犬とオオカミの間~手放すことと繋ぐことの話

毎度おなじみゾンサバのパロディシリーズ。 便利屋+擬獣化という、結構なカオス。書いている本人達はとっても楽しんでいる。BLあり。
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ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 初めて彼を見たのは、遠目から。黒髪に、黒い瞳。一人で足早に歩く姿を目で追った。この国に多く見られる外見だ。取り立てて特徴があるわけでもない。人の多い場所へ行けば簡単に紛れてしまうだろう。監視をするには不向きだ。最初そう思った。

2013-02-10 23:50:33
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep そして、彼もそれを利用するかのように人に紛れてしまう。目立つことを嫌うかのように。誰も近付かず、近付けさせず。厄介だ。彼は己の立場を理解している。ただ見ているだけでは監視にはならない。目で彼を追いかける日が続く。彼は人の集まるところを避けているわけではない。

2013-02-10 23:51:38
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 呼ばれれば飛び込む。気になることがあればあっさり動く。けれども、いつの間にかそこから一人抜けている。一匹狼。そんなありきたりな言葉が脳裏を過ぎる。その狼に、ふと見ると一人の女性が寄り添っていることに気付いた。静かに、さり気なく、まるで互いを護るかのように。

2013-02-10 23:52:27
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 誰も近寄らせぬ獣が唯一、近寄らせる女性。それが男女なら、どういう関係か思いつくのは皆同じだろう。僕も勿論、例外ではなかった。聞けば、高校時代から共にいたという。厄介だ。その時再度思った。誰一人近寄らせないと言うなら、時機を待てば良い。

2013-02-10 23:53:23
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep けれど、そこに一人加わると話は変わる。危うい橋を渡らねばならない。誰のものでもない獣に所有者がいた。仕事のやり辛さとは別の苦さが広がる。馬鹿馬鹿しい。苦味をかみ殺し苦笑する。

2013-02-10 23:55:41
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 僕の仕事は獣を手に入れることじゃない。獣が暴れぬように監視し、場合によっては手懐ける。それだけだ。その時はそう思った。まさか自分が獣に鈴をつけられるとは思いも寄らなかったのだ。

2013-02-10 23:57:13
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 待ち合わせに指定されたカフェに見知った顔を見つける。向こうは顔色を変えていた。相変わらず素直な人だ。どうして監視役が出来たのだろう。お一人ならこちらへ。気遣ったのか、店主らしき女性が案内してくれるが断る。いいえ、待ち合わせなんです。テラスいいですか。

2013-02-11 00:30:00
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep その格好で寒くないかい。大丈夫ですよ。…そちらはお連れさん?店主の視線が足元へ向かっている。にゃあ。…お前、こんなとこまでどうしたの?苦笑しつつ、薄茶色の猫を抱き上げる。寒いけれどごゆっくり。女店主は笑った。

2013-02-11 00:30:58
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep ほら、オーダー。サマンサに背中を叩かれ、テラスへ向かう。私が行こうか。ミシェル、甘やかすんじゃないよ。大丈夫だよ。心配されつつ、テラスへ向かい灰皿を置くと今日はいらないわとそっけなく言われる。かつての恋人の友人は、変わらず美しかった。黙ってメニューを渡す。

2013-02-11 00:31:59
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 最初、彼女は蓮見の恋人だと僕は信じて疑わなかった。蓮見と友達ごっこを始めた頃、彼は鳥羽さんを「高校時代からの友人」と僕に紹介したので苦笑して言ったものだ。別に隠さなくても良い、君の恋人なんだろう?二人はあからさまに顔を顰め、違うと口を揃えた。

2013-02-11 00:33:53
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 「こんな馬鹿な男の恋人になる人の気が知れない」と彼女は言い「こんな怖い女を可愛いと思える男の正気を疑う」と彼は言う。やり辛い仕事だ。蓮見を監視してそう思ったのはあれで何度目だろう。けれど遠目に眺めていた時と異なり、彼らの傍で眺めると、確かに二人は友人だった。

2013-02-11 00:35:04
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep それは、いっそ恋人同士の方がマシだったのではと思える位、強固な友情だった。友達ごっこが恋人ごっこに変わった時、何度彼女の存在を疎ましく思っただろう。そして、同時にそんな自分に嫌気がさした。彼女は何も悪くない。蓮見に打算で近付き、騙し、挙句裏切ったのは僕だ。

2013-02-11 00:36:00
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep たとえ蓮見が承知していたとしても、罪の深さは変わらない。彼女の方がずっと彼にとって必要な存在だ。だから僕は、自分が去れば彼らが友人から恋人に代わるのではないかと身勝手な願いを持った。それが正しい道で、蓮見にとって僕なんかと一緒にいるよりも良い形だと。

