〔AR〕その24 セクション6

東方プロジェクト二次創作SSのtwitter連載分をまとめたログです。 リアルタイム連載後に随時追加されていきます。 著者:蝙蝠外套(batcloak) 前:セクション5(http://togetter.com/li/414539)
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BIONET @BIONET_

例えば、この異変が、かつてここにあった存在の再現であるのならば、その事実はどこに由来するのか? 地霊殿であれば、さとりの記憶にあると考えられるが、この竹林を訪れたのは初めてだ。仮定と条件が当てはまらない。 迫りくる死の気配の中で、不思議とさとりの思考は加速していった。

2012-12-01 19:29:50
BIONET @BIONET_

さとりは思考しながら、我知らず胸元でうずくまる阿求を抱きしめた。かつては、阿求が持つ膨大すぎる情報が、とてつもない驚異だった。だが、今は、彼女の存在こそが、さとりにとって暗闇に灯された唯一の光明だった。

2012-12-01 19:31:03
BIONET @BIONET_

強い負荷に晒されながらも、心を読んだことで、さとりは阿求がどのような人間であるかが、少しずつわかってきた。一度見たものを決して忘れず、記憶し、書き表す生業の少女。その力は、常人では区別すらままならない、何の変哲もない地面の違いすら見分けられるほどだ。

2012-12-01 19:31:34
BIONET @BIONET_

記憶……記憶。情報は普遍的に存在し、生命は、ただ生きているだけで、周囲からありとあらゆる情報を受け取る。だが、それを留める方法、留められる量は、情報量の総体に比べれば、ごくわずかだ。

2012-12-01 19:31:54
BIONET @BIONET_

燐光が揺らめいた。とうとう、さとりの目に見える範囲に、亡者の影が現れ始めた。 だがさとりは身じろぎしない。 留められた情報、それこそが記憶。今さとりにすがりつく少女は、途方もない記憶を抱えられる。

2012-12-01 19:36:50
BIONET @BIONET_

故に、阿求には理解できるものがある。その阿求の心を覗いたことで、さとりは新たなる認識を得た。 「そう……そうか」 見えてきた。さとりは、迫る恐怖と戦いながら、答えへと至る式の論述を進める。

2012-12-01 19:37:22
BIONET @BIONET_

「生命だけが、記憶を止めているわけじゃない」 阿求が、地面を見て正しい道を選ぶことができたのは、彼女が全てを記憶しているからだけではなく、道の方も彼女の記憶と同じ情報を留めていたからだ。 「阿求さん」 「ふぇ……?」

2012-12-01 19:37:41
BIONET @BIONET_

さとりは、阿求の顔を、その涙で滲んだ瞳をのぞき込んだ。頭をがんがんとたたき割るような情報量がさとりに流れ込むが、構わない。それでもなお、さとりの思考は澄み渡っていた。

2012-12-01 19:38:08
BIONET @BIONET_

「もう少しだけ、貴方の心を」 破滅的ですらある記憶の荒波にダイブし、さとりは式を補う項を探す。

2012-12-01 19:38:30
BIONET @BIONET_

深く潜ることで、ことさらにさとりは阿求の特異性を思い知った。本当に、受信した情報全てを顕在意識に保持したまま、それらを好きなタイミングで取り出せる記憶機構。それを、超人と呼ばずしてなんと言えばよいか。 その特異な仕組みを認識したことで、さとりはすぐさま検索を終えることができた。

2012-12-01 19:39:07
BIONET @BIONET_

――世界には、三つの層が存在する。物理の層、心理の層、そして、記憶の層。記憶の層は万物が出来事を覚え、記憶は増える一方で経ることはない――。 (これだ!) 式が、完成する。

2012-12-01 19:39:24
BIONET @BIONET_

瞬く間に、さとりの心を蝕んでいた恐れと絶望は洗い流された。妖怪は精神に依存する生き物だ。精神が弱まることで身体も弱まるのであれば――その逆もしかりなのだ。 さとりは、顔面を覆っていたガーゼを、煩わしそうに、一気に引き剥がした。 「さとりさん!?」

