abのゾンサバ生存日誌（１２１日目～）

abnobi @abinsilent

「さ、そうと決まれば急ごう！」そうだ、時間がない！俺達はヘリポート目がけて走り出す。「超過勤務手当が必要だ！」「俺、アイスがいい！」「だーわかった！脱出したら二人とも奢ってやる！」幸福に浸ることは許されない、だが悩むのは取りあえずやめよう。今この瞬間だけは。 #ゾンビサバイバル

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ギリギリ間に合った！ヘトヘトな俺達の前に昨日の三人組が武装してやって来る。「すいません」俺の声に真ん中の男がニヤリとした。「遅かったな。逃げたのかと思ったよ…真実を知ってな」「…？」男達は俺達に銃口を向ける。「御苦労様と言いたいが、あんた達の行き先は地獄だ」 #ゾンビサバイバル

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「どういうことだ？」「あんたらは『適格者』として認められた。次の実験場でもせいぜい頑張るんだな」「…そうかい」「おっと、妙な真似はするなよ」ニヤつくのをやめない男に向かって、俺は溜息をつきながらゆっくりと一歩前に進み出た。「動くな！」俺はもう一つ溜息をつく。 #ゾンビサバイバル

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もう一歩進む。男達の顔が少しだけ変わった。「動くなと言ってんだろ！」老軍人と少年は無言。一番大きな溜息をついて、俺はさらに一歩歩いた。「貴様！」俺以外を牽制していた男達の銃がほんの僅かこちらを向く。それで十分だった。瞬間、老軍人の長い脚が一人の顎を蹴り砕く！ #ゾンビサバイバル

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少年のバットがもう一人の股間に伸びて、哀れ男は悶絶した。ニヤニヤの消えた男が慌てて俺に発砲しようとするが、時既に遅し。半身になった俺の後ろからバットと手榴弾（型ライター）が飛来し、不細工な顔にめり込んだ。「『俺、最後まで、囮』作戦、完了」「見事な囮っぷりだ」 #ゾンビサバイバル

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余り嬉しくない褒め言葉だな…「どうすんだ？」何やら部屋の装置をいじっている老軍人の背中に声をかける。「心配するな。私が操縦しよう」「すげえ！」最後までお世話になります。俺達は失神した男達を縛り上げ、ヘリの元に向かう。老軍人が手早く機体を点検し、俺達を載せた。 #ゾンビサバイバル

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ついに、ヘリが浮上した！「何処に行くとかわかるのか？」「先ほど現在位置を確認した。まかせておけ」これで本当に終わりか…自然と俺の視線は約半年を過ごした世界に向かう。俺の脳裏を、色々な思い出が奔流となって駆け巡る。「おい！あれ！」そんな中少年が何かを発見した。 #ゾンビサバイバル

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一人の少女が満面の笑みを浮かべながら手を振っている。「あれはエッダさんの知り合い…ということは！？」発見、できたのか！「良かった！本当に良かった！」「でもヘリポートに来ても、あの人達脱出できないんじゃ…」「どうやら私達は外れのようだ」老軍人が紙の束を寄越す。 #ゾンビサバイバル

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操縦に集中しろよ…「えー何々…行き先が色々だな。病院もあれば、軍の施設もある」「ここにはまだまだ色々と秘密がありそうだ」全ては、陰謀って奴か。俺は書類を窓から投げ捨てた。誰かが拾ってくれれば、少しでも実情が伝わり、被害は減るだろう。あとは、皆を信じるだけだ。 #ゾンビサバイバル

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「でも良かった！あのお姉さんが無事で！」「ああ、そうだな」生きてさえいれば、また会えるはずだ。いつか、笑顔が戻る時もくるだろう。疲労感がどっと出てくる。「疲れたなあ」気の抜けた瞬間だった。突然の爆発音がして、ヘリががくんと揺れた。「何事だ！？」「下を見て！」 #ゾンビサバイバル

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男がヘリに向かって発砲している！「もう一人いたのか…大丈夫か？」「ああ、何とかもたせよう！」老軍人の操縦で何とか姿勢を立て直し、ヘリは銃撃を抜け、一気に島を飛び出す。頼むもってくれ…！こいつらを死なせないでくれ！俺の願いも虚しく、振動は大きくなる一方だった。 #ゾンビサバイバル

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「救命着を！」くそっ、こんな終わりなのかよ？もうヘリは水面スレスレだ。扉を開け、皆で海に飛び込む！うおっ波が高い！俺は少年と老軍人の手を掴んだ。波に揉まれ、息が出来ない。「みんな、絶対に死ぬなよ！」だが二人の声が戻ってくる前に、俺達は大波に飲み込まれていた。 #ゾンビサバイバル

