円の1周はどうして360度?

数学の専門家である、@yon_ichiro さんが、「円の1周はどうして360度?」という謎に答えてくれました。 ポイントは、「都合が良い数だったら360でも2πでもなんでもいい」「じゃあ、何にとって都合が良いか」というところかな。
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四一郎 @yon_ichiro

今晩、昨日ご質問いただいた「円の1周はどうして360度?」「1/3=0.33333……の話」にお答えツイートをしようと思います。子どもが全員寝てからですね。

2012-12-16 19:20:02
四一郎 @yon_ichiro

(0)でははじめます。@pirka713 さんから「どうして円は360度?」というお題をいただきましたので、これについて少々しゃべります。「ぐるっと一周する角度をなぜ360度にするのか?」という意味でいいですよね。

2012-12-16 22:26:31
四一郎 @yon_ichiro

(1)@pirka713 さんは「直線が180度なのも中途半端な感じがする」といっておられるので、つまり、360度ってずいぶん中途半端な数字だな、ってことですね。脈絡ないですが昔ガッツ石松さんが「これからは方針を380度変えていきます」と言ってたことを思い出しました。

2012-12-16 22:29:29
四一郎 @yon_ichiro

(2)決め方としては、一周を何度と決めても、理論的に困ることはないはずです。100度でも1000度でも。ですから、360度になっているのは、まあ、習慣です。しかし習慣にはそれが習慣となるだけの理由はあるでしょうね。よく言われるのが「何等分かするときに計算がラク」です。

2012-12-16 22:31:57
四一郎 @yon_ichiro

(3)メソポタミア文明だったかな、粘土板に残された計算式などを見ると、60進法(60をひとかたまりと見る数の仕組み)が使われていたようです。またフランス語には60進法や12進法の名残があるらしい(詳しくは知りませんが)。60や12が好まれるのも、等分向きだから、とよくいわれます。

2012-12-16 22:35:07
四一郎 @yon_ichiro

(4)数を整数に限らなければ、どんな数でも何等分にでもできるのですが、やっぱり分数の計算は面倒かな。中学入試の勉強なんかで「全体を1とする」でもいいところ、わざわざ「全体を120とする」とかやるみたいで、これは「すると…は5/24になる」より「…は25になる」の方が見やすいから。

2012-12-16 22:38:05
四一郎 @yon_ichiro

(5)角度の話に戻りますと、よく使う図形に「1周を何等分かしたもの」がよくでてきます。正三角形の1つの内角は1周の6等分、その頂点から対辺へ垂線を引けば、1周の12等分の角が現れます。正方形をもてあそべば、1周の4等分8等分が現れます。これらは数学全体でも大事な角です。

2012-12-16 22:41:55
四一郎 @yon_ichiro

(6)たとえば1周を100度にすると、正三角形の内角は50/3度ということになります。うーん、やっぱりこれと一生付き合うのは面倒かな。後で言うように、実は分数であること自体はともかく、50、が面倒なんです。50が50である必然性がなく、分数を甘受してまでこうする意味があまりない。

2012-12-16 22:47:02
四一郎 @yon_ichiro

(7)で、1周を360度にすると、数学の理論に出てくるいろいろな角が、整数で表せる。90度、30度や60度、45度、72度など。22.5度ってのはわりと出てきますが、まあ、小数第1位くらいがまんするのでしょうね。実測では話は別ですが、理論だけ考えている分には1度とか出てこない。

2012-12-16 22:49:45
四一郎 @yon_ichiro

(7番外)ところで数年前、京都大学の入試問題で「tan(1度)は有理数か。」というのがありました。わかっている人は即答できるという意味で、大変いい問題と思います。無粋ではありますが答えを書くと、「有理数なわけないだろ、有理式で書ける加法定理があってtan(30度)は無理数だから」

2012-12-16 22:53:33
四一郎 @yon_ichiro

(8)つまり「よく使う角度を整数値にしたかった」が普通の回答かな、と思います。あと、1年365日に近いところで360度にした、という説があって、そうかなとも思うんですが(数学の発展に天文学からの要請は大きな力でした)、うーん、「近いけどちょっとずれてる」のもやっかいなような……。

2012-12-16 22:57:03
四一郎 @yon_ichiro

(9)天文学では、黄道を12宮に分けますね(われわれの世代では瞬間的に黄金聖衣の面々が脳裏に浮かびます!)。あれは1年が12月であることや、木星の公転周期が12年であるからでしょうね。するとここからも、1周を360度に分けたくなるように思います。でもこれも誤差の処理は面倒だけど。

