◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その六)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第6回目
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真上犬太 @plumpdog

◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その六)」◆

2012-09-30 17:58:39
真上犬太 @plumpdog

◆低く唸る。羽虫が周囲を取り囲むように。「心拍数、血圧安定。脳波も睡眠状態を示しています。脳磁界にも乱れなし」「消磁に気をつけて。こいつは普通の個体より出力が強い」刻むような機械音、耳障りな刺激。あらゆるノイズ、自分に取って、この世界の全てが、耳障り。◆

2012-09-30 18:07:14
真上犬太 @plumpdog

◆「まず下半身から」断言する声。それまで感じていた布の感触が消える。痺れと冷たさが伝わり後にやってくる無感覚。「拍動に乱れ、血圧、呼吸、反応あり」「急げ! 脊髄さえロックしてしまえば……」何かが背を撫でる、冷たい、堅い突起が這い登る。やめろ……やめろ!◆

2012-09-30 18:12:00
真上犬太 @plumpdog

◆耳元で気圧が高まるような耳鳴り。脳の中が痺れる。襞の奥の奥、そこから染み出す熱い流動を感じる。消えてしまえ、何もかもを破壊、全てのものを壊せ!「電磁発散増大! 干渉が……」腹に響く崩壊音、破裂、爆裂、引き裂け砕ける無慈悲な装置の火花が、閉じたまぶたの向こうで焼ける。◆

2012-09-30 18:15:46
真上犬太 @plumpdog

◆見えないはずの世界が、脳の中で展開する。つや消しされた白い壁、煙を吹く機械、かぶせられた巨大なボウルのような装置。自分の腰につき立つ、長く細い鍼。麦わらの和毛が、ちりりと逆立った! 「……す」食いしばった歯の間からもれ出る呪詛。「殺す!」◆

2012-09-30 18:20:16
真上犬太 @plumpdog

◆引き抜き、投げ捨てた鍼が根元まで壁に突き刺さる。痺れが引き、暖かさが戻る。同時に怒りが、目に映る全てを高潮のように覆い尽くした。視界を覆う赤い帳、充血し、鏖殺に漲った双眸が、うろたえ、這いつくばる無毛のサルを射る。◆

2012-09-30 18:23:51
真上犬太 @plumpdog

◆敵、敵、敵だ。全て破壊しつくすための肉! 引き裂き、捻り折り、砕き散らせ、脳漿と血漿を撒き散らすべき頭陀袋だ! 「ク……ァ」五体の筋肉が一つの目的へと収斂する。それは、体を一個のバネ化し、殺戮人形と変えるたわみ。腰が落ち、同時に己の重みを二つの足が支える。◆

2012-09-30 18:27:03
真上犬太 @plumpdog

◆「取り押さえろ! スタンネットを!」白衣の男、周囲に指示を飛ばすその標的に、体が一気に近づく。世界の明度が下がり、影と光が曖昧になる。加速する、全てがぬるいゼリーのような大気に漬かり、その中ですら、自分の体は動く。手が、白い首筋にするりと滑り込む。◆

2012-09-30 18:29:56
真上犬太 @plumpdog

◆「ア」触れた部分が生暖かい、その皮膚の下で血が通い、血管が脈動する。ぐい、と手に力がこもる。圧迫された気管を、喘鳴が漏れる。「ガア……アアアアア!」不快、不快不快不快、圧倒的不快感! 握り締めている手から伝わる感触、生きている感触、それがこの上もなく不快!◆

2012-09-30 18:34:40
真上犬太 @plumpdog

◆「ウオオオオオオオオアアアアアア!」湧き立つ嫌悪、流れ出す憎悪が握力に乗る。砕けろ、今すぐ消えろ! お前の不愉快な、生きている感触を消してやる! 「ヒッ! ガ……おあ……あ」圧迫された血管が指の下で脈打つ。気管が半ばつぶれ、血泡がわき立つ。あと、一押し。◆

2012-09-30 18:39:31
真上犬太 @plumpdog

◆「やめなさい!」生を刈り取ろうとしていた手が、すべらかに声の主に殺到する。犠牲者の血泡と涎に汚れたそれが、おろかな相手の喉笛を貫く楔になって振り抜かれた。「あ……」凶手は、その軌道半ばで止まった。同時に腕の中で、鈍く何かが砕ける音。急制動された間接が、肉の内で弾けた。◆

2012-09-30 18:46:25
真上犬太 @plumpdog

◆それは、じっとこちらを見つめていた。人の似姿をとりながら、決して人ではない。彼女は、麦わら色の腕をそっと手に取った。「大丈夫。大丈夫だからね」体が震える、砕けた関節の痛みが、急に強く感じられていく。同時に額が、痛み始める。◆