2013-02-11 00:36:46
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep ノートパソコン代わりらしい、少し大きめのタブレットに視線を向けたまま、ミントティーを、と鳥羽さんは告げる。良かったら。膝掛けを渡すとありがとう、と口元に笑みを浮かべ、受け取ってくれる。にゃあ。猫を抱き上げ、膝掛けを広げながら鳥羽さんは笑った。

2013-02-11 11:03:32
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep お前はどこかでご飯を貰ってきたんでしょう。…煙草、止めたのか。いいえ、今日はデートなの。液晶を叩く爪は紅ではなく薄いピンクだ。心配しなくても、相手は蓮見じゃないわ。…僕には、関係ない。あらそう。いつも通りのそっけなさは変わらない。

2013-02-11 11:05:09
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 今日の服装はいつもより色目もデザインも柔らかい。デートというのはあながち嘘ではないだろう。同時にかつての恋人の友人をここまで知り尽くし、観察する自分が嫌になる。…ごめんなさいね。こちらの去り際、液晶を見たまま呟く。貴方がいると知ってたら、ここには来なかった。

2013-02-11 11:06:56
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep その言葉は意外だった。てっきり蓮見に聞いてきたとばかり思っていたから。貴方と再会したとは聞いてたけど、詳しいことは何も。見透かした様に告げられ、逃げるように厨房に戻る。彼女はまるでこちらの心を読めるかの様なことを言う。昔は後ろめたさも手伝ってそれが怖かった。

2013-02-11 11:09:28
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep あら、やりすぎた?猫の視線を感じ呟くと、喉を鳴らされた。お前は血の気が多い。立石さんによく言われる。もっと色々言いたいのよ。私は蓮見のことを愛しくも恋しくもないけど、大事には思っているから。でもねえ、蓮見が彼を責めてないのに私が怒っても仕方ないでしょう。

2013-02-11 11:11:13
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 猫は目を細め、体を擦り寄せる。お前は心配症ね。今日は藤村さんに会うだけよ。それも、手続きだけ。早く戻らないとねえ。うちの男連中はアナログ派ばかりで困るわ。誰か代わりにパソコン業務やってくれたらいいのに。そっと、テーブルにカップが置かれる。ありがとう。

2013-02-11 11:12:41
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 顔も上げずに礼を言うと、人の気配は消えない。ありがとう。顔も上げずに礼を言うと、人の気配は消えない。お昼のピークを過ぎた時間帯だ、他にお客はいないようだった。仕事を切り上げて見上げると、深緑の瞳がこちらに向けられていた。何か御用かしら、ウェイターさん?…鍵を。

2013-02-11 11:14:20
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 鍵?蓮見に鍵を、まだ?…私の部屋のなら、蓮見に預けてあるわ。貴方の気分を害してるなら、ごめんなさい。でも他に預けられる人がいないの。自分が文句を言える立場でないことを、自覚してないほど馬鹿な人ではないだろう。それでも言わずにいられなかったのか。

2013-02-11 11:15:10
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 苦しげに光る深緑の瞳が痛々しい。…蓮見には、君がいるから大丈夫だと思ってた。その言葉に思わず苦笑する。やはりそういう仲だと思われていたのか。私とあの人が付き合うと?ああ。で、跡を継ぐと?…それが、正しい形だろう。にゃあ。猫が鳴いて、頭にのぼった血が下がった。

2013-02-11 11:16:17
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep ありがとう。小さい頭を撫でてやる。…貴方が自分を過小評価するのは勝手だけど、私を過大評価するのはやめてくれないかしら。別にそんなにいい人じゃないのよ、私。蓮見に恋愛感情は持ったことないし、これからも持たない。貴方がいてもいなくても。じゃあ、どうして…!

2013-02-11 11:17:44
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 声は小さいが語気が荒く、どきりとする。どうしてずっと、彼の近くにいる…?!恋人にもならず、友達と言うには近い場所に、ずっと…!思わず彼を見返すと、我に返ったらしい深緑の瞳が揺らめいた。…すまない。一度下がった血が沸き上がるのが自分でも分かった。

2013-02-11 11:18:57
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep …そんなに。ぴく、と鳥羽さんの膝で眠っていた猫の耳が動いた。そんなに蓮見のことが好きなら、どうして彼をあの時手放したの…!アーモンド色の瞳が刃物の様にぎらついた。まるで剥き出しの刀の様に。あの時どれだけ蓮見が辛かったか、私より貴方の方が分かるでしょう?

2013-02-11 11:19:55
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