〔AR〕その21前半

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:その20(http://togetter.com/li/394278) 続きを読む
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BIONET @BIONET_

「がっちがちに型から入りすぎよ、鱗」 そして、二人の少女は笑いあった。 「じゃあ、これあげるね」 ひとしきり笑った後、鱗は携えていた紙包みから一輪の白薔薇を阿求に差し出した。それは、生花に髪留めを付けた特注品である。 「まぁ、よく採れた一輪差しね。頼んでいた甲斐があったわ」

2012-10-24 21:28:01
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その花弁の優美な開き具合は、一切の虚飾をはね除けるかのように輝いている。早速、阿求は、普段と同じようにそれを髪に取り付ける。 「へへ、まぁね。それにしても阿求ちゃんがお祭りでめかし込むなんて、今年は暖冬になって花が咲き乱れちゃうかなー」 「酷いわね。私だっておしゃれするんだから」

2012-10-24 21:28:26
BIONET @BIONET_

「はいはい。それじゃ、私は家に戻って着替えてくるから、また後でね」 「うん。時間になったら竹の広場で」 妖精のような溌剌さで、鱗は阿求の進む道とは反対方向へと駆けだしていった。 鱗の姿が見えなくなったところで、阿求は街道を緩やかに歩く。

2012-10-24 21:29:29
BIONET @BIONET_

鱗に頼んでいた花を待っていたため、『Surplus R』との待ち時間はもうすぐの刻限であったが、待ち合わせ場所はもう目と鼻の先である。ちなみに、麟とは後々『Surplus R』と共に竹の広場の人形劇を鑑賞する予定だ

2012-10-24 21:31:34
BIONET @BIONET_

場所は、竹の広場と人里の入り口の間のほぼ中間点にある、石造りの橋が掛けられた池だ。周囲は円形に整備され、丁度ほかの街道と十字の交点をなしている。 日本建築作法の池と、西洋建築由来のアーチが組合わさったなんともアンバランスなもので、それ故に人里の中でも目を引くランドマークの一つだ。

2012-10-24 21:32:25
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その調和のとれてなさが、建造された明治初期という時代を物語っているようにも感じられる。 ここを待ち合わせに決めたのは阿求の判断だ。人里の入り口を真っ直ぐ進めば辿り着くここなら、里外に住んでいる『Surplus R』であっても比較的容易にこれるだろうという目算からだ。

2012-10-24 21:35:46
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阿求は、通行人の邪魔にならないよう、里の入り口を向いて橋のたもとに立ち、用意していた札を取り出す。『Surplus R』のサインが書かれた札だ。これを掲げることが、『Initial A』として『Surplus R』を待つ文字通りのサインとなる。

2012-10-24 21:37:59
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懐中時計を確認する。時刻は予定の十分前。周囲を見渡すが、阿求のように札を掲げた人物は見あたらない。というより、皆主要な街道や広場に集まっているため、ベンチすら設置されていないこの池の周りは、ほとんど人がいない。

2012-10-24 21:38:25
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阿求にとっては都合が良い。このランドマークに近づく人物を注意深く観察していれば、おのずと待ち人を見つけることができるだろう。 「ドキドキするなぁ……どういう人なんだろう」

2012-10-24 21:38:41
BIONET @BIONET_

さとりは、他者との空中衝突を警戒しながら、瓦屋根の上を飛翔する。 里を離れて体調を整えるのに思ったより時間がとられ、待ち合わせ時間まで十分を切った。 しかしその甲斐あって、さとりは待ち合わせ場所となるアーチのある池の場所をしっかりと特定できた。また、気分も上向きになってきた。

2012-10-24 21:42:15
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距離を置いて上空から里を見たとき、祭りの活気がオーラのようにさとりには見えた。疲れるはずだ、とさとりは内心苦笑する。しかしその活気も、密度が濃いのは地上の方であり、少し浮かべば大したことはなかった。やはり、人ごみの中を歩くのは良くなかったのだろう。

