レプリカ・ミッシング・リンク #5
(あらすじ:アマクダリ・セクトに付け狙われる戦闘用オイランドロイド「ユンコ・スズキ」。一時はニンジャスレイヤーに助けられた彼女だが、再びアマクダリの襲撃を受け混乱の中で単身逃走。己の正体を求める彼女は、違法電波で語りかけてくる存在……謎の知性マグロが待つ秘密ラボへ向かうのだった)
2012-12-01 22:43:49深夜のネオサイタマ。重金属酸性雨の雨脚は弱く。指名手配オイランドロイドの跨がったバイクが、首都高速ハリキリ・ハイウェイをフルスロットルで駆け抜ける。 1
2012-12-01 22:49:56中央分離帯の3Dカンバンから溢れる光の洪水。ピンク、ブルー、グリーン。飛び出す漢字やカタカナ。渋滞情報。オイランドロイド・アイドルデュオ「ネコネコカワイイ」が性的囁き声で歌うスローでアンニュイなエレクトロ・ポップがハイウェイに大音量で響き、あの夜のように速度感覚を麻痺させる。 2
2012-12-01 22:57:15ユンコは下唇を噛んだ。彼女はネコネコカワイイを複雑な思いで見た。幼い頃、人形より新幹線が好きだった彼女は、最新曲の話も出来ず、周りの女子からムラハチされ孤立していた。ハイスクールでは無機質サイバーゴス文化が彼女の救いとなったが、ゴスなので当然スクールカーストの最下層であった。 3
2012-12-01 23:08:02ミラーに飛び込んできた警戒すべきマッポランプの大群が、記憶素子迷宮の探索から彼女を引き戻す。100メートル後方、追いすがるネオサイタマ市警のパトカー部隊。さらに後方に武装ヘリ2機。まるでアクション映画めいた追跡劇。現実味の無い悪夢。彼女は映画の登場人物になどなりたくなかった。 4
2012-12-01 23:15:57「シンボリック体!無限のハイスコア!大変画期的な入力デバイス!」3D広告カンバンに流れる最新ゲームCMのほうがよほど現実味があった。黒い画面に蛍光サークル。ウィトルウィウス人体図めいて固定され大の字で浮かんだ人型。「音楽に合わせて手や足を上下に動かして倍点!シンボリック体!」 5
2012-12-01 23:22:20シュゴウン!シュゴウン!シュゴウン!後方のマッポビークルから追尾ミサイルが発射された。「熱反応物体の飛来を感知な」平坦な合成音声。モーターユンコはバイクに跨がったまま上半身を180度回転させ、AIめいた無表情のままZAPライフルでそれを撃墜する。ダンスホールじみた閃光。爆発。 6
2012-12-01 23:35:37ユンコは上半身を回転させ、再び前方視界をズームアップする。車の流れが妙に少ない事を訝しんだその直後……ロックオンターゲット候補の照準マークが、横一列に並んだ。「ブッダ!ファック……!」ナムアミダブツ!重装甲マッポビークルが何台も横並びになり、ハイウェイを封鎖していたのだ! 7
2012-12-01 23:50:52ユンコは不吉な電子的デジャヴを味わう。あの夜自分はハイウェイで……死んだ?それを確かめるために「協力者」の元へ向かってる?……そんな事のために私は戦ってるのか?ファック!死んだ理由なんかどうでもいい!今こうして生きてる理由が欲しい!(((考えろ!考えろ!抜け道を……探せ!)))8
2012-12-02 00:01:40「ウウーップス!!」違法アンコドーナツを頬張りながら、キングピンは大きく放屁した。悪徳警官ニンジャは分厚い封鎖バリケードの背後に立ち、サイバー双眼鏡でユンコの接近を確認する。秘密の影響力を駆使して、ケンドー機動隊までも動員した。相手が全弾を撃ち尽くしても、ここは突破できまい。 9
2012-12-02 00:07:04「あと50メートルくらいです!」腐敗しきったケンドー機動隊員がキングピンに報告する。「漢字サーチライト。で、マッポガンで一斉射撃しろ。転倒したら囲んで警棒で叩け」キングピンは舌なめずりしながらコート越しに尻を掻いた「…ようやくあの人形を捕まえられるぜ。少しは役得しねえとな」 10
2012-12-02 00:16:29「迎撃態勢ーッ!」「ハイ!」「ハイ!」「ハイヨロコンデー!」マッポやケンドー機動隊が一斉に武器を構える。トラップが展開され、漢字サーチライトがバイクに乗ったオイランドロイドに向けて照射される。ナムサン!だがその瞬間、バイクは堅牢な側壁に向かって車体を大きく傾け……ZZAP! 11
