グロタンディークの思想

森田 真生 @orionis23

西と東の「壁」を崩壊させて、世界を一元化していくことが、豊かな未来を開く道なのではない。それよりも重要なのは、いたるところにたくさんの蝶番を発見し、異質なもの同士が、自分の独自性を保ったまま、おたがいの間に真の対話がつくりだされていくことだ。（中沢新一『森のバロック』）

森田 真生 @orionis23

『森のバロック』終盤で、中沢新一は西の「ポリフォニー」と東の「マンダラ」を対比させて議論をしている。

森田 真生 @orionis23

ポリフォニーもマンダラも、どちらも世界の多様性を引き受ける方法としては共通しているが、ポリフォニーは、それが響きわたる空間を前提とするのに対して、マンダラはその空間の生成そのものを問題にしているという点に両者の本質的な差異があると中沢さんは指摘する。

森田 真生 @orionis23

「空間の生成そのものを問題とすること」は、グロタンディークの数学の最大の関心であった。与えられた空間を前提とする物理学ではなく、空間の生成と自己創造そのものを問題とすること。

森田 真生 @orionis23

空間の生成、いちばんのはじまり、生成の瞬間を、グロタンディークは「母」と呼んだり「母胎」と言ったりした。グロタンディークの自伝には「母」という言葉が繰り返しあらわれる。

森田 真生 @orionis23

あなたは、母から生まれ、母に守られ、母の強さから糧を与えられた子供です。そして子供は、母、もっとも近いもの、もっとも知られているものから飛び出してーー母、限りないもの、永遠なる未知、不思議さに満ちているものとの出会いへと向かうのです...。「ひとつの作品を巡るプロムナード」

森田 真生 @orionis23

僕はこのグロタンディークの思想に魅せられて、数学の道を進む決心をした。そこには何か、東と西を結ぶ、蝶番が隠されているような予感がした。空間の生成そのものを問題にする数学... もう少しグロタンディークの言葉に耳を傾けてみよう。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 1】私はここでアインシュタインのモデルをも含めて、物理現象にたいして現在までに提案されているモデルについて、ひとつの批評をしておきたいと思います。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 2】時空とその構造は、観察者の過去と未来を含む、現在の、侵し得ない与件として取られているということ、また同時に、時空のこの部分はその過去と未来から逃れてしまっているということです。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 3】ここに、結局は、観察者から独立した存在と構造をもったある「絶対」があります。ところが私たちがよく知っているように、観察者は、その過去の影響をうけているだけでなく、自分の自由意志と自分の中にある創造性によって、その将来に対して影響を与えます。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 4】したがって観察者の前にある時空の構造自体、とくに物質とエネルギーの流れによって叙述される構造は、あらかじめ「すべてできあがっている」ものではなく、ある程度は、未来に向かって観察者が進むにつれて「自己創造している」のです。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 5】多分ここに、時空の構造を、おのおのの「場」で連続的な創造としてみるばかりでなく、この構造の土台である、時空自体がそれにつれて自己創造しているものとしてみるようなモデルを構想する余地がありそうです。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 6】もちろん、私は「観察者」ということで、人間の観察者だけでなく、宇宙のおのおのの「場」で、おのおのの時点で活動しており、宇宙の息吹き、あるいは生命そのものとして存在している創造的な知性をも考えに入れています。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 7】この「息吹き」は、現在までに構想されたモデルに存在しないだけでなく、禁ぜられているように思います。

森田 真生 @orionis23

【グロタンディーク 8】明らかに、この息吹きを含めるには、いままでに提出されているすべてのモデル、つまり「出来合いのモデル」に欠けている柔軟性、内的なダイナミズムを与えるために、時空という基本概念についての深い再考察が必要とされるでしょう。