- seiko120181
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来週また来よう、そんで海に行こう。約束したしな。誰も誘わないほうがよさそうだ。俺だけが過去と現在を繋いでるわけで、彼女はもうそれが連続することを望んでいない。まあ、まだ若いし、有りと言えば有りな気がした。俺も似たようなモンだしな。
2012-09-22 22:23:42それから仕事用の電話にキチガイメッセージが届くようになる。鬱陶しいので、元Aの職場に行く。別に問題を解決しようとしたわけじゃない。謎を解きたかったわけでもない。鬱陶しかったから止めさせたかっただけだ。
2012-09-22 22:29:42結局職場を訪ねても本人は出て来なかったし、あまり知らない人に色々説明するのも面倒だったので、アパートの前でキチガイ女に返信しまくることにした。相変わらず気味の悪いところだった。キチガイメッセージのせいでますます不気味に感じる。
2012-09-22 22:36:07なんていうか、別に座敷女みたいなヤツではなかった。普通の、ちょっと派手目なOLって感じだった。普通に携帯ポチポチしながら、目の前のアパートから出てきた。ちょっと威圧感みたいのはあった。「この電話、仕事で使うんだよね。いたずらすんのやめてくんない?」とだけ言った。
2012-09-22 22:42:23女なほとんど無表情のまま、Aの悪口というか、いかにAが職場の男たちをたらしこんで自分を嘲笑ったかとかイカれた感じの妄想を早口でまくし立てていた。かなりイラッときたが、殴るわけにもいかないし、喧嘩のしようもないので、じっと様子を見ていた。
2012-09-22 22:49:1515分くらい話していたような気がする。べつにすることもないのでよく顔を見ていたはずだが、今思い出そうとしても女の顔がよく思い出せない。ただ、このアパートには、この女しか住んでいないこと、今はもう住んでいないAがまだ住んでいるつもりで話していることはわかった。
2012-09-22 23:04:12女が立ち去るのを待って、車に戻った。なんとなく、アパートだけでなく、周囲の建物にも人の気配がない。いつもより慎重に運転して、高速に乗って、家に帰った。
2012-09-22 23:08:12女からの変なメッセージは止んだ。翌週にAに電話をかけた。繋がらなかった。前に待ち合わせた川沿いの町に行ってみた。だが前回家まで行ったわけではないので、どこに住んでいるのかわからなかった。一応町中を探した。賃貸アパートっぽいのは数が限られている。
2012-09-22 23:15:052件ほどコレかなというアパートがあったので、全部のチャイムを押してみたが、ほとんどの部屋から返事がないので、これは埒があかないと思った。
2012-09-22 23:18:23電話は繋がるけど誰も出なかった。あの女を問いただそうと思ったが、やぶ蛇になりそうな気がしてためらっているうちに数日が過ぎた。写真は見知らぬアドレスから送られてきた。返信してみたが返事はない。さらに数日経って、Aから連絡があった。
2012-09-22 23:31:48実家に戻ったという。家族に対する誤解も解け、やり直せそうです、と明るい声で話していた。あまり詮索する気にはならなかったが、一応会う約束をして電話を切った。
2012-09-22 23:36:10確かに住み慣れた町(俺も住んでいる)の明るい陽の光の下では、Aは少し健康を取り戻しているように見えた。バイト時代の同僚とも、連絡を取っているという。どういう心境の変化だ? などとは聞けるものではない。そもそも何があったのかすら、俺にはよくわかっていないのだ。
2012-09-22 23:42:22ただ写真のことだけ訊ねてみた。画面に表示して、手渡した。瞬間、彼女は汚いものでも触れたみたいに「ヒッ」と手放した。いつも大真面目で、本気で、曲がったことが嫌いな子だった。俺に隠し事をしたことも、嘘をついたこともない。俺は彼女の真っ直ぐさにいつも心打たれた。尊敬していた。
2012-09-22 23:50:19「どこか、わかるのか?」と訊いた。 彼女はうなだれて「知りません」と言った。表情は見えなかった。詮索するのはよそうと思った。「ならいい。元気だせ。いつか遊びに連れて行ってやる」と言って、俺は初めて自分から彼女の体に触れた。左耳の上あたりの。少し髪に触れただけだが。
2012-09-22 23:58:57あの写真の場所がどこなのか、俺はまだ探している。キチガイ女からのメッセージは二度と来ない。あの気味の悪いアパートにはあれから二度行った。普通に大勢住んでいるようだったが女の姿はなかった。Aは大学2年のときに地元に戻って就職した為に別れた、2つ年上の元彼氏とよりを戻して嫁に行った。
2012-09-23 00:07:25実際に何が起きたのか、今でもよくわからない。もう詮索する気もないのだが、写真の場所がどこなのか、そこに何があるのか、知りたいと思うことがある。気がつくと、写真の場所を探して車を走らせている。
2012-09-23 00:13:15あのときに使用されていた、すべての電話番号とアドレスが今では有効ではない。結局俺は当事者でないから、謎解きも真相を知ることもできない。断片は断片のままだ。写真の場所がわかったところで、やはり真相はわからないと思う。
2012-09-23 00:18:33あのアパートで封筒の中身を「見た気がした」ときと同じで、あの写真を初めて見た時、言葉でうまく言い表せないが、そこで行われていることを「見た気がした」のだ。
2012-09-23 00:29:38記憶はないのに、実感がある。暗く、猟奇的で、騒々しい大量の気配。ひどく不安になる。女の死体が山中で見つかるニュースを見る度に、その場所へ車を走らせる。暗い衝動だな。
2012-09-23 00:42:44