◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(その十一)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第12回目 第1回目はこちら http://togetter.com/li/372910
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真上犬太 @plumpdog

◆「連絡はまだかっ!?」「来たらとっくに報告してるっての!」「先輩っ、これ以上無理ですよ! 退却した方が!」「一歩でもその場を動いてみろ! 俺が後ろからドタマぶち抜いてやる!」混乱が渦を巻き、ストレスが灼熱する。そこに、声は唐突に降った。『よぉ、楽しくやってるか、兄弟?』◆

2012-11-14 00:31:03
真上犬太 @plumpdog

◆割り込んだ声は、クイの耳朶のみを打った。『お前は……ヒュープか!?』認証を受けると同時に、ブルーの野球帽を被ったコアラのイメージが視界にかぶさる。事務室の時と違い、生き生きした表情のヒュープ。『始めましてだな、わが兄弟』『俺がいつお前の兄弟になったんだよ!』◆

2012-11-14 00:33:35
真上犬太 @plumpdog

◆『気にするな。俺たちはみんな兄弟。このくそったれな世界に産み落とされた同胞さ』やけに渋みのある、鬱陶しい喋りのコアラは強制通信回線でデータを捻じ込んでくる。ハッキング阻止の情報と目の前の狂人への対応指令。『俺達がバックアップする。このバカ騒ぎに蹴りをつけろ』◆

2012-11-14 00:36:11
真上犬太 @plumpdog

◆脳裏に展開するアーケードのマップ。同時に『はぁい、そっちの調子はどう?』『僕らも配置に付いたんだねー』『クイ刑事、無事ですか』同僚たちのアイコンがマップに点灯。ロブとぼたんは対面の車両の陰、ヒートは天井に。いつの間にか到着していた彼らに、クイは二の句をつけなかった。◆

2012-11-14 00:39:10
真上犬太 @plumpdog

◆『現場指揮の上山警部から命令は受け取っています。遠山警部に報告後、ブリーフィングを。20秒の結合許可をいただきました』『了解……「おい、おっさん!」「口に聞き方に気をつけろシラミたかり!」血走った目の遠山に言い放つ。「きたぜ」報告を受けると、遠山は鼻を鳴らし、銃を構え直す。◆

2012-11-14 00:43:47
真上犬太 @plumpdog

◆「指示は」「俺たちが先行、あんたらは援護。細かい攻略ルートは俺らのブリーフィング終了後端末に送る。現場指揮の人間が許可済みだ」「よし、やれ」迷い無い遠山の承認に、一瞬クイの動きが止まり、僅かに口元を緩めた。「了解」。そのまま意識の線を延ばし、仲間と結合した。◆

2012-11-14 00:44:35
真上犬太 @plumpdog

◆その途端、クイの意識が五つに分かれる。ぼたんの目が自分を見つめ、ロブの耳が聞こえないはずの対岸の音を伝える。天井のヒートの感じる風と、彼が中継するヒュープの情報が、それぞれに降り注いでいくのを感じた。そして、仲間たちのそれぞれがクイの現場を把握していく。◆

2012-11-14 00:46:37
真上犬太 @plumpdog

◆『あら、テロ課の牛山ちゃんを土つけたのね、やるじゃない』『僕よりも早いんだねー。今回のアタッカーはぼたんとクイで決まりなんだねーっ!』『私はバックアップに回ります。《イン-セイン》関係では自重しているようにと言われているので』『俺が避妊してやるってのに、上の連中は』◆

2012-11-14 00:49:18
真上犬太 @plumpdog

◆軽口を叩きあいながら必要な情報を交換、均質化する。『じゃあ、ぼたん、俺、ヒートの順な。《イン-セイン》とやるのは初めてだから、ヘマったらフォロー頼む』『うふふ、そんな殊勝なこと言わなくてもいいわよ。期待してるから』『そろそろ時間だぜ』『みんながんばろー!』『行きましょう』◆

2012-11-14 00:51:20
真上犬太 @plumpdog

◆きっかり20秒、結合から覚めたクイが天井に情報を投げ、見えざる光跡が待機していた全職員の情報端末に降り注ぐ。「おっさん《限定解除》!」「舐めた口聞くな毛玉が!」悪口と同時に抜き放たれる翡翠色のプレート。「《限定解除:対重犯罪者制動》!」クイの片目がシャッターを切った。◆

2012-11-14 00:53:00
真上犬太 @plumpdog

◆同時に、脳の奥底に掛かった錠が外れる音が響く。プライオリティシートによるNBC能力の制御封印を一部解除する命令媒体『アルカナグリフ』によって、全身のニューロンが目の前の犯罪者のみ敵対行動を許される。同時に、身の内に荒れ狂うアドレナリンが、痛烈に皮膚を刺激する。◆

2012-11-14 00:54:19
真上犬太 @plumpdog

◆麦わら色の和毛の下、炭酸のようにあわ立つ暴虐の興奮に、クイが背を丸める。『さぁ、行くぜ』この世のいかなる獣にも似ない、一匹の猛獣は、己の全てを爆発させた。◆

2012-11-14 00:56:32
真上犬太 @plumpdog

◆『どっ、せえええええええいっ!』野太い咆哮に、狂人の銃火は一瞬途絶え、同時に地鳴りが大気を震わせる。二メートル近い体躯のイノシシが前面に長大なシールドを構え、猛然と突進した。「ヒャアアアッ!」鋼の兵器が殺意の吃音を叩きつけるが、装甲で火花を散らせるのみ。◆

