ツイッター小説 お気に入りセレクト 2012/08/16

蒲公英 @haruka_tanpopo

人目を気にせずに泣ける場所を探して、辿り着いた夕方のプラネタリウムは、振られたばかりの女の選択としては間違っていた。なんなの、これ。夜の準備に勤しむカップルばかりじゃないの。ロマンチックな神話のナレーションに悪態をつく。星の数ほど男はいるなんて、嘘ばっかり。#twnovel

miecha @miechorz

#twnovel 茜の空を大量の茄子が埋め尽くす。送り火の上昇気流に押し出され御先祖が帰っていくからだ。後ろ髪を引かれる思いなのだろう、皆のろのろとしか進まないから、空で茄子が詰まってしまう。「あたしたちとおんなじね」動かないテールランプの列を横目で見て、娘が笑った。

Ｔ長@スマ逆②巻紙でも出たよ〜 @jemibiozoms

ひとを愛する事は、自分の頭の中にその人をもう一つ複製して住まわせる事だ。と、巳谷は言った。「でも複製は不完全、君と複製にはズレがある。だから修正しなくては」巳谷は由裏子の剃り落とした眉を丁寧に書き直した。「こうすれば、ほら、複製と同じになった」 #twnovel

キヨシロウ @kiyoshiro_aoi

#twnovel 部屋に帰るとタオルケットが人の形に膨らんでいる。誰だよ。めくり上げるとそれは抱き枕だった。なんだ。すると抱き枕が振り向いて言った。「やめてよ、今日は疲れてんだから！」俺からタオルケットを奪いとってくるまり背中を向ける。ちぇっ、仕方ない。今夜はソファで寝よう。

くまこ @kumacrin

ほら綺麗でしょ。虹が入ってるの。願い事してごらん。母はクリスタルのペンダントをかざして悪戯っぽく言ったものだ。僕には初めての虹。それが父以外の恋人からのものだと知ったのは、母が出て行った後だ。僕の虹は母が持って行ってしまった。母は、母は虹の願いを叶えたのだろうか。#twnovel

きりこや @userKirikoya

店員の無気力な呪文が聞こえた。ﾃｨｯﾎﾟﾝｶｱﾗｽｶ。客は無気力に呪文を返した。ｱﾗｾﾝ。闇夜。店を出た客は、背後から、優れて友好的な声を掛けられ、優れて友好的に脅され、優れて友好的に連行された。数年後、国は現金を全廃した。ﾃｨｯﾎﾟﾝｶは成功裏に役目を終えた。 #twnovel

正井/かぐやフェスに行きます @kelmscott_masai

仰向けに寝転がって本を読んでいると上からばらばらと活字が落ちてきた。文庫から落ちてきたものらしい。歯抜けの物語はもはや意味をなさない。携帯の文字もスクロールしたら弾き飛ばされてしまった。こうして私は失語していく。せめて供養のためと文字をオムレツに混ぜて食べた。 #twnovel

吉 @tabi__yoshi

一通の手紙が届いた。几帳面な文字が懐かしい筆跡で並ぶ。便箋から微かに薫る香で、共に過ごした夏を思い出す。「お元気ですか」そう書きかけてふと手を止める。続きを考えながら箪笥を開けて香を取りだし、マッチを摩った。漂う煙は、彼が私に語って聞かせた桜の香り。【一字千金】 #twnovel

Takao Rival @takao_rival

#twnovel 祇園に異能の舞妓が降臨した。彼女は両手より眩いプラズマを放ち、恐れおののいた人々は舞妓を崇める様になった。やがて舞妓を拝謁する為の宴が毎夜開かれる様になり、その宴の名を「…先生、私はマイコプラズマ肺炎の話をお願いしたのですが」「や、だから、舞妓プラズマ拝宴の」

falsewhere @nowherenotime

#twnovel それはまだ、船も翼も車輪も脚もなかった頃のことだ。蛇のようだった彼女は腹を傷だらけにして世界を這い回り、遂には二つにちぎれてしまった。そこで彼女は、頭の側を通りかかった男の股に、尻尾の側を男の尻に、それぞれ繋いだ。まあ歴史的には尻尾はないことにされているのだが。

二月大笑 @unpeu_G

今の若者には野望が足りん、という意見を参考に私は野望を売ることにした。主な顧客は団塊層だ。彼らが買って若者に贈る。なのでその年代にウケそうな野望ばかりを取り揃える。若者は贈られた野望を育てきれずにそっと捨てる。街には野良野望があふれる。それを私が捕ってまた売る。 #twnovel

@westwaist

舌先に触れる熱が肌の冷たさを奪う。喉の奥を犯す苦味と、鼻へと抜けてゆく香り。ジャズの流れに身を浮かべて、ゆらゆらとたゆたう。キーの音。小さな画面をなぞる指。テキストを睨む目。空になったカップ。みんなひとり。同じ水槽の中、透明な繭に包まれて、夜の波に揺られている。 #twnovel

日向日影🍊📖@文化系物書きVtuber（HUB） @hyuugahikage

#twnovel 彼は白い部屋で１日を過ごす。白い部屋にはテレビが１台置いてある。テレビには自動録画装置がついていて、常に録画した２４時間前の番組を流している。彼はそのことを知らない。彼が外界の情報を得るのはこのテレビだけである。さて、彼が生きているのは今日なのか昨日なのか？

茶屋 @chayakyu

ミイラとりがミイラになって、ミイラがミイラとり。テロリストを逮捕するはずだった捜査官は、クーデターの成功により、立場は逆転してしまう。一夜にして価値観は変わった。いや、そう思ってるのは俺だけかもしれない。本当は気づいていないのは俺だけだったんだ。　#twnovel

birdboiled @birdboiled

#twnovel 山の上の美術館で、うつくしい子どもの絵を見る。それから坂を降りて、水族館を見に行く。わたしの隣には透明なうつくしい子どもがいつの間にかそっと立っていて、一緒に青い水の揺らめきを見上げている。銀の魚群が輝きながら通りすぎ、わたしたちは声をたてずに笑う。ひっそりと。