abのゾンサバ生存日誌（１２１日目～）

abnobi @abinsilent

その発見は唐突だった訳ではない。俺達が少しづつ地道に作業を進め、範囲を絞り込んだ結果だ。時間はかかったが、無駄があった訳じゃない。だからこそ、俺達の達成感は膨れ上がることなく、静かに、ゆっくりと満たされていった。「あったぞ、間違いない！ここがヘリポートだ！」 #ゾンビサバイバル

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首にかけていた銀の鍵をリーダーにかざすと偽装された扉が開く。外界を拒絶するような頑丈な作り、人工的な機能美に満ちた通路が奥に伸びている。静かに歩みを進めると、屈強な男達が俺達を待ち構えていた。「よく辿り着いた。ヘリは24時間後に出発する。準備を済ませてこい」 #ゾンビサバイバル

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「挨拶をしてこよう、もう二度と会えないかもしれないから」俺達は走ることにした。まずはシロネコ急便さんだ。この人がいなければ俺達は生き残ることはできなかっただろう。自分が辛いときに人にやさしく出来る人こそが本当の優しさだというが、この人こそその言葉に相応しい。 #ゾンビサバイバル

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せめて食糧をと思ったが、持ち切れないという。考えることは皆一緒か。少年が別れがたい顔をしている…一番世話になったからな。押印済みクーポンは一生の記念だ。続いてコウさんに会いにいく。線が細く、芯の強い人。優しいという言葉だけ言い表せない不思議な魅力を持つ人だ。 #ゾンビサバイバル

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丁寧な治療の恩は忘れられない。食糧を渡すと予想通り困った顔をしたが、無理矢理押しつける。機会があればもう少し話をしたかった…残念だ。彼の表情には俺には読みとれない深い部分がある…それが分かるようになったころ、出来れば再会したいものだ。三人で大きく手を振った。 #ゾンビサバイバル

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他にも大勢の人に会った。誰もが自分の境遇に関わらず祝福してくれる…有難いことだ。一体幾人の人に助けられ、生かされてきたことだろう。この地獄のような世界で初めて知った優しさがある。懐かしく思い出すことができる日はまだ遠くとも、俺の中で確かに存在し続けるだろう。 #ゾンビサバイバル

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目の前の少女に、少年は胸を張り、背筋を伸ばして堂々と向かい合った。「俺、行くよ。さよなら。あの男と、元気で、幸せにな」戻ってきた馬鹿野郎とお節介な少女は二人並んで微笑んでいた。俺は阿呆の方に軽く手を挙げる。また必ず会うだろう。くされ縁てのは、そういうもんだ。 #ゾンビサバイバル

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最後に訪ねた館の前で今まさに入ろうとする男を呼び止める。「脱出します。また会いましょう、今度は外で」穏やかな容姿の奥に秘めた強さを持つ男は力強く頷く。誰もがこの街で苦悩し絶望する。だが彼のような人がいる限り、人は決して人であることを止めないでいられるだろう。 #ゾンビサバイバル

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手にした手紙。俺は意を決して館の壁に突き刺す。防水シートにくるんだそれを、彼女が見ることはあるのだろうか？「そんな遠まわしのやり方でいいのかい？」老軍人の声に俺は笑った「いいんだ。別に届けたいわけじゃない」だけど、いつか、きっと。それを決して忘れないために。 #ゾンビサバイバル

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ヘリポートへ戻る途中、あの少女と一緒にいたジャーナリストと会う…まだ行方は知れないようだ。脱出を告げ、館にいる人のための食糧を預けた。本当なら出迎えて、以前のように食事をともにしたかった。彼は少女を探し続けるという。別れ際に俺達三人の記念写真を撮ってくれた。 #ゾンビサバイバル

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ヘリポートに到着する前に夜を迎える。食糧はなるたけ配ったため、最後の晩餐は各々が好きな缶詰一つと、僅かに残った酒。少年にも勿論注いでやる。皆言葉が出てこない。それでも表情には明るさが滲み出ていた。もう何年もこうしていた気がする…俺達は思いを込めて杯を掲げた。 #ゾンビサバイバル