2012-09-30 18:54:25
真上犬太 @plumpdog

◆どろりと血が流れた。裂けた額から流れていくそれが、眉間を通り鼻筋を流れ、涙になって滴り落ちていく。「ソフィ」しわがれた声が漏れる。目の前の女性を確かめるように体を寄せる。「もう、どこにも、行かないでくれ」言葉もなく抱きとめる体、甘い香り、心地よい暖かさ。◆

2012-09-30 19:00:21
真上犬太 @plumpdog

◆急激に何もかもが遠ざかっていく。痛みも、憎しみも、暖かささえも。体が消えうせ、意識も消えうせていく。その忘我の闇の中に沈みながら、クイは己を照らす二つの星を見た。灼熱する憎悪と、白熱する慈愛の、二つの輝きを。◆

2012-09-30 19:05:14
真上犬太 @plumpdog

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2012-09-30 19:22:57
真上犬太 @plumpdog

◆「んじゃ、行ってくる」「いってらっしゃい」ぱたぱたと手を振るデルフィは相変わらずご機嫌そのもので、悩みのかけらも無いように見えた。電子ロックの掛かる音を聞きながら、オミットしていた『電感』を展開した。◆

2012-09-30 19:28:19
真上犬太 @plumpdog

◆イメージは銀色に脈打つ血管で出来た蜘蛛の巣のよう。それを生み出したのは、アパート先代のセキュリティと連動する制御チップ、それからドア自体の動きや錠前の動きをつかさどるモーターや配線から発散される電磁界だ。◆

2012-09-30 19:31:57
真上犬太 @plumpdog

◆その中のいくつかの糸に触れ、調子を確かめる。その瞬間、こめかみに弾けるような刺激が伝わる。「ちっ」クイは不機嫌そうにいくつかの糸を指で切った。切れた糸は解け落ち、虚空に消えていく。その光景を見送った後、チップに意識を強く差し込んで、短く言葉を発した。◆

2012-09-30 19:36:25
真上犬太 @plumpdog

◆「須弥山通りのレモネード」その言葉を受けて、蜘蛛の巣の一部が僅かに組み変わる。パスワードの変更を終えると、そのまま表通りに出た。『デルフィ』『なに?』『パスワード変えておいたから外出るとき、気をつけろよ』『うん。でも、今日は外に出ないからへーきだよ』◆

2012-09-30 19:53:38
真上犬太 @plumpdog

◆階段を降り、通りに出る。狭い路地には人気は無い。太平天国の中心部に近いこの辺りは、多少金に余裕があって、目立ちたくない住人のためのエリアだ。もちろん人間もほとんどは入ってこない。『物売りとか部屋に入れんなよ』『はいはい。あ! 帰りにおみやげ買ってきて!』◆

2012-09-30 20:03:13
真上犬太 @plumpdog

◆『何がいい?』『なんか甘いの!』『……わかった。適当に買ってくるよ』他愛ない通話を終えると、クイは大通りを目指した。押し寄せてくるにぎやかさを感じつつ、今度は別の回線へ意識を繋げた。その途端、強いノイズが頭の中に放り込まれた。『ハイ、Wild Life太平天国事務局です』◆

2012-09-30 20:14:17
真上犬太 @plumpdog

◆ひどく神経に障るリンクを感じつつ、送波する。『今からそっちに行くから、仕事の件で』『かしこまりました。えっと、クイさんでよろしいですね』『見れば分かるだろ』リンク先の声は少し途切れ、それからとりなすように答えを返した。『はい。それでは、お待ちしています』◆

2012-09-30 20:27:31
真上犬太 @plumpdog

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2012-10-02 23:56:20
真上犬太 @plumpdog

◆「いない、ってのはどういうことだ」くたびれたスーツの男は、いらいらと吐き出す。『もうしわけありません。現在、全ユニットが出払っています』「お前はどうなんだ」ドーベルマンは、口吻を済まなさそうな形に歪めた。『ご存知のはずです。私は外には出られません』「くそっ!」◆

2012-10-03 00:05:25
真上犬太 @plumpdog

◆宇都宮警察、人事装備課。数多くの警察官が行きかい、同時に公用NBCが所属するはずの場所で、捜査第一課の刑事、遠山佐衛門(とおやまさえもん)は、その厳つい顔をさらに厳めしく歪め、傍らの優男に向き直った。「行くぞ」「……行くんですか?」「当たり前だ!」◆

2012-10-03 00:05:35