「おまかせ」は世界に誇る日本の食文化 脳科学者 茂木健一郎さん
おまかせ(1)日本人にとってあまりにも当たり前なので、それが世界的に見るといかに驚くべき叡智か、気付かないことがたくさんある。料理屋、レストランでの「おまかせ」も、そのうちの一つであろう。
2010-08-21 06:06:32おまかせ(2)カウンターに座ったら、「とりあえずビール」と言って、あとは店の主人が適宜料理を出してくる。このような「おまかせ」の習慣は、日本において特に発達しており、世界に誇るべき文化である。
2010-08-21 06:07:41おまかせ(3)ミシュランが東京でガイドを出したとき、寿司のすきやばし次郎や、フランス料理のカンテサンスなど、「おまかせ」の店が三つ星を受けた。カンテサンスは、「こちらが今日の料理です」と白紙を渡される「ホワイトメニュー」である。おまかせの文化が、世界に認められた瞬間だった。
2010-08-21 06:09:11おまかせ(4)西洋的な考え方で言えば、メニューを見て、自ら選ぶことを何よりも重視するのだろう。一方、「おまかせ」には、すべてを店側にゆだねる、安心しきった心地よさがある。レストランに入って料理選択にあれこれと悩む認知的負担を免除してくれる。
2010-08-21 06:10:53おまかせ(5)おまかせには、「サプライズ効果」がある。メニューを見て自分が選ぶ場合、次に何が出てくるのか、あらかじめわかっている。一方、おまかせでは、料理が運ばれてきた瞬間に驚く喜びがあり、脳の報酬系を活性化させる。
2010-08-21 06:12:00おまかせ(6)次に何がくるかわかっていると興ざめなのは、プレゼンも同じことである。パワポのプリントアウトをあらかじめ配布すると、どのような流れで何を話すかが予見できてしまって、サプライズがなくなる。アップルのジョブズのプレゼンは、先を予想できないからこそ効果的である。
2010-08-21 06:13:57おまかせ(7)おまかせには、素材選択の合理性もある。その日の素材で何が旬か、美味かは、プロである店の主人が一番良くわかっている。素人の客が、メニューからわかった気になって注文しても、結果としてベストでない素材を選んでしまう場合がある。
2010-08-21 06:15:23おまかせ(8)おまかせは、経営的にも合理的である。アラカルトのメニューでは、客が選ぶかもしれない素材をすべて用意しておかねばならない。必ずしも旬でないかもしれないし、結果としてムダになる素材も増える。コストが高くなり、地球環境への負荷も増す。
2010-08-21 06:16:58おまかせ(9)おまかせでは、極端なことを言えば、余った素材を使って主人が腕を奮うことで、無駄なく食糧資源を使うことができる。客に「余った素材を使った」などと言わなければ、知らぬが仏、食事の喜びに水を差すこともない。
2010-08-21 06:18:25おまかせ(10)おまかせが内包する脆弱性は、うまく工夫して回避する。「苦手な食材」はあらかじめ客に聞く。どれくらい料理が出てくるかわからず不安にならないために、「そろそろお腹いっぱいですか」「ごはんに行きますか」と店側が打診する。おまかせはコミュニケーションを通して完成する。
2010-08-21 06:21:09おまかせ(11)おまかせをはじめとして、日本文化が持っている暗黙知の領域で、世界に誇るべきものはたくさんある。日本人は、これらの価値を、論理的、普遍的に説明、主張することをしてこなかった。自分たちのやっていることの意義に気付くためには、外から客観的に見る「メタ認知」が必要である。
2010-08-21 06:22:48