ついった小説「夢と狐とパラレルワード」
2.「もうイイだろ!?約束は守ったんだ!」 目の前で這いつくばる男が、その手をずる、と伸ばす。 「あれアンタ、俺に指図できる立場だっけー?」 俺が笑いかけてやったのに、そいつはひっ、と顔を引きつらせた。 #ykp
2010-07-25 03:13:117. ユーリはとても雄弁で、その後の俺の反論も、いとも簡単にひっくり返してしまった。しまいには「君って図星だと黙るんだね?」と自信満々で目を覗き込んでくるから、更に何も言えなくなってしまった。 #ykp
2010-07-25 03:17:428. 「ねぇ、君ってなんて名前なの?」彼女の色素の薄い茶色い髪が街灯に照らされてキラキラ光る。気の強そうな瞳に、華奢で折れてしまいそうな肩。今まで周りにこんなタイプの異性なんていなかったから、俺にとって、彼女の全てが新鮮だった。 #ykp
2010-07-25 03:24:539. 「・・・なんで教えなきゃいけないの。」女ほど自己中で面倒な生き物はいない。彼女に興味はあったが、正直面倒事にはもう関わりたくない。いたずらっ子のような笑みを浮かべるユーリを前に、その日は無視して家に帰った。 #ykp
2010-07-25 03:31:3210. しかし、それ以来俺がその路地に足を運ぶ度に、ユーリは姿を表すようになった。 「うっさい。俺についてくんな。」「それって照れ隠しなの?」ユーリと出会って一週間も過ぎると、そんな会話がお決まりになっていた。 #ykp
2010-07-25 03:34:3312. 口の中に広がる錆びた匂いの元凶をぷっ、と吐き出す。 「いって・・・」 殴られた頬をそっと触ってみる。鈍い痛みとじんじんと熱を持つ患部は、触っただけで分かるほど腫れていた。 #ykp
2010-07-26 00:21:5013. 「部屋に帰ったらリナに怒られそうだな、さすがに。」同居人(といっても俺は居候だが)の青筋を浮かべた姿を思いだして、俺はうなだれた。目線を落とした先に、殴った相手の血がついた拳が目に入る。 #ykp
2010-07-26 00:22:3414. 俺は忌々しいこの手で、一体どのくらい人に暴力を奮ってきたのだろう。子供の頃は殴られる側だった俺が、唯一自分の存在を主張できるのは、昔は毛嫌いしていた暴力そのもののおかげだった。 #ykp
2010-07-26 00:23:2815. 「自分を守れるのは自分しかいない」そう悲しそうに呟いたリナを思い出し、もう一度その手を強く握った。 リナを信じてるわけじゃない。互いに利用してるだけだ。一緒につるんでいる仲間も然り。 #ykp
2010-07-26 00:24:0916. 愛情も友情も、幻想でしかない。そんな言葉を作ったのは、どこかの平和ボケした暇人なのだろう。 例え、血の繋がった家族であったとしても所詮は・・・ #ykp
2010-07-26 00:24:4218. ふと耳に入った音の方を振り返り目が合うと、ユーリがいつものように微笑みを返してくる。 音の正体はどうやら、彼女のポニーテールを結っているリボンの鈴だったようだ。 #ykp
2010-07-26 00:27:1219. もし機嫌が良い時なら、いつもと違う髪型を褒めてやっていたかもしれない。 だが生憎今日は世間話を楽しむような余裕を持ち合せていなかった。 #ykp
2010-07-26 00:27:5320. 「毎日暇みたいだね。今日は何の用?」 溜め息をついて、少し厭味を含めた挨拶をする。ユーリはそれに答えず、じっと俺の目を覗き込んでくる。 近い。縮められた距離に俺は、言葉通り困惑した。 #ykp
2010-07-26 00:30:2021. ガラス玉のように澄んだ彼女の瞳が、俺の何かを見透かしているようで、一刻も早く視線から逃れたかった。どくん、どくん。どこから聞こえるのか、頭の中で自分の心臓の音が鳴り響く。 「あのさ」 #ykp
2010-07-26 00:31:5923. 「ーーーっ!?」 一気に頭の中の音が消えた。顔に集まった血液がサァッと引いていくのが自分でも分かる。その言葉を言われた瞬間、俺はユーリから距離をとった。 #ykp
2010-07-26 00:34:5024. 顔面蒼白で飛び退いた俺に、ユーリは数秒きょとんとして首を傾げていた。本来なら聞こえたはずのその鈴の音も今は聞こえなかった。 #ykp
2010-07-26 00:35:4625. 「・・・ふざけんなよ!!」 思い切り怒鳴ると、ユーリはようやく俺が動揺してることに気がついたらしかった。 細い肩をすくませながら、彼女は誤解を解こうと俺の方へ一歩足を進めようとした。 「あ・・・怒らせるつもりじゃなくて、今のはただ、」 #ykp
2010-07-26 00:37:04