2012-11-14 16:54:11
真上犬太 @plumpdog

◆『当たると痛いわよぉっ!』加速した重機のごとき突進に、固まっていた男たちの二人が道を譲る。残った一人の狂気に濁った瞳の中に、タワーシールドの巨影が拡大「ゴブゥヘアアッッ!」鈍く重い皮袋が叩きつけられる音と共に、全身の骨を粉砕された体がバレエ選手のように回転を決めて吹き飛ぶ。◆

2012-11-14 16:56:33
真上犬太 @plumpdog

◆「ヘゲエッ!」「イギッ!」仲間の惨状を気にも留めず、繰り人形のような無様な動きで、がら空きのイノシシの背中に銃口を突きつける男達。「ちょーっと待つんだねーっ!」声と共に降り落ちるヒート、その腰からずるりと引き抜かれるのは、金属片を重ねて作られたベルト。◆

2012-11-14 16:59:10
真上犬太 @plumpdog

◆「うりゃっ!」風切り音と共にベルトがしなる。エッジの付いた金属片が狂人の手の甲を切り裂き、再びうねったベルトに巻き取られる銃。「ケエエエエッ!」手の異常をものともせず、男が手にした包丁を、目の前に降り立った三毛猫目掛けて振るった。「ビリッとくるんだね! 覚悟なんだね!」◆

2012-11-14 17:03:24
真上犬太 @plumpdog

◆言うなり、銃を振り捨てた金属片が一枚の棒状に変化、表面に青い瞬きがはぜる。「せいやっ!」包丁をかわし、すり抜けざまにヒートが叩き付けた棒が発雷。「ヒギイッ!」意識を絶たれた狂人がくず折れる。「オオオオオオオオオオッ!」残された男が声を限りに絶叫、咆哮が放たれた。◆

2012-11-14 17:05:28
真上犬太 @plumpdog

◆『きゃあああっ!』「うひいいっ!」声に乗せて撒かれるのは、悪意、不快な音、穢れた感触。NBCの感受性に直接ダメージを与える、見えざる邪悪が空間内に荒れ狂う。『《インサニティ・ショックウェイブ》。いつ聞いてもおぞましいぜ』ヒュープの声が悪意に割り込み、壁となって立ちふさがった。◆

2012-11-14 17:08:19
真上犬太 @plumpdog

◆インプラントされた脳波増幅機と声帯から放たれる不快な情報を、ヒュープの意思が完全にさえぎる。複雑に変化する波長を瞬時に読み取り、それを打ち消す波を叩きつけるカウンターアタック。「オオオオオッ」干渉を遮断され、それでもなお吼える男に、ヒュープが断じた。『とどめは任せたぜ、兄弟』◆

2012-11-14 17:10:41
真上犬太 @plumpdog

◆影が、小山のようなイノシシの背を越えて飛翔した。攻撃の全てを妨げられた男が、それでも瞬速の反応で銃をポイントする。立て続けに打ち込まれた銃弾が、影を引き裂きぼろ布に変えた。ドスッという重い音ともに地面に転がったのは、小さな制服と穴だらけになり、ひしゃげたヘルメット。◆

2012-11-14 17:14:08
真上犬太 @plumpdog

◆「ギ?」「おとりだよ」クイの右足が弧を描き、銃を叩き落とす。「ギヒイッ!」「終わりだ」腕を叩き落され、前のめりになったなった男の顔を、槍のように突き上げた左足が吹き飛ばした。「ギュブ……エ」天に向けてそそり立つ足を下ろし、クイが息を吐く。最後の男が膝を突き、沈黙した。◆

2012-11-14 17:16:12
真上犬太 @plumpdog

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2012-11-14 17:19:02
真上犬太 @plumpdog

◆救急車のサイレンが響き、死傷者と無力化された犯人たちが収容され、運ばれていく。応援に駆けつけた三人は、新たに発生した現場に呼ばれてこの場から立ち去っている。時刻を確認すると、クイは規定どおり、貸与された栄養補給セットを開いた。◆

2012-11-14 17:19:35
真上犬太 @plumpdog

◆「のんきにメシ食ってる場合か!」「こっちは肉体労働した後なんだ、大目に見ろよ。それに、性能維持のために規則正しい食事は重要なんでありますよ、遠山警部殿」言葉に詰まった男は、それでも情報端末を突きつける。「さっきのイカレ野郎どもの情報を落とせ、食いながらでも出来るだろ」◆

2012-11-14 17:23:47
真上犬太 @plumpdog

◆「はいはい『というわけでヒュープ、よろしく頼む』『お前も大概人使いが荒いな、兄弟』そんな揶揄を交えつつ、ヒュープから膨大な量のデータが送波される。送受信のデータをチェックし、ろ過する役割を一手に引き受けるゲートキーパーは、数秒掛からずに必要な情報を送りつけてきた。◆

2012-11-14 17:25:24