2012-12-01 19:40:06
BIONET @BIONET_

驚く阿求が目にしたさとりの顔は、いくつものひっかき傷で痛々しい限りだ。 だが、その表情の、そのまなざしの、なんと力強いことだろうか。 「もう、大丈夫です」 さとりは阿求の髪を撫でて、優しくおしのけると共にゆっくり立ち上がった。

2012-12-01 19:41:07
BIONET @BIONET_

流石に肉体的に蓄積した疲労はごまかせないため、足下は生まれたての子鹿のように心許ないが、背後に確かに存在する竹の堅さが、彼女を支えてくれた。 そして、上着の内側から、第三の目を取り出す。さとりは手を添え、第三の目と共に、幻影達を決然的に見やった。

2012-12-01 20:15:51
BIONET @BIONET_

「さぁ、貴方達の記憶を晒け出しなさい!」

2012-12-01 20:18:11
BIONET @BIONET_

第三の目が大きく瞼を開いた。それと共に、眼球からは赤紫色の光の帯が幾筋も迸り、あらんかぎりに世界を走った。 一瞬、阿求もさとりも、世界が止まるような錯覚を覚える。それに伴い、せわしなくうごめいていた竹林の変貌が、緩やかに減速していった。亡者の行軍も停止する。

2012-12-01 20:18:26
BIONET @BIONET_

阿求はその光景に驚愕すると共に、さとりの行動を訝しんだ。実体を持たず、霊魂でもない存在を、さとりの読心能力が及ぶのか? その認識は疑問だった。

2012-12-01 20:18:52
BIONET @BIONET_

確かに、さとりは幻影一つ一つの心を読むことはできない。魂のない存在の心など読めるはずはない。しかし、さとりが視野に収めたのは、目の前の幻影だけではない。その背景にある、『世界の記憶』だ。

2012-12-01 20:20:00
BIONET @BIONET_

人間をはじめとする、意志を持った存在の心を読むことだけを考えてきた今までのさとりには、想像だにしない行動だった。仮に思いついたとしても、実行できるとは考えられないような、大それた業である。 それを可能としたのは、稗田阿求というサヴァンのおかげだった。

2012-12-01 20:20:27
BIONET @BIONET_

新たなる視野がさとりの感覚に広がる。とたんに押し寄せてくる驚異的な情報量。それは阿求の心を覗くよりも、さらに比べものにならない負荷だ。世界の記憶とは、それが存在し始めた時から現在に至るまでに累積されて続けてきたものだからだ。

2012-12-01 20:20:45
BIONET @BIONET_

さとりは、押し寄せる破滅的情報量を巧みに受け流した。まともに受け止めれば自滅するのは、はじめから予測済みだ。 彼女が知りたいのは、ひとつひとつのパッケージングされた情報ではない。今現在この異変を引き起こしている、直接的な仕組みについてだ。

2012-12-01 20:22:25
BIONET @BIONET_

あまりにも凄まじい情報量の中で、それを見つけだすのは、本来であれば困難どころの話ではないだろう。 しかし、ここで再度、阿求の心を覗いたことがカギとなる。彼女の精神構造を知ることは、情報量に関係なく望むものをくみ出す、とっかかりとなったのだ。

2012-12-01 20:22:44
BIONET @BIONET_

目論見通り、さとりはたやすくゴールへとたどり着いた。そして閃光のような速度で理解する。自分が何をするべきかを。 さとりが、一度第三の目を閉じる。それと共に拡散した光は収束し、周囲の明るさは元に戻った。

2012-12-01 20:23:03
BIONET @BIONET_

阿求の目からは、さとりの第三の目が突如発光し、何秒もしないうちに収まったようにしか見えなかった。いったい何が起こったのか、見当もつかない。 状況は、阿求の思索を待たなかった。

2012-12-01 20:23:27
BIONET @BIONET_

今まで竹林を覆っていた青白い燐光が、にわかにさとりと阿求の周りに発生する。思わず身を竦ませる阿求だったが、それに対してさとりは、微笑んですらいた。 「さとりさん――?」 「安心して、阿求さん」 さとりは、微笑みながら、両手を広げた。

2012-12-01 20:23:48
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