ゆまなんかは多感な頃にちょっかいを出してみようとするんだけど、割とすぐに気付いちゃう。一応その後もちょっかいは出すだろうけれど、これはむしろ焦らせて気付かせようみたいな無意識の結果じゃないかな
2012-11-22 02:16:41だから本当は"店"にもあまり来ては欲しくない、それが偽らぬ心情だった。「そうは云ってもねえ。邪険には出来ないし、私たちが気を付けなければ」
2012-11-22 03:20:08「ったく。あの姉ちゃんはいつまで生殺しにしとくつもりかねえ……満更でもないだろうに、ハタから見てりゃどっちもバレバレだっての」「そうは云っても躊躇するのもわかるわ。私たち、普通じゃないもの」「そりゃまあそうだけどさ。だからこその希望……でもある、よなあ?」「それは、ねえ……」
2012-11-22 03:32:16あの頃、いやあの日。あいつが云っていたことを思い出す。それでも作り物の操り人形なんかじゃない、生身の身体には違いないんだ、来るモンだって来るんだし……とは、都合次第でつい止めがちなあたしの云えた義理でもないにせよ。
2012-11-22 03:48:31そうであることをどうにか肯定せねば、と云う意識があるのかもしれなかった。生きる、と云うことに敏感すぎるのか、とも。そう思いながら、孵らぬ卵を良いことに放埓に興じたこともある。一抹の虚しさは、否定し切れるものではなかったけれど。
2012-11-22 04:28:30いくら傷めつけたところでこの躯はさして堪えはすまい。条理のあちら側の、その力を込めてやればたちまちのうちに元通り、だ。やはり、ただのヒトでなど居られないのだと痛感させられる瞬間だった。
2012-11-22 04:35:04それどころか。残しておきたい傷さえも塞ぎ消そうとする、それが生きることに他ならぬのだと云わんばかりに。それは耳朶を穿つこの小さな孔すら例外ではなく——
2012-11-22 04:44:14孵らぬ——そうだ、恒常性と云うやつなのだろう。機能と使命は相反するのだから、契約がある以上使命が優先されるのは道理には違いない。孵りかけのそれを胎に留めておくには、想像以上の問題が山積しているようだった。
2012-11-22 05:16:25姉としてだけではなく、と
ずっと幼い頃。ぼくは、そのひとをしっていた。ぼくだけしか知らないのだろうと、そう思っていた——あの日、夕暮れの公園できみに会うまでは。
2012-11-14 03:15:59母さんが姉さんを引き取った、その理由は定かではないけれど。その日から、ぼくには姉が出来た。それはとても、誇らしいことのような気がしたのだ。
2012-11-14 03:23:58あのひとがいないことに気付いたのは、姉さんがやってきてどれくらい経った頃だろう。「——を、よろしくね」と、頼まれた気もする。姉さんの背中を見なくなったのは、きっとその日からだ。
2012-11-14 03:32:37「……いつから」「わかんないよ。あの日の公園かも」「そう」「姉さんは、いつも遠くを見てる。まるで、ここにいない誰かを」「かもね」「危なっかしいんだよ」「だから」「じゃなくて。そんなんじゃない、オレは……姉さんが好きだ」「私もよ」「違うよね、それ……オレの"好き"と」「……えっ」
2012-11-06 04:55:26わたしのように苛烈な宿命を、娘たちには背負わせずに育て上げられたとは思う。無論義母(はは)の力添えが無ければ到底不可能であったあろう、とも。
2012-11-17 12:34:54「行くんだね」「ええ。幸せに微睡むには些か時が経ちすぎましたから」「それで、いいのかい」「じ、義母(かあ)さんならどうしますか……は、愚問でしたね」「遠い親戚」「え」「時々家に寄ってくれる遠い親戚がいるんだ」「……あ。はい、そうですね」「ふふん。な」「ふふ……じゃあ」「ああ」
2012-11-17 12:42:55妻が行方不明になったのはそう、父の一周忌を終えてしばらくした頃だったろうか。そんな日が来るかも知れないと、漠然と覚悟はしていたのだが。そう云えばこの店の面々もあの頃から殆んど変わらないままだな……などとも思う。
2012-11-18 05:05:50