◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その八)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第9回目
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真上犬太 @plumpdog

◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その八)」◆

2012-10-25 19:31:28
真上犬太 @plumpdog

◆(前回のあらすじ)◆

2012-10-25 19:44:56
真上犬太 @plumpdog

◆(人の似姿にケモノの顔を持つ人工生命体《NBC》。ネットワークを機械の補助なしで瞥見し、自在に操る彼らは、22世紀の日本において、あらゆる社会に浸透した異形の知性だ。その一人であるクイは従属するべき人間に不信感を抱く『壊れた』存在としてNBCの自治領「太平天国」に生きていた)◆

2012-10-25 19:45:44
真上犬太 @plumpdog

◆(宇都宮警察の遠山の査察によって、自分の勤め先を失った彼はNBCの職業を斡旋するNGO団体《Wild Life》で新たな職を探していた。そこで再び遠山と出会い、人事総括のNBC、モルドレッドに彼を補佐する仕事を紹介されたのだった)◆

2012-10-25 19:47:21
真上犬太 @plumpdog

◆太平天国と宇都宮市街を繋ぐ一本の高架橋。新国道123号線と呼ばれたそれを、一台の車が疾走していた。対向車も無く、街灯も無い。行く手には光の粒を積み上げた摩天楼が幻の山稜を形作り、バックミラーでは太平天国の朧な生活光が、蛍のごとき輝きで弱々しく明滅している。◆

2012-10-25 19:53:27
真上犬太 @plumpdog

◆そんな、人工の光たちに追いやられた夜が、この国道の上で濃縮され、わだかまっていた。泥土のように粘りつく闇。物理的な厚みすら感じる闇を、ヘッドライトが切り裂いていく。◆

2012-10-25 19:58:51
真上犬太 @plumpdog

◆車内には抑えられた電気モーターの駆動音と、補修の行き届いていない道に、タイヤが跳ね返るときの振動のみが響く。車内に居る者たちはひたすらに押し黙る。嫌悪感を横溢させた沈黙は、この道に入る前から続いていたもの。クイと遠山によって生み出された、敵意の毒を源にしていた。◆

2012-10-25 20:08:48
真上犬太 @plumpdog

◆「よ……よかったですね」重くのしかかる空気を払おうと、声が絞り出される。井垣と呼ばれた若い刑事は、後部座席からマニュアル操作に集中している遠山に笑いかける。「これで多少ましになりますよ」「何がだ」「だって、ほら、無事に増員できたわけだし」「……」◆

2012-10-25 20:14:09
真上犬太 @plumpdog

◆鋭い視線で射すくめられ、それ以上水を向けられないと悟った彼は、傍らの毛玉に苦笑を向けた。「とりあえずよろしくね。クイ君だっけ」「……面白い奴だな、あんた」にこりともせずクイはホストと見間違えそうな軽薄な男に吐き捨てる。「最近の警察は備品に挨拶するのか」◆

2012-10-25 20:17:36
真上犬太 @plumpdog

◆「あー……いやその」「そうだ。そいつはあくまで仕事道具。余計な会話は必要ない」「そりゃよかった。俺もあんたとは喋りたくないって思ってたところだよ」そこで初めて、お互いの視線が絡み合う。青白い火花が散るほどの凝視。まじりっけなしの嫌悪が車内に充満していく。◆

2012-10-25 20:25:08
真上犬太 @plumpdog

◆「……」こみ上げる胃液を我慢するように、口を結んで井垣が押し黙る。重い沈黙は、無機質な声によって破られた。『宇都宮まであと十キロです。手動制御制限区域に入ります』「……井垣、プライオリティシートな」「……はい」指示に従い、若い刑事はポケットの中からケースを取り出した。◆

2012-10-25 20:32:17
真上犬太 @plumpdog

◆手のひらに載る程度の、クロムメッキされたそれを開くと、一枚の薄い、青色の透明板と取り出す。「それじゃ、クイ君。これを」「ああ」手にした板の感触を確かめると、クイはそれを見つめる。複雑な紋様を施された、それは『プライオリティシート』と呼ばれるNBC用の命令用具だ。◆

