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メルヴィルは「二重化」された身体で、引用元の言葉を借りれば「政治的身体」を“演じる”ことを強いられています。そんな彼が自分を見つけ出せるのはデッドストックになっていた筈の自分の写し身を通してのみなのでしょう。故に、彼は何度も役者の台詞を反復します。
2012-07-24 03:18:19一方、暇を持て余した枢機卿たちは同じく事件の解決まで軟禁状態にある精神科医の提案により、中庭でバレーボールを始めます。この枢機卿のバレーボールはとても重要です。つまりバレーボール、排球とは彼らが行ったコンクラーベでの責任の押し付けを再演するものだからです。
2012-07-24 03:20:36この両者が共に上手くいけば問題は解決したのかもしれません。少なくとも映画の結末はもう少し後味の良いものとなったでしょう。しかし当然のことながら時間はそれを許しませんでした。バレーは準決勝を迎える前に打ち切られ、演劇を鑑賞していたメルヴィルはそれを満足に観ることなく連れ帰られます。
2012-07-24 03:24:55この際、演劇を上手の二階(右上)から観ていたメルヴィルを枢機卿たちが迎えに来て彼に拍手を送ると、それは一般客にも伝播し、あろうことか舞台で演じていたあの精神病の役者さえもが下手側から(つまり左巻きに)拍手を(あの画面を覆うような重圧と共に)送ってしまうシーンの、絶望感たるや。
2012-07-24 03:28:15そして、民衆の前に姿を現したメルヴィルは「私は導く者ではなかった。私は導かれる者であった。私のために祈って下さい。私に言えるのは、それだけです」(細部が曖昧なのでニュアンスですが)と言い放ち、あの窓とカーテンの向こう、暗い闇の中に消えて行くところで、映画の幕は閉じます。
2012-07-24 03:37:15エンドロールで聖歌が大音量で流れるシーン、そこでいつの間にか僕たちが前半のコメディパートのことなど忘れて「息を呑んで」物語を食い入るように観ていたことに気付かされます。それは最後にあの暗闇の向こうに消えて行ったメルヴィルと同型の沈黙であるようにさえ思えます。
2012-07-24 03:41:58なので、もしもこの映画を映画館に観に行った際には、すぐさま席を立たずにいたら良いんじゃないか、などと愚考をしたりもしますが、それはそれ。ただの僕の個人的な趣向なので置いておきましょう。
2012-07-24 03:44:00ともあれ、ここまで述べて来たように、この映画は極めてシリアスな作品です。再度になりますが、笑いや温かみを求めてこの映画を観に行くと、痛い目を(少なくとも不意の一撃を)みることになると思われます。この作品に出て来るのは、誰もが「悪い」、言い換えれば「罪」を犯した者たちだからです。
2012-07-24 03:50:35しかしメルヴィルが残したものは何もなかったのでしょうか? そうではありません。何故なら最後に闇の向こうへと消えて行く瞬間、彼は回れ右(右回り)で去っていくからです。それは彼が重圧に逆らったものがあるという唯一の証だと言えるでしょう。そしてそれは当然、直前にある彼のメッセージです。
2012-07-24 03:55:17少し話は遡りますが、メルヴィルがバスの中で街の明かり(人々の暮らし)を眺めながら独り言を呟くシーンがあります。面倒なので(既にアニメ『氷菓』についてのブログでそれには触れましたし)此処で柄谷の「内面」などを引きはしませんが、ここでの台詞とこれまで述べて来たことを併せてみましょう。
2012-07-24 04:01:00彼は「幸運にも人は互いに理解し合えると思いがちだが、そうではない。人は罪を犯してしまう」(これも先程と同様にニュアンスです)と言います。それは既に述べたように、この映画に出て来るメルヴィルを含んだ人々そのものです。そして彼は「私のために祈って下さい」と言い残す。
2012-07-24 04:03:55それは言うなれば、デッドストックに陥って言葉を失った者たちの為に祈る、または許す行為だと言えるでしょう。それこそが重要なのだ、というのが彼の残したことなのではないでしょうか(但し、それは同時に自分たちの罪を認めることを前提としたものであることには注意が必要かもしれません)。
2012-07-24 04:06:24つまり、先程アニメ『氷菓』とこの映画を少しだけ結び付けて話しましたが、ここにもまさに『氷菓』OP1の『優しさの理由』がある訳です。
2012-07-24 04:11:47またこのような「二重性」は近年のアニメにおいても極めて重要です。例えば科学シリーズでの「 拓巳/タクミ」や「岡部/凶真」(『ロボノ』でもこれは踏襲されています)、或いは『ガンダム00』だとか。中でも『コードギアス』なんかは「王」というフレーズもあり、分かり易いかもしれません。
2012-07-24 04:13:25長々と適当な感想を打ってきましたが、そろそろ纏めましょう。しかし、ここで述べて来たようなことはともかく、この映画のコメディパートの出来が良いことは明らかで、非常に笑えます。その上、出て来る人々がほぼ老齢の枢機卿であるにも関わらず、その可愛いことと言ったら請け合いです。
2012-07-24 04:16:11こういう描き方と云うのは余り知らないのですが、不勉強な僕がそれを以って「新しい」などと言う事は控えます(汗) ともあれこの映画は凄い「おじいちゃん萌え」作品だと思います!(ここで述べている「萌え」が『人類は衰退しました』について書いたブログと同じであることは言うまでもないです)。
2012-07-24 04:20:06しかし、携帯など外部との通信が厳禁であるコンクラーヴェを通して、こんな内容を描ける(少なくとも、そう観れる)というのは面白いよなー、と思いました。以上、終了ー。
2012-07-24 04:23:01@irie_haruki おそらくその二重性って作中の全登場人物に当てはまると思うのですけど(例えば精神病者の役者にも)、佳境、揃って「教皇」という最上位の「役」に拍手の合図を送るのなら、それに主の宣命を感じない者が何を便(よすが)に「舞台」に立てるか?というのは面白いですね。
2012-07-24 04:36:36つまり教皇は神の代理人として、彼らの政治的身体を是認しなければならない立場にあるわけだけど、当の教皇は、その是認が政治的と知るに、如何に神聖な裁可を下す(許す)ものであると自己を是認できるか?という話。審判の座は実は空(から)じゃないか、ってね。
2012-07-24 04:42:36@totinohana 仰る通りです。酔いに任せて長々と超絶ネタばれをした自分が恥ずかしくなるような、見事な纏めだと思います。
2012-07-24 04:53:39ちなみに、本来なら「教皇」表記のほうが良いんだろうけど、一応は邦題も『ローマ法王の休日』になってるし、「王」との絡みもあったので、ここでは法王を使わせて頂きましたとさ。
2012-07-24 04:57:00一つ告白せねばなるまい。先程の連投には、嘘があったことを……。それは「『ローマ法王の休日』を観ていて、ずっと伊藤がこれを引用した意味について想いを馳せていました。 」などと尤もらしく書いたが、本当は「コンクラーベは根比ーべ」とかも考えてました。ごめんなさい。
2012-07-24 05:47:59