舞城王太郎Twitter連載小説「NECK the seventh」第1話～第123話

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(51)「映画の業界ってちょっとおかしい奴が多いからな。妙な金を何でもいいから遣いたいって奴もいるし、まあそこで俺くらいキャリアが長いといろんな知り合いもできるわけだよ」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(52)「殺人鬼まで潜り込んでるし、まああんたも他の奴のことは言えないよな」　　俺は軽口を叩いてみせるが、これは緊張している証拠だ。落ち着け。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(53)横溝が「あっはっは」とさらに笑う。「確かにな。やあ、君と喋ると久しぶりに楽しいよ。もうずっと笑うなんてやってなかったからな。笑顔を作ってみせるだけで」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(54)「ビールは飲めるの？飲めるんだったら奢るけど」「いや、まだビールは飲めない」「ソフトドリンクは？」「飲み物も食べ物も結構」「じゃあ俺一人でおかわりしていい？」「好きにしたらいい」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(55)俺はアンカースチームをもう一本頼む。あとオニオンリングも。　　トイレに行くふりをして逃げ出すべきかどうかを思案していると横溝が言う。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(56)「またアドレナリンが出てるぞ。台無しくん」「・・ダイブだよ。泳ぐんだ」「ダイブ策太郎くんじゃ策に溺れちゃいそうだな」「策なんてないから大丈夫」。この辺の会話は何度も繰り返してるからオートマティックなもんだわさ。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(57)横溝が俺をニッと見つめる。「ふっふ。そうかな」　　ビールとオニオンリングが同時に運ばれてくる。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(58)俺が早速リングをケチャップにつけてジャクッ、ビールをぐびっとやると向かいの横溝が「やっぱりオニオンリング、一つだけもらっていいかな」と言う。「どうぞ？」「うん。いただきます」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(59)と言って横溝はオニオンリングを一つ取ったものの、口に運ぼうとはせずにずっと親指と人差し指で摘んだままグジグジグジグジと指の間で転がして衣をボロボロ落とし中のホクホク玉ねぎをニチニチしぼってるだけなのでもったいない。食わないんだったら取るなよ。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(60)「今日は依頼があって来たんだ」と指先で崩れていくオニオンリングを見つめながら横溝が言う。「君に探してもらいたいものがある」「もの？俺、人は探したりするけどねものは・・」「人とも言えるよ」「？で、何？」「心だよ、私の」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(61)幸せ〜を訪ねて〜♪かよ。何言ってんだこいつ、と俺は思うが、次に続いた台詞で何となく納得する。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(62)「頭には心がないんだよ」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(63)そりゃそうか。「こうして身体を持ってみても、駄目だ。心は宿らないな。人格はある。俺自身と心が別物だったなんて思いも寄らなかったよ」「へえ。でも具体的にどうすることだ？あんたの身体は葬式の日に燃やされちゃっただろ」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(64)「判らん。俺だって切迫してここに来てるんだ。表情には現れてないかもしれないが、俺は本当に焦ってる。もう俺は自分の無感覚にほとほと嫌気がさしてるんだ」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(65)「とは言え俺もそんな相談されたってどうしようもないよ。心って。可哀想だけど、あんたその《無感覚》のまま生きてくしかないんじゃねえの？それがあんたに与えられた人生なんだからよ」　#neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(66)人も殺しちゃってるしな、バチが当たってるんじゃねえの？と俺は思うが言わない。「・・・」オニオンリングはもうとっくに輪っかになってなくて酷いもんだが、まだ横溝はヌジヌジヌジヌジ・・。　　俺は不安を感じる。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(67)「けどさ、本当はあんたの中にもちゃんと心はあって、だけどこないだのショックで閉じちゃってるんじゃねえの？機能がさ。何しろあんた殺されかけたわけだし、あの結末だしね。敢えて気持ちを麻痺させて、傷が癒えるのを待ってるんじゃない？」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(68)何かのセンサーがなくても俺がいささかビビってるのは判りそうだ。「だからもうしばらく待ってみたらどうよ。焦らずにさ。セラピーにでも通ってみてもいいしさ。ってセラピーは無理でも、生きてりゃ楽しいことも見つかって、また心も復活するって・・」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(69)「頼むよ」と言われ、俺は黙る。「俺は本当に参ってるんだ。牛場にしたことについては俺は何も感じていない。俺が俺の身体を失ったことについても、心以外のことについては何も思わない。どうだっていいんだ。ショックも何もない。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(70)俺が今首の下に装着してるこの身体、走りの最高速度は時速約百二十キロ、握力は大体八百キロまで引き出せるんだ。この多摩川の河川敷にいる人たちを全員手当り次第に壊してもいいんだぞ？ #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(71)脅しじゃなく、ただ、できる。シャットダウンしてるにせよ、心のある人間にそれができると思うか？」「・・・」「心は実在するんだ。ボンヤリとしたイメージの話じゃない。おそらく形も手応えもある何かなんだ。俺はそれを失ったんだ。そしてそれを探してる」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(72)ふう、と俺は一息ついて言う。「例えば心臓にあると思ってるの？」「それは判らん。しかし心の状況と心拍数は比例するから、心が心臓に寄り添ってるうちにその形になるということは考えられるだろうな」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(73)「でも最初の話に戻るけど、あんたの心臓はあんたの葬式の後に火葬場で燃やされちまったんだ。もうこの世にはないんだよ」「いや、しかしそれがある可能性はある」「？どこに」「俺の魂の中に」 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(74)頭を抱え込みたくなるぜ・・。 #neckthe7th

映画「NECK ネック」 @neck_movie

(75)「それはあんたの中にないのかよ」 #neckthe7th