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「……い、おい」誰かが俺の頬を叩く。「意識あるか？声聞こえるか？」「…あ、はい」「息吹き返しやがった！おおい！」いかにも海の男な人物は部屋を飛び出して行く。ここはどこだ？揺れてる…ということは船か。上体を起こし、周囲を観察する。やはり船室だ、助かった、のか。 #ゾンビサバイバル

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「…いずれ分かることだ」「何ですか」「君は少年ともう一人の手を握って離さなかった。少年が助かったのはそのおかげだ」「だから、もう一人は」「あの近辺は鮫が多い…君達を守っていたのだろう…君が握っていたもう一人の腕は、肩から先が、無かった」俺は、絶叫したらしい。 #ゾンビサバイバル

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「採用…ですか？ありがとうございます」礼を言い、受話器を置いた。ようやく決まった。あの日から明日でもう３カ月。記憶はまだ鮮やかで、俺を苦しめ続ける。このまま生きていくのは正直キツイが、もう俺には死ぬことは決して許されない。俺はまたも他人の命を犠牲にしたのだ。 #ゾンビサバイバル

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老軍人の残された腕はほとんどが骨だった。俺が掴んでいた部分も痛みが激しく、腐って何も残らなかったらしい…俺はあの後日本大使館経由で帰国した。ちょっとしたニュースになったらしいがそんなことはどうでもいい。大事なのは、あの島での話を誰も信じてくれなかったことだ。 #ゾンビサバイバル

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おかげで、かは知らないが帰国には大分手間取った。少年の存在も話をややこしくしたが、何とかなったのは、どうもあの島に来た施設の人の尽力があったらしい…あいつは今一旦施設に戻っている。俺がきちんと生活を確立する迄の間だけ。一応今日、その目処がたったということか。 #ゾンビサバイバル

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少年が船の上で、泣きながら素振りをしていたことは見なかったことにしている。顔を合わせた時、俺達は二人とも泣かなかった。それでいいと思う。俺は施設に電話を入れる、久々に聞く声はまだ明るく響きはしなかった。俺は努めて陽気な声を出す。「今度の外出許可日は何時だ？」 #ゾンビサバイバル

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初夏の香りが広がるキャンプ場に俺達はいた。「何でキャンプなんだよ」少年はそういったものの、懐かしげな顔をしている。「俺達にゃ一番しっくり来るだろ」俺は就職が決まったこと、施設から引き取ることを告げると、少年は嬉しそうに笑った。いつもこう、素直だといいんだが。 #ゾンビサバイバル

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「ちなみに何の仕事だよ」俺が応募の紙を見せると、少年がこれ以上ないほどの呆れ顔を見せた。「…ここまで行くと感心するよ」「い、いいだろ」焚火にかけたスープが煮立つ。星は綺麗で、この空の下、あの島で今も誰かが死んでいくのだと思うと、どうしようもない気持ちになる。 #ゾンビサバイバル

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「なあ、いつか戻るんだろう？」「…そうだな」「そんときゃ、俺も行くぜ」「俺達が行っても、迷惑にしかならないよ」「迷惑なのはあんただけ。俺は結構うまくやってたぜ」「確かに、囮だけじゃ何の役にも立たない」「…」俺達が、黙って空を見上げた時だった。「いい匂いだな」 #ゾンビサバイバル

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「「！！」」俺と少年は弾かれるように立ち上がり、後ろを向く。背筋の伸びた長身に、低い声。不敵という言葉がふさわしい笑み、圧倒的な存在感…間違いない。「ろ、老軍人ゾンビ！」かつてない敵の出現だ…！だが、目の前の男はズッコけた。「…成程、そういう反応になるのか」 #ゾンビサバイバル

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「こちらとしては感動の再会を演出したつもりだったのだが…まあいい。私はゾンビではない。君憧れのメイドの名前も、少年が惜しくもフられた少女の名前も言えるさ」俺が、昔言った台詞を繰り返して、老軍人は片目をつぶった。少年は手にしたバットを放り棄て老軍人に飛びつく！ #ゾンビサバイバル

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俺も駆け寄ろうとしたが、突然の気配を感じたと思うや世界が反転した。「ぐほおっ！」背中を強く打ち、息が詰まる。ようやく定まった視点には、美しいというには鋭すぎる女性の顔があった。「無礼者」「グレイス、そこまでだ」老軍人の声にグレイスと呼ばれた女性は立ち上がる。 #ゾンビサバイバル