舞城王太郎Twitter連載小説「NECK the seventh」第1話～第123話

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(76)「俺の中には何もない。命があるだけだ。俺にははっきり判ってる。ここにあるのはエネルギーと化学反応と演算だけだよ。ただの機械だ。人格なんてこの機械の癖にすぎない。俺という跡はあるが、俺はいないんだ。空っぽなんだよ」「・・・」 #neckthe7th

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(77)「俺を捜してくれ。俺は《俺》のふりをするのに疲れたし、そろそろ俺は《空っぽの俺》の記憶を溜め込み始めてる。《心のない俺》としての癖がつき始めて、《俺》自体が崩れてきてるんだ。だから俺は焦ってる。俺の魂を探してきてくれよ」 #neckthe7th

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(78)「魂なんて、どこ探したらあるんだよ。言っておくけど俺はあの世には行けないぜ？」　するともう形もなくなったオニオンリングから視線を上げて横溝は俺を見る。　#neckthe7th

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(79)「同じ日本人、魂については理解が同じだろ。どうにかしろよ。それにあの世だって、いざとなったら俺が送り込んでやってもいいんだぞ？」つまり他のやり方か他の道でどうにか横溝の《心》を取り戻してやらないと駄目なのだ。 #neckthe7th

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(80)「・・判ったよ。何とかしてみるよ。ちょっと待っててくれ」　　と俺が言うと横溝が立ち上がる。　　「うん。まあ、よろしく頼むよ、本当に。俺の無感覚はどんどん大きくなってきてるからな。 #neckthe7th

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(81)・・人間らしさってのもどんどん忘れてきてる。急いでくれよ？お互いのためにも。じゃあな。また連絡するよ」　　横溝はまたポンプ音もモーター音もさせずに静かに歩き去る。 #neckthe7th

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(82)俺はアンカースチームをぐびり。　　あの首から下サイボーグ野郎をぶっ殺す方が早いだろう。難しいが、そっちの方がまだ可能性がありそうだ。 #neckthe7th

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(83)心と魂ってか、まったく。【同じ日本人、魂については理解が同じだろ。どうにかしろよ】だと？　適当に言いやがって。どうにもなんねえよ馬鹿。　　うん。　　殺すしかないな。 #neckthe7th

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(84)ゴムボートに乗ってやってきた七人の北朝鮮人工作員が何らかの理由で全員死んで漂着した福井県の海岸を俺は知っていて、多摩川からその足でレンタカーを借り、向かう。明け方に着き、俺は周囲を確かめながら崖の途中で岩に隠れた小さな穴に入る。中は広い。 #neckthe7th

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(85)そこはおそらく工作員たちが上陸してから一旦身柄を隠すために使用している穴で、日本の国旗を立てておいてからは二度と使われてる気配はない。日の丸もまだ立っていて、その奥には適当に石で隠しておいた七つの死体もある。 #neckthe7th

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(86)ゴムボートの残骸と、布にくるまれたＡＫー４７ライフル十三丁もある。弾丸と手榴弾三十五発と拳銃二十三丁も。これを全部五回に分けて車に運び、俺は東京に戻る。 #neckthe7th

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(87)東京のナンバーをつけた車がふらふらこんなひと気のない海岸にいつまでもいるわけにいかないと思って慌てたけど、検問もなく、大丈夫だった。 #neckthe7th

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(88)地元の人間が数人通りがかったけど、警察も来なかったし、車に近寄ってきた形跡はなかったからナンバーやらを控えられたってこともないだろうから普通にレンタカー屋に返せばいい。まあ全部横溝を殺してからだが。 #neckthe7th

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(89)東京に着くのは夜中になり、俺は大泉学園に寄って第十八スタジオに車をつける。ちょうどドラマか映画かの撮影が終わったところでざわざわと人が出入りしているが、俺は何食わぬ顔で武器類を半分だけスタジオの隅に運び込む。 #neckthe7th

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(90)適当に『危険。触らないで』とだけ書いたメモを置いてからそばにひっそりとある偽物の《消火器入れ》に近づき、こっそり中を覗く。うつろな目をした牛場の顔が暗がりの中にあって、俺の顔をゆっくりと見上げる。よし。車に戻り、俺は横溝家に向かう。 #neckthe7th

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(91)仙川駅を過ぎ、三鷹市との境にある横溝家の前に車を停め、俺は携帯で久里緒に電話する。時計は午前零時二十五分。 #neckthe7th

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(92)「あ、夜分遅くすいません台無ですけど」「はい」「今ちょっとだけお電話いいですか。お父さんについて判ったことがありまして」 #neckthe7th

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(93)「・・はい。大丈夫です」「と言っても電話ではお伝えしにくくて。・・こんな時間に申し訳ないけど、少しだけ会って話だけさせてもらえませんか？」「・・どういう用件でしょう」「それを会って話したいんですが、じゃあ要点だけ言うと、牛場を見つけました」 #neckthe7th

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(94)「え」「でも警察に通報すべきかどうか、判断の難しいところなんですよ。それについて久里緒さんと相談したくて」「・・わかりました」「あと二十分ほどで着きます。では」 #neckthe7th

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(95)後ろの座席から拳銃を取り出す。トカレフかな？銃弾も装填されている。試し撃ちができなくて不安だが、まあしょうがない。横溝は一人娘をモニタリングしてるはずで、俺の動きに気付いただろう。動き出して、どれくらいで俺のところにやってくるだろうか？ #neckthe7th

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(96)あと二十分、と言っておいたことがどれくらい功を奏するだろう？　俺は拳銃を腰に隠し、車を出て横溝家の玄関に向かう。チャイムを押すと、スウェット姿の久里緒がやってきて、俺の顔を見て不審そうな顔をする。 #neckthe7th

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(97)「悪いね唐突に。早速だけど一緒に来てもらえる？」「・・・」。急かす。「結論から言います。お父さん、生きてるよ」久里緒が言う。「その通りです」 #neckthe7th

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(98)え。　　硬直する俺の前で久里緒が振り返り、呼ぶ。「お父さん」　　すると廊下の一番奥のドアが開き、パジャマ姿の横溝正敏が現れる。 #neckthe7th

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(99)俺は腰の拳銃に手をやるが、同時に気付く。そこにいる横溝正敏は、俺を追い立てる首以下マシーンの横溝じゃない。ぼんやり微笑んでるような顔つきをしてふらふらと危うい足取りで、まるで横溝の形をした風船だ。とてもじゃないが時速百二十キロで走れそうではない。 #neckthe7th

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(100)「これは・・」「実はお父さんが死んで三ヶ月くらいたったくらいのとき、庭にいたんです。お父さん」「・・・」「よく判らないんですけど、これ、お父さんです。でも死んでお葬式をしたのもお父さんだったし、上手く整理ができなくて・・。 #neckthe7th