◆自分のためのスケッチ:in Twitter 「リブート(最終話)」◆

真上犬太氏(@plumpdog)によるtwitter連載小説 第16回目 第1回目はこちら http://togetter.com/li/372910
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真上犬太 @plumpdog

◆自己の全ニューロンに掛かっていた精神的リミッター、全てのゲッシュを一時的に外す。目の前の犯人を人間・非人間に関わらず損壊、あるいは殺害することすら許可される『解除』のグリフが、クイの能力を解き放つ。同時に、ケモノの心が一つ目の課題のクリアに震える。◆

2012-12-28 22:35:14
真上犬太 @plumpdog

◆人を殺すのに牛刀を用いる者は居ない。効率よく殺す方法に格闘技は含まれない。銃でもいい、ナイフでもいい。にも拘らず固めた拳で殴りあい、重心を崩す危険を孕んでまで蹴りを放つのは、愚か者だ。今までの対手で武器らしいものを使わなかったこいつは、間違いなく偏執狂(マニアクス)。◆

2012-12-28 22:36:13
真上犬太 @plumpdog

◆バトルマニア、格闘家の性、なんでもいい。自分の身体能力を試したいと願う、稚気じみた愚者。その空隙をついて、クイは自分の身体能力を取り戻す。灰色の脳細胞の中、消されていた選択肢、繋がらなかった可能性が結合する。◆

2012-12-28 22:37:43
真上犬太 @plumpdog

◆(行くぜ!)プレートがするりと指からこぼれ、同時にクイが動く。小さな体をさらに小さく折りたたみ、地を舐めるように走る。世界の時間が引き延ばされ、目に映る景色がいくつもの止め絵の連なりと化す。相手の蹴りが、それでもこちらの接近に気が付き、秒の速度で迎撃に入った。◆

2012-12-28 22:39:57
真上犬太 @plumpdog

◆膝が跳ね上がり、同時に彼我が1メートルの距離に詰まる。クイの踏み込みが削った距離が、前蹴りの有効打撃範囲を食い荒らす。それでも膝はクイの鼻先、突進する方向に立てられる。予備動作の膝が愚かな対手に対するカウンターと化すのだ。その瞬間、小麦色の毛が翻り、旋風となった。◆

2012-12-28 22:41:01
真上犬太 @plumpdog

◆「はあああっ!」30センチの間合い、膝との衝突の寸前に、短躯が独楽と化す。右足を軸に放たれた後ろ回し蹴り。伸ばされた脚と踵が上げられた膝の真横、関節めがけて突き刺さる。『ぐっ』「うあぐっ!」骨が、間接が軋む。同時に片足を上げた状態で立っていた仮面の体が大きくかしぐ。◆

2012-12-28 22:42:59
真上犬太 @plumpdog

◆山のような体が前に倒れる。回転し続けるクイの顔が、奇妙な光沢の仮面に接近。そのチャンスを、唸る右拳は逃さない。全身の筋肉から送られる電流がカドケウスの内部で昇圧、破裂する蒼雷が拳に宿った。「ぶっ飛べぇっ!」◆

2012-12-28 22:43:49
真上犬太 @plumpdog

◆ばづっ! 仮面に強烈な一撃が弾け、蓄えられた電撃が大気を凄烈に焦がす。ほとばしるイオンと放電が、殴った反動と共にクイの拳に跳ね返る。「うああああああああっ!」勢いを殺しきれなかった体が地面を転がり、書架に叩きつけられた。同時に男の体も別の棚を粉砕しつつ転倒。◆

2012-12-28 22:44:53
真上犬太 @plumpdog

◆(クソっ、なんて硬さだ。いや、硬さだけじゃない、あれはまるで……)殴った痛みと同時に自分の神経が感じたものを、脳が正確に分析していく。単なる人間の頭頂部にヘルメットを被せたわけではない、むしろアレは『頭であるはずの部分をヘルメットのようなものに置き換えて』いる。◆

2012-12-28 22:46:06
真上犬太 @plumpdog

◆(嘘だろ。それじゃ、ヤツは、まさか)同時に、冷酷なほどに端的なダメージレポートが届く。カテコールアミン系の分泌が生理的欲求に従い一時停止、痛覚が戻る。右の肋骨4本骨折、2本粉砕骨折あり。右拳示指、中指に骨折、または間接の打撲、手首と尺骨にも異常あり。◆

2012-12-28 22:48:20
真上犬太 @plumpdog

◆左脚踵部に痛みあり、捻挫の可能性。それらは全て自分の攻撃能力が格段に落ちたという事実。(でも、俺の想像通りなら、さっきの一撃でヤツも麻痺ぐらいはしたはず)『なるほど……さすがに効いたな』崩れた書架の下から、届く声。『だが、手品の種も尽きたはずだ』◆

2012-12-28 22:49:52
真上犬太 @plumpdog

◆仮面は一部が焦げ、未だにかすかに煙を上げていた。しかし、それ以外は無傷、のように見えた。それがまったく反転しているのを除いて。『ん? ああ、これはまずいな。敵に隙を見せていることになるか』がつっ、と片手で頭頂部を掴み、手がごきり、と頭を反転、正しい位置に戻した。◆

