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山本七平bot @yamamoto7hei
①戦後早々に処刑されたN大尉の処刑直前の様子を見ていたTさんは二十年たっても私に言う、「Nさん、カンバスベッドに腰を掛けて、ポカーンと空を見てましたなあ。本当にポカーンと。だが何にも見えてないんだ。こっちゃあソレ見て、夢を見ているとしか思えませんでしたよ」と。<『私の中の日本軍』
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②白昼夢というのだろうか、「百人斬り」の資料を見るたびに、私は全く同じ感じになる。だがこれは白昼夢ではない。勿論小説でも神話でも伝説でもない。二十世紀の我々の目の前で起ったのだ。なぜ起ったのだろう。偶然か?違う。第一これは「起った」のではない。人間が起したのだ
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人間が起したことなら、その原因は人間に探究できるはずである。ではなぜ起したのだ。――「侵略戦争が人間を荒廃させたから」か。 違う。 そんな言葉は、本当は何も探究する気がない人間の逃げ口上なのだ
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④この事件にあるものは、実は言葉だけであり、主役は「虚報」という不思議な実在なのである。従って「虚報とは何か」を追究しない限り、何も解明できないはずである。
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⑤私は「諸君!」と「週刊新潮」の関連記事を読んでいるうちに、不思議なことに気づいた。私がもっている資料はこれだけだが、この三冊すなわち「諸君!」二、「週刊新潮」を読んだだけで、この「百人斬り」が「大本営発表」と同じように構成されているのに気づいたのである。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑥いわば「大本営発表」にも「浅海特派員発表」にも共通する一つの原則があり、両方ともまことに忠実にその原則に基づいて構成されているという事実である。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑦今もこういった虚報が横行しているのかどうか、それは私は知らない。 しかし、もし横行しているなら、おそらく同じ原則に基づいていると思うから、まずこの原則を追究してみようと思う。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑧「大本営発表」というと、今では鬼面人を驚かす誇大表現、もしくは数字を意味する場合が多いように思うし、もちろんそういった面も確かにあり、また「百人斬り」という表現自体にもそれと同じ面があるが、その実体、すなわち「虚報作成の原則」は、それとは違うのである。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑨大分前のことだが、雑誌ともパンフレットともつかないもので、大本営報道部員であった人の『大本営は国民をだましたのではない』という一文を読んだが、その人の主張も「百人斬り」の関係者同様、要約すれば「我々は見たまま聞いたままを発表した」のだということであった。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑩すなわち「前線からの報告書を見たまま」「無電を聞いたまま」発表したので、ちょうど浅海特派員が「百人斬りの現場を見たわけではない」が、聞いたことに「信憑性があるから」書いたといっているのと同じように、「報道部員が一々前線で確かめることは出来ない。
山本七平bot @yamamoto7hei
我々はその報告を信憑性があると信じたから発表したまでだ」ということであった。こうなると悪いのは「ホラ同様のいい加減な報告を送ってきた前線」と「ホラを吹いた二少尉」であって大本営でも浅海特派員でもない、ということになる。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑫そして両方とも疑問の余地のない証拠と、立派な証人とがいるのである。大本営氏があげた証拠とは比島作戦である。フィリピンというとすぐ目がいくのでついつい読んだわけだが、こちらの証拠については後述することにして、(続
山本七平bot @yamamoto7hei
⑬続>まず浅海特派員の場合を見ると、その証人、佐藤カメラマンは実に立派な証人である。氏が語る情景、二少尉がしゃべり、浅海特派員が筆記し、疑問を感じた佐藤カメラマンが質問しているその情景、これこそまさに「見たまま聞いたまま」を記憶している通りに話している事を如実に物語っている。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑭勿論人間には記憶違いがあり、報告書と事実との間には誤差があるが、その事と「虚報」とは、実は関係がないのである。 従って佐藤カメラマンの言葉は「誤差」はあっても「虚報」ではなく事実である。従って二人がしゃべったという事は、前線から報告があったのと同様、あくまでも事実である。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑮では二少尉が「なぜ」「何のため」にこんなことをしゃべったかという問題は「戦場心理学」乃至は「軍隊心理学」とても言うべき一種の「異常心理学」の問題で、私もそういう心理状態になった者を見たことがあるので、実を言うと興味の焦点はむしろそちらにあるのだが、(続
山本七平bot @yamamoto7hei
⑯続>それを解明するには、まず「虚報」を完全にはぎとらねば無理だから最後にまわし、ここではただ次の事だけを言っておこう。 内臓から出血するといわれる程のひどいストレスから、一瞬不意に解放されると、その瞬間、人間は一種酔っぱらったと同様の状態になるという事である。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑰「百人斬り競争」の末尾の向井少尉の長広舌をもう一度読んでほしい。ロレツの廻りかねる酔っぱらい同様だという事に気づかれるであろう。それだけではない。彼はとんでもない事を口走っているのである。それは前に「文藝春秋」で指摘したが、絶対に口にできない事、「赤筒」即ち毒ガスである。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑱とてもとても正常な心理状態でない。(註:戦闘による怪我が癒え、また戦闘が終了した事によって)強度のストレスが不意に除かれると、人間はこうなるのが当たり前なのである。この部分は鈴木特派員が向井少尉がしゃべるままに筆記されたと証言しておられるが、誤差はあってもその通りであろう。
山本七平bot @yamamoto7hei
⑲そして氏はそれが、紫金山の”激戦(これは事実でないが全体的に戦闘状態終了の意味なら事実に近い)”が終った直後だと言っておられる。それならば赤筒も含めて、この長広舌は理解できる。 それを「飛来する敵弾の中……」だとは! それをするから何もかもわからなくなるのだ。

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