WORLD WAR Z2次創作メモ「ゾンビ大戦と人類の倫理的堕落」

WORLD WAR Zとトリアージ問題についてぼんやり考えてたらネタが生まれたのでメモ。
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現場猫教授 @Dr_crowfake

「世界ゾンビ大戦において、ポール・レデカーの「レデカー・プラン」は各国において対ゾンビ戦略として採用されたが、それは過酷な環境下で国家という政治的身体を存続させるために残酷なトリアージを行うものだった。それゆえ、レデカーとその模倣者に対する批判と憎悪は強い」

2012-12-26 19:01:06
現場猫教授 @Dr_crowfake

「その批判と憎悪とは、ゾンビ大戦終結後の社会再統合に支障をきたすレベルでの高まりを見せていた。アメリカにおける戦略地域区分などを見ても分かるように、彼らは権利として平等であるはずにもかかわらず、実際は必要不必要、救えるものとそうでないものに分割されたのだ」

2012-12-26 19:03:11
現場猫教授 @Dr_crowfake

「そのような分断が呼び起こした批判と憎悪を乗り越えるため、人々は大きな努力を払わねばならなかったし、今でも払い続けている。ゾンビ大戦は終結したが、その傷跡は深く、大きい。私は合衆国の公文書資料館から現地自治政府の指導者への聞き取りまで含め、広範な調査を行った」

2012-12-26 19:05:24
現場猫教授 @Dr_crowfake

「国家の主権者である人民が、いかにこの残酷なトリアージを受け止め、そしてそれを乗り越えて再び結びつこうとしているかを、私は知りたかったのだ。ゾンビ大戦は、ゾンビとの戦いだけではない。人間のそのような相互不信と切り捨て切り捨てられる関係を修復することまでを含んでいると考えたからだ」

2012-12-26 19:07:10
現場猫教授 @Dr_crowfake

「合衆国においては、ゾンビ大戦はハワイに移転した政府のもとで集権的に戦われた戦いだった。しかし合衆国には自治の根深い伝統がある。連邦政府は州政府の上に立つ存在でしかない。実際にゾンビ禍に襲われた各州の突き上げに対し、彼らがどう対応したのか、私は調べた」

2012-12-26 19:09:13
現場猫教授 @Dr_crowfake

「ハワイの連邦政府のとった手段は、徹底的な集権化と、それに従わない州政府の切り捨てだった。資源戦略省(ディストレス)の設立を始めとして、連邦政府は連邦市民の生殺与奪を把握することに執心した。そして各州政府は、そこまで徹底した政策を取りえなかった。ゆえに、連邦政府は主導権を握れた」

2012-12-26 19:11:45
現場猫教授 @Dr_crowfake

「事態を正確に把握し、強権的にトリアージを行うことで、合衆国はかろうじて国家として存続することを許されたのだ。しかし、そこまでの手段を取りえなかった各州政府は、混乱と無秩序の中に沈んでいった。連邦政府から切り捨てられた州に於いては、その人口の8割が死滅した」

2012-12-26 19:13:54
現場猫教授 @Dr_crowfake

「これを非人道的判断と批判することはたやすい。しかしながら、連邦政府が「レデカー・プラン」を強権的に遂行することによって、合衆国は国家として存続し、市民のいくばくかを救い、ゾンビ大戦に勝利したのだ。それは邪悪であるが、必要な邪悪であった」

2012-12-26 19:15:35
現場猫教授 @Dr_crowfake

「そのことに思いを馳せる時、私は必ず、ハンナ・アーレントの引用した事例を思い出す。彼女は云った。「ナチの将校たちは、ユダヤ人大虐殺という事態に向き合う際に、このような非情な手段を持ってしか大義はなされないのだ」と自らを鼓舞した、という、そのエピソードを」

2012-12-26 19:17:20
現場猫教授 @Dr_crowfake

「果たして連邦政府は――そしてレデカー・プランとその模倣者たちは、そのような心理状態にあったのだろうか。大義のために自らを滅するという特異なナルシズムに自らを酩酊させていたのか。それはまだ、私にはわからない。だが、これだけはいえる。「我々はゾンビ大戦に勝利した」と」

2012-12-26 19:19:15
現場猫教授 @Dr_crowfake

「その勝利が人間の倫理的堕落と引換えだったかは、今後の検証を待たねばならない。そして、その勝利のために犠牲を強いられた人々の憎悪と不信を、我々は乗り越えていかねばならない。それは、ゾンビ大戦よりも困難な道筋だろう。だが、それでもなお、人間が人間であるためには、必要なことなのだ」

2012-12-26 19:21:57