【二次創作な】「ヒドゥン・アーツ・オブ・オールド・ワンズ」♯1

ニンジャスレイヤー(@njslyr)の二次創作小説です。クオリティは実際安いですがよろしければお楽しみ下さい。
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欺瞞動画の会社 @naclaqns

ホソダはもう一枚の紙片を取り出す。こちらもやはり新聞スクラップだが、紙はだいぶ黄ばんでおり、そして厳重にパウチされている。モノクロ写真には凪いだ水面、先の記事と全く同じアングルだが…岩礁の姿は無い。「その岩礁はな、新たに隆起してきたのではない。一度沈み、また浮かんできたのだ」20

2012-11-28 18:04:13
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岩礁の再浮上。あり得ない話ではないがチャメシ・インシデントでもない。カタクラはデスクの引き出しから細縁のメガネを取り出し、かけるでもなく弄ぶ。「ところでフジオ君、ナガガマという町を知っているかね?」「いえ、寡聞にして」「無理もないな、俺も昨晩知ったばかりなのだ。…スシ屋で…」21

2012-11-28 18:10:38
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「社長。あなたにスシを食べる余裕などあるのですか」「カンベンしてくれよ。冒険の徒たる者たまにはこうして英気を養わねばならないし、それにサイオー・ホースめいて貴重な情報を手にしてきたのだ」ホソダの言葉は正しい。彼の外向きの行動力は、時折思いもよらぬ所からきっかけを掴んでくる。22

2012-11-28 18:16:48
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「実際この記事もその店から拝借してきた物なのだ。イタマエはキョートから来たらしくてな、ウィークリー版だがキョート新報を取っていた。…それで、そのイタマエが言うにはだな…」ホソダの口調が実際安い怪談めく。カタクラは細縁メガネをかけ、ニューロンを思考プロセスに入れた。23

2012-11-28 18:25:15
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「ナガガマはこの岩礁からほど近い湖岸にある。いや…あったと言うべきかな。かつては琵琶湖から捕れる魚でスシの町として大いに賑わい、そのイタマエの師匠筋に当たる人もそこの出身だったそうだ。だが没落した。話にはまだ人は住んでいるようなのだが、いずれにせよ今はもうただの寂れた漁村だ」24

2012-11-28 18:34:32
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「その町が、何か?」「面白いのはここからだ。まず覚えておいて欲しいのは、町が衰亡し始めた時期とこの岩礁が沈んだ時期とが一致しているという事実。そしてもう一つの不可解…この町を出た者、この町で死んだ者の記録が異様に少ないんだ。彼らは一体どこに消えたのか…どうだね、臭いだろう?」25

2012-11-28 18:41:51
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不可思議に対するホソダの嗅覚は本能めいて鋭敏だ。彼が「臭い」と言うのならば、正体は別としてそこには実際何かがある。カタクラには備わっていない能力ではあるが、彼に求められる役割は別にある。「相関の可能性はゼロではないかも知れませんが…因果関係は全く不明。結論を出すには尚早です」26

2012-11-28 18:48:24
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「古い方の記事ですが、その岩礁が沈んだという日時はちょうどY2K戦争の只中です。岩礁はステルス爆撃によって破壊され、町は戦災で衰退した。記録が残っていないのは戦時中の混乱によるもので、今回浮上した岩礁は過去のそれとは別物。常識的に考えましょう。単にこういう事では?」27

2012-11-28 18:56:14
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このコンビの強みはここにある。ホソダの野性的な感覚が謎を掘り起こし、それにカタクラが論理的な批評を加える。だが…常に優先されるのは前者だ。「それなら、それでもいいさ。だがこのまま手をこまねいていれば当社はジリー・プアー(徐々に不利の意)だ。少しでも足掻こうじゃないか」28

2012-11-28 19:01:34
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ホソダはニヤリとエネルギッシュに笑った。「差し当たって君は文献の渉猟だ。どうだ、UNIXで数字をこね回すよりは幾分マシだろう」カタクラは眉をしかめ、渋々といった風情で頷く。だが結局は彼とて一人のトレジャーハンターなのだ。ホソダはカタクラの肩を叩き、ドタバタと事務所を後にした。29

2012-11-28 19:09:24
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……ここまでが経緯である。その後カタクラは情報の地層をひたすらボーリングし、そして硬い岩盤に突き当たった。一定年代以前のスシ書に頻出する「スシ化石」なる書名、しかしその本文は…あるいはそれらしき物すら…全く検索にヒットしない。まるで誰かが何かを恐れて秘匿したかのように。30

2012-11-28 19:15:29
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だが人の手で隠された物は必ず人の手で暴かれる。増してや暴力と金銭、そしてネットワークが全てを支配するマッポーの時代、この古びた図書館と魔術まがいの古本に敬意を払う者など殆ど存在しない。おざなりなセキュリティはその証であり、これを見ればケチなコソ泥の類いでさえ失望は免れまい。31