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少年は早々に寝つき、俺と老軍人は差し向かいで焚火を眺める。「なあ」「何だ？」「こいつのこと、面倒見てくれないか？」「元よりそのつもりだよ。君は、どうするね？」「さあ、どうするかな」それ以上言葉がでない。「やけに眠い、今日は見張りを任せてもいいかな？」「ああ」 #ゾンビサバイバル

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「効くもんだな」俺の手には睡眠薬があった。まあ睡眠導入剤だから寝込むことはないだろう。目覚ましもセットしてある。ゾンビ用の罠にかかる気配もない。さて、行くか…俺は自分用に一枚の記念写真を持って立ち上がる。これだけでいい。最後にもう一度だけ、二人の顔を眺めた。 #ゾンビサバイバル

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朝日が目に染みる。今日の朝焼けは格別だ。これからどうしようか。館に行っても邪魔になるだろう。そうだ、あの少女を探そう。彼女は死んではならない人だ。それならまだ、俺も人の役に立てる…できれば今日は、彼ら二人の出立は見届けたいものだ。上手く近づけるといいのだが。 #ゾンビサバイバル

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こんな世界でも結構人はいる。一目を避けヘリポートを望む丘に辿りついた時にはすでに昼になっていた。そろそろ出発の時間かな。急に込み上げてきたものをぐっと堪える。これでいいんだ。これで。俺はこの世界から抜け出してはいけないのだ。罪を抱えて、自分だけ助かる訳には。 #ゾンビサバイバル

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「おい…」元気でな…「おい！」幻聴かな？「アホ！！」後頭部にめり込むバット。「ぎゃあっ！」俺は前のめりに突っ伏した。「…ったく。中学生かあんた。何やってんだよ」「全く。大人げない行動だな」「お、お前ら…！」そこには、もう見ないはずの顔二つが並んで笑っていた。 #ゾンビサバイバル

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「何で？」「あんだけ人に挨拶して、今まで散々人助けして、おまけにこんなものまでありゃ見つからない訳ないだろ？」少年の手には、三人の写真。「意外と見られてんだよ。楽なもんさ」「…その割に、二人息があがってるな」「今そこで素振りしてきた」「私は朝のストレッチを」 #ゾンビサバイバル

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「さ、いこーぜ」少年の伸ばした手を、俺は取れなかった。「時間がない」「俺は行けない。なぜなら…俺は人を見殺しにしているから」少年の手が止まる。「勿論、直接手を下した訳じゃないが、俺がもう少し早く気づいていれば助けられた。そんな人間が助かっていい訳がないんだ」 #ゾンビサバイバル

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「だから行ってくれ。俺は残る」「そうもいかない」「何故だ」「私はこの子を養うつもりだが、君と一緒でなければ駄目だというんだ」俺は少年を見る。「すまない。俺何にも知らなかった…あんたがそんなこと抱えてたなんて」俯き、そして顔を上げたときは、いつもの少年だった。 #ゾンビサバイバル

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「いい加減気付けよ。あんたがいなくなって俺達が脱出すると思ったのか？探すにきまってんだろ！」「…」「どーせあんたは、生きてる限り誰かに迷惑かけずにはいられねーんだからよ！」…俺の正しい評価、本当にありがとうよ…「今回だってそうだ！もう面倒くさいったらねえ！」 #ゾンビサバイバル

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「だからこれ以上迷惑かけないよう、俺が見張ってやる！」「は？」「あんたトロいからな、俺がついててやんないと。そうだろ？」「…」少年の肩に老軍人が手を置いた。「もう、君の罪は償えないかもしれない。だが、君の命はもう君だけのものではないのだ…君の命を私が買おう」 #ゾンビサバイバル

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「私が責任を持って、君を強くする。そして君はその命の限り誰かに尽くし、誰かを助けるために生きるのだ。罪を抱えて」「…ずっと辛いままってことか」「その通り。安心したまえ、君を死んだほうがマシというほど鍛え抜く。こことはまた別種の地獄を味わえることを保証しよう」 #ゾンビサバイバル

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「だから、来てはくれないか…私達と一緒に」老軍人が手を差し述べてくる。「なあ、頼むよ」少年も再び手を伸ばしてきた。「…また迷惑をかけるぞ？」「大丈夫、その時には君を囮にして逃げるさ」俺は笑ってしまった。その時点で、俺の負けだ。両手を伸ばし、二人の手を取った。 #ゾンビサバイバル