狙撃手の昔語り

相変わらず続いておりますゾンサバ二次創作。 凄腕スナイパー椿の過去話です。 本文ではあまり触れられていませんが、前提としてBL要素あります、ご注意を。
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ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 中将殿。呼びかけるとぽつりと呟かれる。ああ椿、遅かったな。申し訳ありません。謝ることではない。ぞっとするほど冷たい声。中将殿、少し離れて下さい。嫌だ。ほんの少しの間ですから。嫌だ。振り返った顔には一切の表情が失われていた。美しい人形の様に、栗色の瞳は動かない。

2012-11-07 12:16:32
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 思わず後ろから抱きしめ、血塗れの小さな体にそっと囁く。…カエ様。びくっと小さな体は腕の中で震えた。カエ様。嫌だ。はい。こんなの嫌だ。はい。はらはらと、栗色の瞳から大粒の涙が零れ、地面に散った。抱きしめた?蓮見に表情はない。ああ。おそらく俺にも表情はない。

2012-11-07 12:18:23
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep どうせあんたのことだ、後ろからだろう。…悪かったな。……そこは正面から抱くとこでしょーよ、椿さん。お前がした様にか。あれ?あの日のことは何も見てないっつってなかったっけ。見てはいないが察しはつく、今のお前のようにな。取り乱したのは後にも先にも、その時だけ。

2012-11-07 12:19:55
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 俺が初めて見る彼女のドレス姿は黒い喪服で、皮肉なことに彼女の美しさを引き立てて参列者の目を惹いた。葬式の時も涙一つ見せず、それが気丈に映り皆の涙を誘った。次の日からは何事もなかった様に軍服に袖を通し俺達に指示を出す。だが袖には喪章。首には鎖に通された婚約指輪。

2012-11-07 12:22:39
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 部隊の皆は悟っていた。彼女がそうしているのは喪に服す為ではない、大事な伴侶を奪った者達への抗議だ。彼女の怒りの刃だ。三ヵ月後、中将殿を手篭めにしようとした軍幹部をダガーで斬りつけ失明させた。故意か偶然か、婚約者の属していた派閥と敵対している派閥のトップだった。

2012-11-07 12:24:04
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep それが復讐だったのかは誰にも分からない。ただ、軍服の襟元を乱され、返り血を浴びた中将殿はあの時と違って取り乱しもせず、涙も見せなかった。かけつけた俺に、遅い、とだけしか言わなかった。その時だ、俺が逃げ出したくなったのは。俺はいつも間に合わない、と痛感したのは。

2012-11-07 12:26:34
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep そこは、抱きしめとくとこだ、椿さん。俺を睨みながら蓮見は言う。汚れたお姫様をあんたが抱きしめなくて、誰が守る。…お前に何が分かる。自分でも驚くほど怒りに満ちた声が出る。それでも蓮見は怯まなかった。婚約者と馬鹿な軍幹部の血の、どこに違いがある。

2012-11-07 12:28:46
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep お姫様はどっちでも一人で戦ってたんだろう? やめてくれ!やめねえ!どうしてそこで支えてやらなかったんだよ!あんたしかいないじゃないか!あんたがいなくなったら、お姫様は本当に一人ぼっちじゃねえか!何でそんなこと出来るんだよ!

2012-11-07 12:29:48
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 蓮見の表情は痛みを堪えるかの様で、まっすぐ見ることが出来ない。 この強さが、あの金髪の青年にだけ向けられているのか。だとすれば、向けられた方は、何と苦しいだろう。何と幸せなことだろう。約束を、違えたと。ぽつりと俺の口から出た言葉に、蓮見は顔をしかめる。

2012-11-07 12:30:58
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep あの方に謝られた。お前との約束を違えた、幸せになれなかったと。婚約者が亡くなった日の夜、言われた。椿さん。蓮見の声が揺れていて気付いた。俺の目から涙が流れていることに。俺なんぞに、誓うからだ。そう思った。あの方が俺に謝ることなど何一つないというのに。

2012-11-07 12:32:02
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep だから離れたかったのだ。俺はあの方の幸せ一つ守れぬ。あの方を幸せにすることも出来ぬ。どんなにあの方に望まれても、傍にいる資格なぞない。資格なんて、いらねえよ。蓮見の声も震えてる。大事な奴の傍にいたい、それだけでいいじゃねえか。

2012-11-07 12:33:40
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep …蓮見。なに。今はお前を守る。…うん。お前を守りきれて、 もしまだあの方が俺を望んでくださっていたら、その時は。…うん、俺を利用したらいいよ、椿さん。お互い様だから。

2012-11-07 12:34:40