2012-11-28 19:22:32
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カタクラはその価値を知る数少ない学徒の一人である。無人の魔書庫は久々の来客を手厚く歓迎し、彼の望むオミヤゲを授けた。カタクラは慎重に頁の中ほどを開く。チャワン蒸し色に褪せた紙の上、筆記体で綴られた無数のラテン語が躍っている。冗談のような悪筆。この場での読破はまず不可能だ。32

2012-11-28 19:29:00
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奥付を確認。執筆年代は他の古文書に示唆されていた数字と一致する。どうやら偽書の類ではなさそうだ。カタクラはバイオフロシキで丁寧にこれを包み、懐深くに仕舞い込む。「ドーモ」短い感謝の言葉は誰に向けられたものだろうか。彼はカンテラの光を調節し、来た道を引き返した。33

2012-11-28 19:34:55
欺瞞動画の会社 @naclaqns

そして、この古代の闇に挑む者が、いま一人。図書館を抜け出し石畳を歩くフジオ・カタクラを、その何者かは見定めるように凝視していた。廃電柱の上から投げかけられる視線にしかしカタクラは気付かない。やがてカタクラの姿が明けには未だ遠い夜の中に消えると、何者かは白い残像を残して去った。34

2012-11-28 19:41:33
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2012-11-28 19:41:56
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「まだ終わらねえのかよ」古ソファーに寝転がったヤクザスーツ姿の男が言う。彼の名はデグチ、マレニミル社御用達の傭兵ヤクザである。予定では既に出立済のはずだったが…カタクラをもってしても「Fossile SUSHI」の和訳は遅々として進まず、一行は未だこの雑居ビルに留まっていた。36

2012-11-28 19:59:05
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古ラテン語はカタクラの専門ではなく、急いで書き留めたかのような悪筆が難解さに拍車をかける。極め付きは内容それ自体だ。どうやら詩文だということは分かるのだが、頻出する固有名詞、無茶苦茶にねじ曲げられた文法、抽象的に過ぎる描写で綴られた文章には一種の悪意アトモスフィアすら漂う。37

2012-11-28 20:07:08
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「寝てれば日給出して貰えるのは実際有難えんだが、やっぱりな、こっちとしちゃボーナスが目当てなんでな…。それに体もなまっちまう」デグチは大きく伸びをした。一方のカタクラは目もくれず辞書データベースとの格闘を続ける。細縁メガネの奥に浮く黒いクマがここ数日の彼の生活を物語っていた。38

2012-11-28 20:14:05
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「うちのフジオ君をそう焦らせては困るな、デグチ=サン」オフィスの奥、社長室とは名ばかりの仮眠室からホソダが姿を現す。彼もまた地図を始めとする基礎資料及び道具等の準備にかかりきりであり、いつもにも増して顔が脂ぎっている。「腹が減ったなあ、どうだ、スシ・デマエでも取って一休み…」37

2012-11-28 20:19:14
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ホソダが言いかけたその時だ。Knock Knock…安普請のドアを誰かが叩いた。デグチが腰のホルスターからヤクザガンを抜き構える。三人はアイコンタクトを交わす。カタクラが立ち上がり、機敏な動作でドアに背を付けた。「ドーモ、マレニミル社です。シツレイですが…どなたでしょうか?」38

2012-11-28 20:27:10
欺瞞動画の会社 @naclaqns

「アイエッ、ウェルシー・トロスシ・デリバリです。ご注文のスシを届けに上がりました」ドアの外からは男の声。呼んだ覚えの無いデリバリ、カタクラはホソダへと視線を送る。ホソダはジェスチュアで警戒を指示。カタクラがドアを開け放つと、そこに立っていたのは果たして…スシデリバーだった。39

2012-11-28 20:35:38
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「アイエエエ!?ヤクザ!?銃ナンデ!?」デグチを見たスシデリバーはうろたえながらもスシ桶は落とさない!プロ意識!「ドーモ、ウェルシー・トロスシ=サン。届け先をお間違えでは?実際我々はスシなど注文していません」「アイッ…?でもマレニミル社=サンですよね?確かに先ほど上スシを…」40

2012-11-28 20:42:49
欺瞞動画の会社 @naclaqns

全員が首を傾げ、デグチが銃を下ろす。「参ったな、またイタズラかな…。最近多いんです、店長にどやされる…セプク払いな…」落胆するスシデリバー。「ちょっと待たないか」しかしホソダが声を上げる、その目はスシ桶に釘付けだ!「我々は腹が減っている。どうだ、少し割り引いてくれれば…」41

2012-11-28 20:49:05
欺瞞動画の会社 @naclaqns

「少し割り引いてくれれば、実際食べたい。いや、ぜひ食べたい!腹が減った!」ホソダがわめく!「本当ですか!ヤッター!」「だから早くよこしたまえ、スシ!上スシ!」「ヨロコンデー!」スシデリバーはカタクラをすり抜け応接テーブルにスシ桶を置く!「ほら、君達も!食べたまえ!」42

2012-11-28 20:55:46