2012-12-02 00:30:39BLAMBLAMBLAMBLAM!マッポガンの一斉射撃が無人のアスファルトに浴びせられる。「…アァ!?何処行った!?」激突に備えてバリケードの影に隠れていたキングピンが、異常を察して体を起こす。三基の漢字サーチライトは、強化側壁にZAPライフルで穿たれた大穴を照らしていた。 12
2012-12-02 00:39:21「アイエエエエエ!」ユンコの跨がったバイクは、ZAPライフルが引き起こした爆発の黒い煙を引きずりながら、極彩色ネオンサインの海に向かってダイブした。巨大カンバンが接近する。戦闘用AIに身を任せる。モーターユンコは飛翔するバイクの上に立ち、激突寸前でサドルを蹴って飛び降りた! 13
2012-12-02 00:50:34KA-TOOOOM!無人のバイクが突っ込み、ヨロシサン製薬のCMが映し出された巨大カンバンが派手に爆発した。モーターユンコは、スクランブル交差点のど真ん中へと着地。アスファルトにヒビ割れ。カエルが右膝部分へのダメージを報告する。「アイエエエエエエ!」通行人がパニックに陥る。 14
2012-12-02 00:59:21まだ動ける。ユンコはナビ矢印の方向を向いて走り出す。目的地へとかなり近づいている。だがエネルギバーが低い。腰を抜かしている通行人のスシ折詰を流れるような動きで奪い取り咀嚼しながら、モーターユンコは道路を駆けた。どこまでがAIでどこからが自分の意志なのか、不確かになってくる。 15
2012-12-02 01:05:29(((…近づいて…いる…)))違法電波の着信。ユンコはアスリートスタイルで車道を駆け抜けながら応答する。無茶なアクションの連続で所々シリコンが裂け、機械部が露出し始めている。(((膝が壊れかけてるッ!ほとんどアウト・オブ・アモー!修理は?そこに着いたら修理できるの!?))) 16
2012-12-02 01:15:35(((修理……もちろんだ……弾薬補給……それだけではない改善が君を待つ……今の君には余計なモノが多すぎる……破壊力に関係しない……マイコ回路などだ……モーター回路だけが必要なのだ……)))協力者が言った。(((マイコAIを消せる!?)))(((ここに来れば全て実現する))) 17
2012-12-02 01:24:54その瞬間、前方上空を武装ヘリが横切った。ニンジャソウル感知機能が警告を発する!だがユンコが反応しようとした時には、既にターボアサシンが視界いっぱいに接近していた!「イヤーッ!」「ピガガーッ!」ナムサン!信号待ちで並ぶ車の上を走っていたモータユンコは路地裏へと弾き飛ばされる! 18
2012-12-02 01:41:01モーターユンコの体はコンクリート壁に叩き付けられながらピンボールめいて飛び、ポリバケツに衝突して止まる。(((…イディオット……!……何故……自動攻撃機能……切っていた…!)))違法電波通信が乱れる。ウカツ!攻撃可否をマニュアル判断のままにしていた事が、仇となったのだ! 19
2012-12-02 01:47:44協力者の声が遠ざかってゆく。「通信機能に深刻な障害です」アドバイザーカエルが無表情で転倒しながら告げる。矢印はまだ消えていない。UNIX視界にウィトルウィウス人体図的なオイランドロイドが現れ、各部に黄色警告が点灯する。右膝や左腕に赤色警告。ユンコは立ち上がりカラテを構える。 20
2012-12-02 01:56:37「イヤーッ!」ターボアサシンは左右の壁を蹴りながら飛びかかった!「ピガガーッ!」ノイズまみれの視界の中で、モーターユンコはありったけのマイクロミサイルを発射!だが敵はこれを巧みにかわしつつ、スリケンを投擲してくる!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」 21
2012-12-02 02:09:50戦闘AIは回避動作を取らず、スリケンはユンコの額、喉、胸に突き刺さった。生身の人間ならばいざ知らず、オイランドロイドならば致命傷にはほど遠い。「ピガガガガガーッ!」回避動作の代わりに得た攻撃機会で、モーターユンコは両腕のZAPライフルとアサルトマシンガンを連射する! 22
2012-12-02 02:14:03だがターボアサシンは両踵に仕込まれた秘密のブースター装置を駆使し、見えない足場を持っているかのように空中で突如サマーソルト跳躍を繰り出して、巧みにロックオンを回避する!ALAS!モーターユンコに搭載された戦闘用AIには、自動学習機能が搭載されていないのだ! 23
2012-12-02 02:19:18