舞城王太郎Twitter連載小説「NECK the seventh」第1話～第123話

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(101)で、お父さんについて台無さんに調べを続けてもらってたんですけどやっぱり何もはっきりしたことが出てこなかったじゃないですか。その間に私とお母さんも、このお父さんをお父さんとして受け入れることにしたんです。 #neckthe7th

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(102)ちぐはぐで理屈は通らないけど、とにかく私たちのお父さんなのは間違いないわけですから」　という久里緒の話を聞きながら、俺は悟る。 #neckthe7th

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(103)あ、これが横溝正敏の魂だ。　　心だ。　　家族のところに帰ってたんだ。 #neckthe7th

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(104)悲しい横溝正敏の頭め。心がないせいで、ここを探すことが想像できなかったんだ。一番最初に探すべき場所なのに、きっと家族を守るためにも近づいてはならないと決め込んでいたせいもあるんだろう。 #neckthe7th

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(105)それが頭を固定してしまっていたんだ。その指令が頭を占めていて、心と離れてしまっていたんだ。　　馬鹿め。 #neckthe7th

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(106)「でも、お父さんと一緒にいられるのももうあとわずかだと思います」と久里緒が言う。 「どうして？」 #neckthe7th

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(107)「お父さん、何て言うか、少しずつ薄くなってきたんです。おぼろげになるって言うか、不確かな感じに」　　そうか。そりゃそうなるんだろう。　　頭がないからだ。 #neckthe7th

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(108)何も憶えられない。考えられない。　　心だって記憶の蓄積の中で育っていくものだ。　頭と心が同時に働いてこそお互いが育つんだ。 #neckthe7th

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(109)俺は訊く。　「久里緒さん、君、お父さんを取り戻したい？」　　すると久里緒が俺を見つめてしばらく黙り、言う。 #neckthe7th

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(110)「いいえ。お父さんは死んで、私たちは悲しくて、でもその悲しみが癒され始めたころにお父さんが帰ってきて、でもそのお父さんもこれからゆっくり失うことになるんです。 #neckthe7th

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(111)これは、突然の死よりもある意味では悲しくて、でもある意味ではありがたいんです。ゆっくりお別れできるってことですから」 #neckthe7th

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(112)「でも、」と俺は確かめる。「もしそのお父さんが、死なずに、元通りのお父さんとして蘇るとしたら？」 #neckthe7th

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(113)この質問に、久里緒は少し驚きながらも、どうしてそんなふうな言葉で自分たちを惑わすのかと苛立ったような顔をする。 #neckthe7th

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(114)「・・お父さんは一度死に、もう一度死んでいこうとしてるんです。私たちはそれぞれを受け入れて、なんとかやり過ごそうとしてるんです。はっきり言うと、これ以上の混乱は、困るんです」 #neckthe7th

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(115)なるほど。・・そうか。　　「わかりました」と俺は言う。「そういうことでしたら、俺の方からは何にも言うことないね。・・うん。お騒がせしました」　　玄関を出ようとドアに向き直った俺に久里緒が言う。 #neckthe7th

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(116)「あ、あの」「はい」「台無さんは、どういう用件でいらっしゃったんですか？具体的には。・・このお父さんのことだったんですか？」 #neckthe7th

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(117)「・・そう。近所の人から、お父さんを見かけたっていう証言があってね」「そうか・・でもお父さんずっとおうちの中にいて出かけたりしないですけど。けどどっかで見られてるんですね。どこの人が見てたのか教えてもらえます？」 #neckthe7th

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(118)「それはちょっと」「・・わかりました。とにかく気をつけます。香典詐欺みたいに言われても困りますから」「はは。だね。十分気をつけて。じゃあ、また」 #neckthe7th

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(119)「不思議なことってあるんですね」「・・そうだな。悲しい不思議ですよ」「・・はい」 「じゃおやすみなさい」「はい」　俺は玄関のドアを開け、車に戻る。　悲しみはこれからだ。 #neckthe7th

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(120)横溝正敏の頭には心の位置を教えてやらない。俺はこの足で消え、逃げ続けよう。 #neckthe7th

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(121)心はもう今にも消え去りそうだったが頭の方はまだまだ元気そうだ。俺に怒り、結構長く追いかけ回されるかもしれない。 #neckthe7th

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(122)それを何とか堪えて、できたらどっかで仕留めよう。うん。武器はあるし、何か別の細工で隙を作らせて、そこを狙おう。 #neckthe7th

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(123) 娘を盾にして揺さぶろうと思ったけど、よく考えたら心の無い横溝正敏が咄嗟にどんな行動に出るか判らない。 #neckthe7th