軍人と暗殺者３

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 蓮見の部屋は乱雑に本が積まれている。僕はこの国の言語を話す訓練は叩き込まれたが、読み書きは必要ないとして簡単なものしかできない。ほとんど暗号に見える文字の羅列が全て蓮見の頭に入っていると想像すると目眩がする。何故か子供向けの絵本の山もある。僕にも読めそうだ。

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@Yukilinus 鈍った筋肉をストレッチして伸ばし、最後にカーペットの床に手をついて倒立する。じわり、と頭に血が上る感覚。殺せないなら帰れ、確かにあの淡い色の髪の男が言った通りだ。仕留め損ねた標的に手懐けられる以上の屈辱はないのに、今朝は礼まで言われた。僕は何をしているのか。

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@Yukilinus がさ、と玄関から物音がした。さっきの男が戻ってきたのかと身構えるがドアは開かない。確認すると、扉に取り付けられたレターボックスに封筒が一通入っていた。宛名はない。裏には黒い封臘があった。人の手形を象った印璽。封を切ると、紐で括られた銀色の髪の毛が零れ落ちた。

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@Yukilinus 弟子が裏切れば師父に危害が及ぶ。これが指になり耳になる。恐怖を与える為に目玉は残し、最後には命を。組織の鉄の掟だ。蓮見が置いていったライターと灰皿を持ち窓を開ける。義父の髪の毛を指先で撫でてから、封筒ごと火をつけた。焦げ臭いひどい匂いがして、僕の腹を冷やす。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus いつもより早い時間にただいまと声がする。僕は返事をしない。蓮見が壁を手探りして照明のスイッチを探す、灯りが閃いて一瞬何も見えなくなるのを構わずに飛び出した。目を狙い握ったボールペンで突くが、読まれたように躱されてしまう。当て身を食わされ、壁に押し付けられた。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus つまんねえ連中に因縁つけられてくさってたんだ、遊んでくれんの？ 捻り上げられた手からボールペンが滑り落ち、楽しげな声に歯噛みする。耳朶を食まれ身震いすると同時に、ああ、と唐突に解放された。先に風呂だな。蓮見は床のボールペンを抜かりなく拾い、浴室に消えていく。

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@Yukilinus シャワーを浴びるのかと思ったがすぐに戻ってくる。…風呂は。今ためてる。ボールペンは元のペン立てに戻された。かなわねえな、こんなもんまで武器にすんのか。今度は二本立てた指を突き出すが、それも寸でで掴み取られた。はい、俺の勝ち。蓮見は僕の手に拳で触れておどける。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus そのまま胸に引き寄せられて体から力が抜ける。どうして。師父の身を危険に晒して、僕はこんな男に。忸怩たる思いのままソファに座らされる。女物のシャツの釦を器用に外していく指先に焦れるような感情を抱く。そういえば、今日ここに書類取りに来た奴いただろ、なんか話した？