2012-12-16 22:59:49
四一郎 @yon_ichiro

(9番外)西洋占星術では、ある時刻(生時とか)の惑星の位置を占断の根拠にするのですが、「どの宮に入っているか」「惑星同士の位置関係」だけでなく、「その宮の何度にいるか(0度~29度)」を見るやり方(サビアン占星術)もあります。これが世界で一番360度を大切にしている理論でしょう。

2012-12-16 23:03:59
四一郎 @yon_ichiro

(10)ところで、数学で使う角度の測り方は1周360度の「度数法」のほかに、1周を2πとする「弧度法」というのがあります。あとで述べますが、こちらは微分積分を考えたいときに非常に使いやすい角度の決め方です。微分積分は数学者・自然科学者の基本ツールですから、弧度法も売れっ子です。

2012-12-16 23:07:31
獅子 @shishi_koma

そういえばラジアンってのもあったな。使い所知らんけど。@yon_ichiro 先生それについてもぜひに

2012-12-16 23:39:59
四一郎 @yon_ichiro

@shishi_koma はい、ツイートの中にある「弧度法」が、まさに radian、「ラジアン」です! 使いどころも書いてみましたので、読んでやって下さい!

2012-12-16 23:45:00
四一郎 @yon_ichiro

(11)πはみなさんおなじみの円周率、3.14159265…っていう数です。なんでそんなものを角度を測るのに使うのか、まったく納得がいかない人も多いと思います。言い訳は二通り

2012-12-16 23:10:33
四一郎 @yon_ichiro

(12)その1:円周上を1周すると、半径の2π倍の道のりを動いたことになりますね。その「2π倍」をもって、角度を測る基準にしましょうということです。つまり、1周2π倍とは、「円周」という非常に基本的で重要な図形の弧の長さに関係の深い測り方で、由緒正しいわけです。

2012-12-16 23:12:04
四一郎 @yon_ichiro

(13)しかし由緒正しいと言われても、そんなの理由にならないと思われそうですね。それで言い訳その2ですが、こっちの方がもっと突っ込まれそうですが…:弧度法で測っておくと、角θをどんどん0に近づけて行けば、sin(θ)/θ の値をいくらでも1に近づけられるんです。はい。

2012-12-16 23:15:08
四一郎 @yon_ichiro

(14)なんだよsinって! って怒られるよなこれじゃ。本当は、ここで図を一枚書きたいところで、それでわりと納得してもらえるのではないかと思うのですが、なにしろツイートだけなので。とりあえずこれだけ納得していただければ:「弧度法によって、三角関数 sin などの微分積分が

2012-12-16 23:17:49
四一郎 @yon_ichiro

(15)非常に計算しやすくなる、それは自然科学者にはとてもラクでよいことなのです」と。……いや本当は「弧度法を使うと exp(z)=1+z+z^2/2+z^3/6+……に対して sin(z)=(exp(z)-exp(-z))/2√-1 とすっきり定義できるから」といいたいけど。

2012-12-16 23:24:11
四一郎 @yon_ichiro

(16)で、この弧度法を使うと、ちょっとした角度でもすぐに分数になってしまう。60度は π/3, 45度は π/4, 90度は π/2 など。でも、πっていうのがあまり具体的数値を感じさせないひとかたまりの記号なので、これは慣れればそんなに使いにくくないです。……ほんとかな。

2012-12-16 23:27:58
四一郎 @yon_ichiro

(17)いや、実はちょっと使いにくいところもあるんです。これねえ、「1周が2π」でしょ、その「2」が邪魔なんですよ。もし私が政権をとったら、「これからは円周÷直径ではなく、円周÷半径を円周率とする」ってしたい。たとえばその新円周率をpとでも書くと「1周がp」これはわかりやすい!

2012-12-16 23:31:12
四一郎 @yon_ichiro

(17番外)実は、(17)の内容は私のオリジナルではなく、森毅先生ほか、何人かの数学者が言っておられます。昔は円(円板)の半径は測定しにくく、直径を主に考えていたので、円周率は円周÷直径なのでしょう。現代数学の目からすると、円周÷半径の方がより本質的で使いやすいです。

2012-12-16 23:33:16
四一郎 @yon_ichiro

(18)「1周がp」だったらかなり使いやすかったと思うんですが(感覚的な問題ですけどね)、「1周が2π」。で、最近の私は、微分積分に関係のない場面では無理に弧度法を使わず子どものころから慣れ親しんだ度数法を使うのがよいのでは、と思います。時計を6倍細かくしたのが360度法です。

2012-12-16 23:36:52