「シー・ノー・イーヴル・ニンジャ」#2#3(再放送バージョン)

ニンジャスレイヤー再放送のまとめです。#1 http://togetter.com/li/408634 #2#3 http://togetter.com/li/423038 #4#5 http://togetter.com/li/451419
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NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

彼は絶望したが、世をはかなんで死ぬかわり、今回の事件を起こした。ソバシェフ・ランペイジ事件を。「あのバケモノ、お前一人で作ったのか」ジャイゴが問う。ゼンダは頷いた。「そうだ」配達トラックとショベルカーを溶接合体、鋼板装甲でカブトムシめいて覆った、悪魔の無限軌道ビークルを。48

2012-12-14 21:09:21
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

過重装甲を施され、無限軌道と複数のロードローラーを備えたビークルは、破壊意志がグロテスクに具現化した異形の怪物であった。ゼンダはそれを用いて工場予定地へ突入。建設中の工場建屋を破壊し尽くすと、路上へ飛び出し、周辺の車両を次々にスクラップにし、最終的に戦車によって鎮圧された。49

2012-12-14 21:12:51
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「俺は許さない。奴らの事は許さないんだ」湯呑みを握り締めるゼンダの手に血管が浮き上がる。「許さない」彼の物言いは現在進行形だ。判決を受け、こうして服役の身となった今も、その憎悪は覚めるどころか循環エネルギーの永久機関めいて、一層その苛烈さを彼の内に育てているようであった。 50

2012-12-14 21:14:37
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「お前」ジャイゴは言葉を呑み込んだ。気まずい沈黙が場を満たした。フジキドはゼンダに気圧されて凍りついたようになっている面々の食器を素早く重ねると、静かに席を立った。「今日は私が食器を片付けて来よう。新入りだからな」「お……おう」 51

2012-12-14 21:15:42
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

……洗い場に食器を素早く返すと、フジキドは野伏じみた隠密性で食堂の人々をすり抜け、中庭に出た。彼には目的があった。昼の休憩時間は長い。ケマリ・フットボールをする者、壁によりかかって本を読む者、日陰で写経をする者。看守達の見守る中ではあるが、囚人たちは一時の平安を過ごす。 52

2012-12-14 21:17:35
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

フジキドは己のニンジャ動体視力をフルに働かせ、囚人一人ひとりの顔をサーチしていく。彼のニューロンには求める人物の顔立ちがはっきりと刻み込まれている。ガンドーと共に見つけ出したマキモノ。そこに挟み込まれた不明瞭な一枚の写真。被写体は、ウミノという名の考古学者……。 53

2012-12-14 21:21:42
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「どこにいる……ウミノ=サン」フジキドは呟いた。「どこに……」 54

2012-12-14 21:22:13
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「シー・ノー・イーヴル・ニンジャ」#2 →#3

2012-12-14 21:24:32
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

キョート城、黄金茶室。 1

2012-12-14 21:24:58
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

黄金のイロリで火にかけられた黄金チャガマを挟んで、差し向かいに正座する二人のニンジャあり。 2

2012-12-14 21:26:46
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

赤熱する炭を思わせる赤橙色の装束を着たニンジャは煮えたぎる緑の液体を黄金のヒシャクで掬い上げ、茶器に注ぐ。茶器は金ではない。ナスめいた艶やかな黒である。ゼンのアート観はショッギョ・ムッジョを内包したストイックなもので、極めて注意深い洗練の上に存在する。華美一辺倒では不粋なのだ。3

2012-12-14 21:28:52
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

赤橙のニンジャは熟練の手つきでミキサーを用い、チャを泡立てると、奥ゆかしく向かいのニンジャに差し出す。「つまらないものですが」「いえ、結構です、悪いです」暗銀色の装束を着たニンジャは一度断る。ここですぐに受け取る愚者は蛮人と見なされ、ムラハチだ。「……そう仰らずに」「それでは」4

2012-12-14 21:31:42
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

一度断った事で十分な奥ゆかしさがこの暗銀のニンジャに生まれた。儀式めいて手元で茶器を二度廻した後、いよいよその茶器を口元に運ぶ事が許される。一息に飲み干せば、もちろん「ヨクバリ」扱いで即時にムラハチだ。三度茶器を傾け、茶器の底にわずかにチャの緑を残すのが正当なワビチャとされる。5