2012-10-24 21:42:51
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『Initial A』と逢うには、また地上には降りなければならないが、短時間であれば重圧に耐えられる自信がさとりにはあった。 (ようは、気の持ちようね……楽しい時間を過ごせば、周りもきっと気にならなくなる) もうすぐだ。もうすぐ逢える。さとりは待ち合わせ場所を見据える。

2012-10-24 21:43:26
BIONET @BIONET_

石造りのアーチと苔むした池の不可思議な共存。その橋のたもとに、一人の少女がいる。周囲には他に人物はいない。 秋晴れのまぶしさに眩みながら、さとりはその少女が、文字の書かれた札を掲げていることを認めた。 (あの人だ!)

2012-10-24 21:44:54
BIONET @BIONET_

まだ文字がうまく読める距離ではないが、間違いない。あの少女こそ、『Initial A』に他ならない。 心臓の鼓動が高鳴ると共に、さとりは加速した。一気に距離を積め、彼女の目の前に降り立つのだ!

2012-10-24 21:45:58
BIONET @BIONET_

着地位置を確定させるために、さとりは、少女にフォーカスする――。 (――!?) 突如、ガンッ、という音が、さとりの頭を殴りつけた。

2012-10-24 21:49:47
BIONET @BIONET_

『Surplus R』とは幾度も手紙をやりとりしたが、阿求にはまだまだかの人物の全体像がつかめていない。文字のタッチや語り口調から、おそらくは女性ではないかと考えているが、色々と憶測をたてても、結局は直接逢ってみないことにはわからない。

2012-10-24 21:50:50
BIONET @BIONET_

ただ、話したいことはたくさんある。この二ヶ月間の文通でも、多くのことを語り合った。しかし、交わしたいと願う言葉は、尽きることを知らなかった。 早く逢ってみたい。気持ちははやるばかりだ。阿求は、もうすぐ指定の時刻を示す懐中時計と、周囲の情景をせわしなく交互に見渡す。

2012-10-24 21:52:22
BIONET @BIONET_

と、喧噪の中に、風を切る音がした気がした。 反射的に、阿求は視線を空に向けた。 「――へ!?」 なんということか。阿求めがけて急降下してくる、少女の姿! 阿求はとっさに横に跳び退こうとした――が、それよりも前に、阿求のつま先一尺の地点に、少女は顔面からダイブした!

2012-10-24 21:52:53
BIONET @BIONET_

「むぎゃ!?」 「ひゃあ!?」  悲鳴と共にうつ伏せに倒れ伏した少女は、顔面を打った痛みで、痙攣するように震えた。 「だ、大丈夫ですか!?」 阿求は少女に駆け寄って屈むが、そこで逡巡する。空中から地上に、顔面から突っ込んで無事で済むはずがない。手当ができる者を呼ぶべきだろうか?

2012-10-24 21:54:17
BIONET @BIONET_

だが、予想外なことに、阿求が行動を起こす前に、少女はゆっくりと身を起こした。帽子を被っていたが、落下の衝撃で位置がずれ、頭を動かした時点でそれは地面に落下した。 「あ、あたたた……」 そうして、露わになる、紫色の癖毛。帽子の中にまとめていたのか、セットが乱れていた。

2012-10-24 21:55:48
BIONET @BIONET_

「あ、あの……今人を呼んで…………ッ」 癖毛を揺らしながら、少女は阿求の顔を見上げた。それで、阿求は少女の顔を初めて確認できた。 土で汚れている。それは当然だった。にもかかわらず、少女の顔には、血はおろか、擦り傷さえできていなかった。

2012-10-24 21:56:42
BIONET @BIONET_

いや。 それも重要ではなかった。 阿求は、凍り付く。

2012-10-24 21:57:05
BIONET @BIONET_

「……?」 一方で少女は、落下の衝撃で朦朧としているのか、目の焦点が合っていない。故に、今視線を交わしている相手の顔がどうなっているのか、よくわからない。 「す、すみません、突然……そちらこそお怪我は」 少し呂律の回らない口調で、少女は阿求に話しかける。 反応はない。

2012-10-24 21:58:38