vs odaidepon 朝斗色twnovelまとめ
薄暗い蔵書棚の陰で少年は何十年もの時を過ごしてきた。この場所は不思議だ。時間は有り余っているのに、本だけは読み尽くせない程溢れている。時の鎖に囚われていることすら錯覚だと思わせてくれる。柱時計が深夜を知らせた。最後の鐘を合図に、彼は夜風を浴びに牢の外へ向かった。 #twnovel
2009-12-18 02:20:39塗り籠められた世界には彼女の差す唐傘の朱がひとつ。振り返り、微笑む。それすら取り戻せぬ過去になりつつあった。「ねぇ。」聲が六花を震わせる。僕は寒さの所為にして拳を握る。強く、強く。「また逢えて良かった。」左の薬指には他人の色。白銀の上に、はたり椿の花弁が落ちる。 #twnovel
2009-12-18 23:19:11鍵盤の上に指を彷徨わせ私は困惑していた。あんなに暗譜したはずの旋律が消えていく。トリル、スタッカート、グリッサンド、アルペッジョ。叩いた鍵盤の間から彼らはころころ躍り出る。しかし、彼らも自由が良いと思うと可愛いものだ、と、ふわふわ逃げていく様を見つめながら。 #twnovel
2009-12-19 23:28:37「何故、そんな顔をするんです」滲む視界の中で青年の表情が更に歪む。「この結末を望んだのは僕だ。貴方の領域に入り込んだものを狩るのが貴方の役割でしょう」役目を終えた式は只の紙切れへと。彼の顔から奪ったグラスが指間より抜け落ち、かしゃり、音を立てて石畳の上で爆ぜた。 #twnovel
2009-12-20 23:11:04身の丈もある大剣を、男は羽を扱うが如くして振り上げる。跳躍と、咆哮。その影が首をもたげる蒼い竜の瞳に映る。「恨むなよ」どちらが獣か判らぬ鋭い笑み。されど力なき丘陵は男を見上げるばかり。迫り来る終幕を臨みつつ、猛き生命の炎を目映く見詰め続けた。潰えしは己が灯火。 #twnovel
2009-12-20 23:44:53日が暮れるよ、と少年は囁く。「星が見えるかい。あの、東の空に瞬く星だ。あれが知恵の樹の真上で輝くとき、僕達は産まれるんだよ」やわらかな水に足を浸して、わたしは首を傾げる。「じゃあ、ここに居る私達は何?」心配はいらないと、彼が笑う。「もうすぐ、光が大地に届くから」 #twnovel
2009-12-21 23:15:58世間の歯車が狂い出してもう百年。その絶望的な荒廃を救ったのは時の止まった少女だった。風の代わりに大気を揺らし、花の代わりに人々の心を癒す。それからまた百年。地平線から太陽は昇らず、自らを支えてくれる存在を見出した人々は家の中。娘は今日もひとり無限の闇の中で歌う。 #twnovel
2009-12-22 23:00:20漆黒の闇の袂を引き摺り、女は弦月に腰掛ける。溜息は燃え尽きた星屑へ、担いだ鎌の刃先が空を斬れば裂け目から流星が零れ出る。夜闇に解ける髪は烏の濡れ羽色。気だるい瞳の女は今日も待ち惚け。やがて遥か下で火が潰え、漸く微笑む。「さぁ、ようこそ空へ」ここからが彼女の仕事。 #twnovel
2009-12-23 21:45:51ぽたり、ぽたり。水鏡に逆様の月の影。黄金が満ちるとまたひとつ、落ちてきた雫が水面を叩く。器の底には、重なるようにクリーム色のちいさな卵。ぽたり、ぽたり。まるで生き物の鼓動。震えは呼吸。内側から広がる命の音。ひび割れた殻の中で息をするのは何者か、月さえも知らない。 #twnovel
2009-12-24 22:23:08幕間から飛び出していく役者達。舞台上は目映く、箱庭を無限の世界へと作り変えた創造主達も反対側で粛々と場面を見守っている。スポットライト。けれど内側から輝くような。笑顔、沈黙と哀愁、優しさ。一方の私は台本を握ったまま動けない。あの仲間に入れるのは何時になるのか。 #twnovel
2009-12-26 22:31:16青年は歩き続ける。昼夜を越え、混凝土の密林を抜け、心も体も疲弊して尚立ち止まること叶わぬまま。懐に忍ばせた国旗柄のメモ帳に母国の彼女への言葉を残し。「ねぇ」路地裏で廻り合った少女が嗤う「赤い靴の最後って知ってる?」それが天使か悪魔か等は、彼には到底判別出来ず。 #twnovel
2009-12-29 13:50:26センター試験に向け兄は追い込みをかけていた。志望校の偏差値まであと僅か、今から少しでも詰め込めば或いはと、早めの夜食を食べながら天井を仰ぐ。と、リビングを中学生の弟が横切る。「それ、夏休みにも言ってたよ」冷ややかな視線を送る彼は、学年でも頂上クラスの頭脳だった。 #twnovel
2010-01-01 23:56:32