- Kotoba_Yoku
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状況は変わっていない。 空はまだ下にある 私は京王線に乗り込んだ。 窓の外、車両の走るレールは青天の上にある やはり何も変わっていない。
2012-12-07 19:35:39私は電車を降りた。 どこで降りたかについては覚えがない。 けれどホームにはアガサクリスティがいて、彼女とハグしたのははっきりと記憶している。 私は彼女のファンなのだ
2012-12-07 20:08:08私はアガサクリスティの次にその好々爺とかたい握手をした。 彼はホットミルクを注ぎながら言った。 「みな、不安定な足元に慣れてしまっている。そうではないですか?」 私は曖昧に頷いた。 「でも、ハイヒールを履く若者はもういない」 そう言って、好々爺はうなだれた
2012-12-08 11:19:43私はハイヒール製造業者の葛屋を去り、また青天の道に出た。 道すがら、建築工事標準仕様書越しに、女性たちの足元を窺ってみる。 やはりハイヒールは見られない。 諦めようかと思ったところ、黒光りするピンヒールが遠くに見えた。 私は彼女に親しみを覚え、話しかけた。
2012-12-08 18:01:44「空が地面に代わったからって、誰もハイヒールを履かなくなったりしないわよ。そりゃ、空の上は歩き辛いわ。けれど、ハイヒールをはいて歩き辛いのは元からじゃないの」 ピンヒールの彼女は言った。
2012-12-08 19:55:42私はピンヒールの彼女に礼を言って別れた。 雨が降り出したから、近くの喫茶店に入った。 窓際の席で、なんとなく雨を眺めていると、昔はあれが上から降ってきたのだよなと少し感傷的にもなる。 そして、誰もいない通りを見ると、傘の存在に思い至る。 そうだ、消えたのはハイヒールだけじゃない
2012-12-08 21:48:58雨が止んで、人が通りに溢れだした。 みな、どこかで時間を潰していたのだ。 私は少しだけ急ごうと思った。 あそこへ行けば、全てが変わる。 空を空に戻し、私は私に戻るのだ。
2012-12-09 00:27:18空は空であるべきで、君は君であるべきで、私は私であるべきだ。 でも君は嫌がるだろうね。 私も嫌だよ。 空が地面で、君がヒーローで、私がラットだっていいと思うよ。 変容は個体の問題なのだから
2012-12-09 10:20:45私は黒マスクの男にハイヒールを投げた。 彼は傘で防御しようとしたけれど、傘は錆びていてそうすぐには開かない。 黒マスクはハイヒールに倒れた。 空が音を立てて戻っていく。
2012-12-09 17:49:05しかし、まだ終わらなかった 緑のエプロンをつけた女が男を食ったのだ 空が地面に戻ってしまった。 私はあの女を知っている 彼女は私が雨宿りに立ち寄った喫茶店の定員だった。 「空が下にあれば、傘は使えない。だから私の喫茶店は繁盛してやっていけるの! 分かる⁉」 分からないと私は言った
2012-12-09 17:55:46緑の女は黒男を食いながら、ふと私をみた。 「あなたが投げたハイヒール、こんな不必要な物がまだ存在したのね」 「それは私のよ」 ピンヒールの彼女が暗闇から出てきた。 彼女をみて緑の女がはっとする。 「お姉ちゃん」 そう、二人は姉妹だった。
2012-12-09 18:03:31ピンヒールの彼女は妹を叩いた。 「このハイヒールはお父さんがつくった物よ!あんたの喫茶店が売れてるかげで、お父さんはとっても苦労していたの」 「そんなはずない!お父さんは私に喫茶店を遺して死んだのよ!?だから私は何としてもあの店を護りたいの」
2012-12-09 18:12:22好々爺が二人に割って入った。 「娘たちよ、もういいんだよ。私が全ての原因だな。それじゃあ、私はもう行こう」 娘たちは父の両腕をそれぞれ掴んだ。 「私たちも一緒よね」 そうして彼らは消え、全てが変わった。 私の旅はこれでもう、終わりだ。
2012-12-09 18:19:44