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus その声に含まれる苦さを感じながら黙って首を振ると、そうかと破顔した。殺せないなら帰れ、耳にこびりつく台詞を教える必要はない。馬鹿蓮見と罵りながらも仕えている彼の本心だろう。シャツをはだけられ、首筋を貪られる。俺が勝ったんだから、言うこと聞けよ。腕を引かれた。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 抗う暇もなく服を脱がされ、浴室に連れ込まれた。石鹸の泡に丁寧にくるまれて洗われる。鼻歌でも歌いそうな余裕で胸や脇腹を擦られる羞恥に堪える。泡を流され、先に入ってろと浴槽を示されるが、こんなに湯を張る習慣は僕の国にはない。試しに爪先をつけると飛び上がる程熱い。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 熱すぎると文句を言うと、別に普通だ、根性がないなと返される。つい意地になって足を浸け、もう片方の足も入れて浴槽の中に立つと膝の下がびりびり痺れる。顔を顰めてゆっくりと腰を下ろすのを、蓮見は自分の体を洗いながら眺める。…入った。まだだ、肩まで浸かって百数えろ。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 何故だ、意味がわからない！ 僕の叫びが浴室に反響する。そういうもんだ、作法に意味なんかあるか。言い切られて不承不承に肩まで沈めた。石鹸の泡を流した蓮見の体には無数の傷痕が残る。僕のつけた傷などものの数に入らない。この熱い湯を注がれたみたいに頭がぼうっとする。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 俺も入る、ちょっと詰めて。浴槽に沈んでくる体に押されて、縁から湯が溢れだした。二人だと狭かったなと顔を近付けて笑われるが、返す台詞が浮かばない。口を噤んで睨むと、またおっかない顔してと鼻を摘まんできた。ふざけるのはやめろ。手を払うと、今度は首筋を撫でられる。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus いい色になってきたな。…もう出たい。いくつまで数えた？ 忘れた。重たくなった頭を浴槽の縁に凭せかけると、手が体を滑り降りていく。脚の間に這い込まれて息を呑む。…やめろ。そこを乱されたら。上に覆い被さってくる体を押し返そうとしたが、果たせずに縋りついてしまう。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 熱い湯に体内を侵略される恐怖に身が竦む。 片腕で腰を引き寄せられ、湯が纏わりつく足をばたつかせて水面が波立つ。きついな、喉で嗤う蓮見の肩に爪を立て掻き毟る。嫌、嫌だ。逆上せる寸前の頭で羞恥を感じる余裕はない。いいようにされた挙げ句、湯の中から掬い上げられた。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 乾いたタオルで隅々まで拭かれ、ベッドに寝かされた。だるい体を起こす気にもならない。蓮見は冷蔵庫を開け水のボトルを取り出し呷る。欲しいかと問われて頷くと、唇に飲み口を運ばれた。あ、と思ったのが何だったか、確かめる前に冷えた水を流し込まれ、うっとりと目を細める。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 口の端から零れた滴を、勿体ねえ、と唇で吸い取られ、ああ、と吐息が漏れる。火照った肌を這う舌だけが水に冷やされてひやりとして、それを口に含みたいと考えている自分に驚く。喉の渇きとは似て非なる渇望、次第に温まっていく舌に煽られ、体の内側に疼くような熱が生まれる。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus そこに至るまでの手順に、いちいち体は怯える。ゆっくり解され、しかし抵抗を認めない強引さで指を飲み込まされ、さっきより柔らかくなったと指摘される。屈辱に傾いているのを感じる。消すべき標的に体を許し、あまつさえ自ら欲するなどありえなかった筈だ。なのに、どうして。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 不意をついた結果がこの様では、僕に蓮見を消すことは不可能だ。いっそ、憎めば叶うのか。敬愛する師父を危機に陥れる元凶が、目の前で笑っているこの男なのだと。だが、快楽を教え込まれた体は喜んで綻び、もっと、もっととねだる。仇敵と交わって絶頂に追い落とされる、僕は。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 疲れたから明日は自主欠勤。そう宣言したら鳥羽は好きになさいと許してくれた。お前らも適当にサボれよ。言われなくてもそうします。千石は笑った。休日明けに机に積まれた書類の山が見えるようだが、ともあれ休みにしてよかった。ぐったりと伏した白い背中に再び情動が起こる。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 荒い呼吸をしていた殺し屋が鋭く息を呑んだ。手足を突っ張り逃げようとするのを背後から捕まえ入り込む。熟れた内部は柔らかく受け入れ、刺激に応えて締め付ける。深く浅くを繰り返し、これ以上進めないところからもっと奥が欲しいみたいに揺さぶると引き攣ったように収斂した。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 絞られる。たまらない。俺は今きっとすごいアホ面をしてる。背後から貫いて綺麗な瞳を拝めないのが惜しいが、すけべ丸出しの顔を見られないで済んでる。自分を晒さなけりゃやってる意味ないけど、さすがにちょっとどうかと思う。男でも女でも、俺はこんなに執着した試しがない。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 俺を飲んだ腹を撫で、そのまま下腹を探る。固く濡れそぼつものを可愛がってやると嫌がるように腰が浮く。やらしいな、そんなにケツ上げて。シーツに額をつけ両手で頭を抱えた殺し屋の耳元で自滅していく様を揶揄すると、その言葉にか吐息にか反応して中が戦慄いた。限界が近い。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus テーブルの灰皿とジッポを取り、裸のままベッドに胡座をかいて煙草に火をつける。毛布を掛けてやったベンジャミンの体は時折ひくりと震える。ひどいことをしてるとは思う。でも俺が生きてると感じるのはこれだ。命を狙われるだけでは足りないのかと言われたら苦笑する外ないが。

長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 灰皿に灰を落とすと、吸殻以外に何かの燃えかすが混じっているのに気付いた。焦げ臭い匂い。心当たりは嫌でもある。あ、今、鼻の頭に皺寄ってるな。自覚できるだけ成長した。眠りに落ちたらしい、規則正しい呼吸が聞こえてくる。毛布を捲り、骨ばった体をわざと強く引き寄せた。