2012-10-25 20:35:37
真上犬太 @plumpdog

◆表面に施された紋様は、NBCがそれぞれの職業に就く際に覚えこまなければならない法規、制約、基本的な職務についての解説、そして、その職場における命令者への服従義務といった情報を圧縮したものだ。それを読み込むことで、NBCは晴れて人間の世界に従属することになる。◆

2012-10-25 20:38:16
真上犬太 @plumpdog

◆クイは紋様を見つめ、瞬きを一つする。彼の瞳はカメラのシャッターのように、さっきまでの画像を切り取り、知覚した。その知覚と同時に、記憶野の奥底に定着していたデコード用の解析情報層が浮かび上がり、莫大な情報となって脳内に広がった。◆

2012-10-25 20:41:27
真上犬太 @plumpdog

◆法規……国際法における原則、日本国憲法中に定められた人工生命体の取り扱い、物体、動産、情報機器。その全てにOKとYESの行列を叩きつける。下されるのはあらゆる法令の定める権利の行使の許可。日本国というコミュニティへの一時的参加。◆

2012-10-25 20:45:07
真上犬太 @plumpdog

◆自己の再定義……日本国政府への服従、警察組織への服務、任務遂行上の身分と権利、禁則事項、自分に割り当てられた専用のアクセス権限、アクセス禁止項目、使命、優先順位、国民の安全と財産の保護、命令の服従を最優先。戦闘行為の一部解禁、威圧的な文言、支給される装備品の目録。◆

2012-10-25 20:48:12
真上犬太 @plumpdog

◆一つの項目を参照するたびに他の項目へのジャンプを余儀なくされ、それぞれが相関しあい、複雑な索引を要求される。全ては同期されなければならず、その全てを飲み込むことで、クイの認識に新たなレイヤーが敷設される。挿入・展開・再定義。それは公僕として自らを組み直す行為。◆

2012-10-25 20:58:51
真上犬太 @plumpdog

◆「リブート完了」ふっと息を吐くと、クイは傍らの井垣刑事にシートを手渡した。「はやいね……もう終わったの?」体感時間は日をまたぐようにも思えたが、実時間の経過は一分程度に過ぎなかった。「拾い読みしただけじゃないのか」運転席の男は、言葉とは裏腹なそっけなさで嘲る。◆

2012-10-25 21:05:29
真上犬太 @plumpdog

◆「いいえ、遠山警部。本官は日本国の定めた『人造知性体の製造および使用に関する法律』NBC行動法に基づいた承認行為を行い、命令を正常に受諾いたしました」ぎょっとしたような顔でこちらを見るオヤジに、クイは皮肉気に口元を緩めた。「こんなもんでいいかい? 遠山ザエモン」◆

2012-10-25 21:28:16
真上犬太 @plumpdog

◆「この……クソネズミが」「文句は良いからさっさと制御をこっちにまわせよ。そろそろNBC制御下だぜ」「その前に拝命させないと」井垣の言葉に苦い顔をしたものの、遠山は鬱陶しそうに手を振る。「とっととやれ」「はいはい……それじゃクイ君」「ああ」◆

2012-10-25 21:28:32
真上犬太 @plumpdog

◆「グリニッジ天文時間20:23:00を以って右のものであるところの人造知性体クイ、製造番号XXX号を日本国政府、宇都宮市警の管理下に置き、服務規程に基づく行動とNBC行動法3条および6条における権利を承認。市警の二級刑事に任命する」◆

2012-10-25 21:30:24
真上犬太 @plumpdog

◆「……現時刻グリニッジ天文時間20:23:00を以って、日本国政府の定めた法規を了解し、宇都宮市警の服務規程を遵守する。同時にNBC行動法3条および6条における権利を受容し、市警の二級刑事を拝命する」◆

2012-10-25 21:30:38
真上犬太 @plumpdog

◆やり取りを終えたクイの意識がハンドルとエンジンに伸びる。同時に手動制御をカット、遠山の手が一瞬空転した。「おい!」「まもなく宇都宮市街五キロメートルです。緊急時以外の手動制御は警察車両でも禁止されております、警部殿」そう言うクイの顔は慇懃かつ、悪辣な笑みを浮かべている。◆

2012-10-25 21:38:11
真上犬太 @plumpdog

◆「……了解だ。クソネズミ」◆

2012-10-25 21:38:23
真上犬太 @plumpdog

◆~中断します。次回更新は未定です~◆

2012-10-25 21:40:53