2012-12-28 22:54:23
真上犬太 @plumpdog

◆「な、なんなんだ。お前は」『答える必要は無いと思うが』仮面はこちらに歩み進む。歩調に僅かな乱れがあるのは、さっき自分が与えた蹴り、あるいは首のダメージか。だが、こちらも動けない。(痛覚遮断っ)世界にフィルターがかかり、クイは軽やかに跳ね起きる。それでも肉体の違和感は消えない。◆

2012-12-28 22:55:46
真上犬太 @plumpdog

◆グリフによる限定解除時間は約三分。だが、肉体的な示威行為でこの異形を止められる可能性は低い。痛みを消したところで、肉体の破損がなくなるわけではない。さっきよりも速度は落ち、攻撃すればするほど、こちらが壊れるだけだ。「お、お前は……サイボーグなんだな!?」◆

2012-12-28 22:57:03
真上犬太 @plumpdog

◆とにかく隙を、逃げる隙を。そう願いながら発した言葉に、仮面は動きを止めた。『なぜわかった』「その仮面の下はシリコンや炭素、チタンや何やらで一杯なんだろ。殴って解ったよ」『怪我の功名というヤツか』そうだ。同時に、その事実から駆動系も理解することが出来る。◆

2012-12-28 22:57:58
真上犬太 @plumpdog

◆「人口筋肉はそれぞれ独立した循環系を持ち、心臓のような中枢部は持たない。意識のひらめきで人口筋肉を満たすナノリキッドが怒張を行って出力している」『そこまで解るか』「だからなおさら解らない! どうしてお前の脳は……人間のものなんだ!?」◆

2012-12-28 22:58:55
真上犬太 @plumpdog

◆人間が自分の意思で行っている生命活動の範囲は、驚くほど少ない。生命維持活動に必要な心臓の鼓動は己の意思で操作することは出来ないし、呼吸すら半分は自立の系で動いている。脳の作用ですら、本人の意思に関わらない部分が多分にある。◆

2012-12-28 23:00:58
真上犬太 @plumpdog

◆その反面、NBCは自分の体内を知覚し、心臓以外のある程度の生命維持活動を制御できる。また電子機器を操る『脳力』を使えば、目の前のサイボーグの持つ機能をコントロールすることは可能だろう。しかし目の前の存在には、その関与を思わせるものが無い。◆

2012-12-28 23:03:01
真上犬太 @plumpdog

◆「大体、そんな全身機械の塊で、どうして『インセイン』化しないんだよ!?」『それを知ってどうする』仮面は構えを作る。今度は拳を開き、掌底を向けた。『俺の存在を理解した以上、お前は確実に殺す』その掌面が、揺らめく。クイの体が脱兎の如く飛び退った。◆

2012-12-28 23:04:57
真上犬太 @plumpdog

◆閃光がほとばしり、陰影が反転する。押し戸でも開けるように突き出された掌が、寸前までクイのいた書架を爆燦させる。耀き、一瞬で燃焼昇華する木材とその生成物。庫内に煙と熱が充満、同時にアナウンスが流れる。『火災が発生しました。これより窒素ガスによる消火を開始します』◆

2012-12-28 23:07:34
真上犬太 @plumpdog

◆『これより1分後に窒素ガス散布を開始します。庫内に残っている方は速やかに避難をお願いします』『いよいよ後が無いな』仮面の声は、どこか朗らかだ。窒素充填による消火は、酸素濃度の低下によって燃焼の抑制を行う。庫内の器物を汚損することは無いが、生物には影響が出る。◆

2012-12-28 23:08:26
真上犬太 @plumpdog

◆『時間は、今度は俺の味方だ。大気組成が変わっても、俺に影響は無い。だが、お前は』「く、くそおっ!」手にした本を勢い良く投げつける。だが、かざした掌底に触れた途端、本は燃え、一握の灰と化した。『お前は良くやった』賞賛はそっけなく、両手は無慈悲に耀く。◆

2012-12-28 23:11:08
真上犬太 @plumpdog

◆『散布30秒前です』(限定解除まで後1分)外なる声と内なる声が、同時にリミットを告げる。燃える両手の推定温度は、おそらく1000度を超える。一体、なぜあんな熱量が出せるのか、きな臭い煙が漂い、周囲の光景が炎で躍り上がる。目の前に立ちふさがる長躯と、絶望。◆

2012-12-28 23:11:53
真上犬太 @plumpdog

◆『せっかくだ。消火剤でお前の自由を奪い、気絶したところで消去しよう。その方が確実だ』『消火5秒前、4、3、2、1』アナウンスが途切れ『消火開始』。施設のあらゆる部分から、猛然と窒素が噴出した。◆

2012-12-28 23:12:48
真上犬太 @plumpdog

◆毒ではない、地球の大気組成の70%を占める物質だ。だが、密閉された空間に本来あるべき以上の窒素が充満し、酸素濃度が低下すると、それは途端に毒同様の効果を発揮する。「う……」息が苦しくなる、肺が痛み、意識が遠のく。「くそ……」倒れまいと膝を突き、それでも頭が垂れる。◆

2012-12-28 23:13:24