2012-12-14 21:34:27
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

この黄金茶室の黄金タタミに上がる事を許される彼らのギルド位階は共にグランドマスターである。当然、複雑怪奇なムラハチ・トラップが幾重にも仕込まれたワビチャの作法は細胞レベルで正しく理解している。見よ、彼らは驚くべき事に、ある程度のくつろぎすら見せている。6

2012-12-14 21:38:03
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

……ここで一度、皆さんに、「格差社会」を掲げるザイバツ・シャドーギルドの厳格な位階制度について説明しておくとしよう。最下級はアプレンティス(徒弟)。これはニュービー、あるいはそれに準ずるニンジャである。その上に位置するのがアデプト(達者)。最も数の多いニンジャだ。 7

2012-12-14 21:40:56
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

アデプトの中で特に成果を収め、カラテを極めた者達が、マスター位階を授かる。この時点で相当に油断ならぬ強者の集まりであるが、更にその上がいる。それがグランドマスターだ。心技体全てに秀でた恐るべき支配階級である。そして、それらを統べるピラミッドの頂点は無論、ロードその人だ……。8

2012-12-14 21:45:05
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「彼は実際いかがか?スローハンド=サン」赤橙のニンジャ、イグゾーションが切り出した。「……そうよな」スローハンドの目の周りの皺は熟年者のそれであり、声も低い。だが彼の実年齢は若い、ずっと若い……その老化は、彼のジツの副作用なのだ。 9

2012-12-14 21:46:37
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「カラテのワザマエ。状況判断。奥ゆかしさ。申し分無し」スローハンドは言った。「ギルドをより高次の組織へと導く存在たりうるやも知れぬ」「何とこれは。惜しみなき絶賛だな」イグゾーションは含みを持たせた。スローハンドは目を細める。「何か引っかかる事があるか、イグゾーション=サン」10

2012-12-14 21:48:37
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「そこだ。まさにその申し分の無さが」イグゾーションは答えた。「それがかえって、彼の真意を隠しておるように」「……」「どう言い繕おうと、主君を捨てた事実は消えぬしな」「ふむ」スローハンドは沈思黙考した。イグゾーションは扇子を取り出し、己を扇いだ。スローハンドは茶菓子を取る。11

2012-12-14 21:55:19
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

カコーン。茶室の黄金ショウジ戸の向こうで、控えめなシシオドシが鳴った。これはイグゾーションへの何らかの報せの合図である。外には配下のアデプトないしマスター位階のニンジャが跪いているはずだ。しかし当然、「用ができた」などと言ってこの場をすぐに中座するような行為は厳禁である。12

2012-12-14 21:59:16
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「おや、何か聞こえましたな」スローハンドが水を向けた。勿論この音がイグゾーションへのメッセージ合図である事を知っている。イグゾーションは「私が見てきましょう」と腰を浮かせた。「こちらはお任せください」とスローハンド。「申し訳ありません」とイグゾーション。機械的儀式プロトコル。13

2012-12-14 22:08:17
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

二人のやり取りはアートめいて滑らかに完成されている。ワビチャに精通しない者がこういった場に紛れ込めば、まず間違いなく、恥辱のあまり自らセプクするはめになる。こういった官僚的儀礼の数々は長い年月をかけて形成された無言の障壁であり、格差社会を強固に維持するシステムなのだ……。14

2012-12-14 22:09:13
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「ドーモ、クラミドサウルス=サン」茶室を離れたイグゾーションは廊下で傅く茶色のニンジャに目配せした。「ハハーッ」クラミドサウルスは両手を顔の前で組み合わせアイサツした。「こうして会えたという事は、首尾があったと考えて良いのかな」「その通りでして!」クラミドサウルスは頷いた。15

2012-12-14 22:11:46
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「見つけましてございます!ウミノ・スド。存命です。見つからなかったのは、あの野郎、偽名で獄中にいたからでして!ちったあ考えたんでしょうなぁ、ヘッ!だがこうなると浅知恵ですわ。逆に逃げ場無しですぜ!」「でかした!素晴らしいぞクラミドサウルス=サン」イグゾーションは褒め称えた。16

2012-12-14 22:15:13
NJSLYR SAIHOSO @njslyr_r

「ありがたき幸せで!」クラミドサウルスは額を床に擦りつけた。イグゾーションは彼を促して先を歩かせ、廊下を進んでゆく。ここはキョート城の高い階で、廊下はバルコニー状、朱塗りの手摺の向こうにはキョートの夜景が広がる。夜空には幻想的な満月が出ている。「風流なものだ」「へへえ」17

2012-12-14 22:18:34