40:27
二月大笑 @unpeu_G

彼女を怖がらせようと思って殺人事件の話をする。「死体をクローゼットに隠して出てくる液をせき止めるため東急ハンズで土嚢を買って…」彼女は嫌そうな顔をする。「だめよ土嚢じゃ間に合わないわ。高分子吸水材に埋めなきゃ。東急ハンズにならあるから。」 #twnovel #怪談じゃない

2012-08-09 02:06:22
二月大笑 @unpeu_G

「ここは軍の施設だったんですよ。」サマーキャンプの先生は言う。「あなたたちの地域の人も沢山訓練に来ましたが、土地柄というか何というか、楽天的な人が多くて脱走率が断トツで…」その説はすぐに証明された。お墨付きを得た僕たちは次の朝誰もいなかった。 #twnovel #怪談じゃない

2012-08-09 02:37:06
二月大笑 @unpeu_G

実行力のあるバカほど恐ろしい物はこの世にない。マッドエンジニアの彼女は車のガラスを液晶にしたと言う。ナビでも投影されるのか?「映像を逆接続したの。」加速するほど流れていく風景と逆からGが…二人で盛大に酔った。「何でこんなの作ったの」「いやなんか面白いかなーって」 #twnovel

2012-08-10 00:40:43
二月大笑 @unpeu_G

彼女はマッドなエンジニアだがロマンチストでもあるらしい。「ダイアモンドを作ったよ。」立爪の指輪を見せて来る。「光学迷彩の技術で屈折率を再現したの。リングが太陽電池でね。輝きは永遠じゃないけど。」陽に当てないと電池が切れる。輝かせるための努力。より本物の愛に近い。 #twnovel

2012-08-11 11:35:15
二月大笑 @unpeu_G

マッドなエンジニアの彼女はヘルメット状の球をかぶる。電源を入れると顔が映った。確かギャル系モデルの顔だ。「中の表情を読み取って外の顔に反映するの。アニメ顔とかも作れるよ。」しかしなんだか落ち着かない。「僕はいつもの君がいいな。」ギャルモデルの顔が赤くなった。 #twnovel

2012-08-11 23:12:42
二月大笑 @unpeu_G

治水争いは常にシビアだ。他社より流れの良い場所に新卒ポンプを置かねばならぬ。私もこうして吸い上げられた。今は吸い上げて回す側だ。効率的な採用をして村、違う社の生産を上げねば。主流を外れた浅瀬の水面も時々キラキラと光ったが、ポンプは深みにドカリと据えた。 #twnovel

2012-08-13 16:40:47
二月大笑 @unpeu_G

何でこの子は昔からダメな方へ方へ行くのだろう。その犬に触ってはいけない。その橋は渡らないほうがいい。その男を愛してはいけない。笑ってないでよわかるじゃないの。けれども何を言ってもそれはまさに脇役の言う台詞で、ああ主人公になれるのは彼女のような娘なのだと悟る。 #twnovel

2012-08-15 00:15:23
二月大笑 @unpeu_G

我らが影業界が何と月9の舞台になるらしい。まあ新鮮でいいかもしれない。監修役を頼まれた。「ヒロインはこの子が演じます。」すごくかわいい。影役なのに。「恋に落ちます。」え、影なのに?「アクションもします。」………影が?結局放送された月9はいつものように輝いていた。 #twnovel

2012-08-15 00:28:47
二月大笑 @unpeu_G

打ち捨てられた農園の大理石の館に住んでいる。紺色の空に銀の月。つる植物の伸びる音が聞こえるくらい静かな夜。私の爪の音だけが響く。月光が縞模様に落ちて無人の甘い香りがする。この白く輝く毛皮が色褪せるまでは待っている。いつか私の頭に槍を突き立ててくれる者が来るのを。 #twnovel

2012-08-16 01:22:08
二月大笑 @unpeu_G

今の若者には野望が足りん、という意見を参考に私は野望を売ることにした。主な顧客は団塊層だ。彼らが買って若者に贈る。なのでその年代にウケそうな野望ばかりを取り揃える。若者は贈られた野望を育てきれずにそっと捨てる。街には野良野望があふれる。それを私が捕ってまた売る。 #twnovel

2012-08-16 21:12:57
二月大笑 @unpeu_G

何よりも心配だったのは人喰族の村だった。なので着いたらまず訊ねる。「この村では人を食べますか?」「次の村では食べますか?」さてジャングルの孤島に見える村々も話の伝播は早い。「うちも聞かれた。」「食べたいのかな?」かくして彼の体験記、『人喰い森から帰還』は売れた。 #twnovel

2012-08-17 19:13:35
二月大笑 @unpeu_G

小さい頃に夢見ていたのはケーキの生えてくる森だった。雨上がりに伸びてくるケーキと絵本があれば何もいらない。もうちょっと大きくなるとパンの実る木が欲しかった。炭酸の泉、パスタの新芽。そして大人になった今、私はお米が成る田んぼと少しの好きな本を持っている。 #twnovel

2012-08-18 21:56:11
二月大笑 @unpeu_G

駅のホームで最終の新幹線を待っている。輝く山もせせらぎも今はすべて夜の闇の中だ。夏の香りだけが漂っている。見送りの人が袋をくれた。見てみると桃が入っている。大きく重く甘そうで濃い。「持ってけ。魔除けにもなるからさ。」レールを呑み込む闇の中から新幹線が入ってくる。 #twnovel

2012-08-20 12:12:53
二月大笑 @unpeu_G

人が入ってくる。それが最期の言葉だった。その場全員に緊張が走る。直ちに部屋は閉め切られ屋敷ごと結界を張られた。最後の資格者である叔母を平穏無事に送ることが一族最後の仕事である。その後目覚める私を含め全員がそう信じていた。 #ひって打って出た言葉が人生最後の言葉 #twnovel

2012-08-20 21:45:15
二月大笑 @unpeu_G

湧水の池は深かった。なまじ透明度が高いが故に見通せない深さが底知れない。大きな岩魚が何匹も泳いでいるのは見えるのだが、時々ありえないほど大きくかじられた状態で見つかった。観光客が投げ入れた硬貨も誰も拾わない。その深い所のきらめきを大きな何かが偶に遮る。 #twnovel

2012-08-21 23:21:03
二月大笑 @unpeu_G

本家の祖母は優しかった。良い高校に受からなくても免許が満点で取れなくても「女の子だから」で許された。料理や家事は苦じゃなかったし教えて貰った通りにすれば家庭科はいつも秀だった。ただその度に年上の従兄弟の道に刻まれた轍の深さを感じていた。悪い事に彼は真面目なのだ。 #twnovel

2012-08-22 17:16:25