バトルクエスト・クレンチ・ユア・フィスト #3
「……イヤーッ!」影が壇上に飛び込んだ。ガンダルヴァは咄嗟にカラテ警戒した。飛び込んだ影はオミトに飛びつき、共に床を転がった。オーバーウェルムの両足が、一瞬前まで床のあった場所に突き刺さった。オーバーウェルムは素早く起き上がった影を睨み、向き直った。……アコライト! 44
2013-01-08 15:05:38「これはこれは」オーバーウェルムは嘲笑った。「場違いなボンズのエントリーよ」「ドーモ。アコライトです」アコライトは素早くアイサツし、片腕でカラテを構えた。ガンダルヴァが睨んだ。「何の真似かね?」「ワシの代理戦士は破戒僧!血が猛っておりましてな!」ジバヌチが立ち上がり、叫んだ。45
2013-01-08 15:10:08「代理戦士?ほう」オーバーウェルムとアコライトの視線がぶつかり合う。巨躯のニンジャはアイサツを返す。「ドーモ。アコライト=サン。オーバーウェルムです」「これはどうした事かね?」ガンダルヴァがジバヌチを見た。ジバヌチは首を振った。「ああなると一戦交えねば収まらん奴なのだ」 46
2013-01-08 15:15:52「困ったものだ!」ガンダルヴァは冷たく言った。「オーバーウェルム=サンとやれば、明日のイクサを待たず壊れてしまいますぞ」「それはそれで仕方なき事!そうなればワシも無念の極みだが……」ジバヌチは言った。「こうなれば、もはや見守るしかないゆえ!はらわたが煮えくり返っておりますわ」47
2013-01-08 15:20:26「片腕、ボンズ、笑わせてくれる」オーバーウェルムはアコライトに言った。「そのナリ。知っておるぞ。キョートのボンジャン・モンクだな。こんな洋上までわざわざ改宗ツアーか」「あの者との勝負はつきました。もうよいでしょう」「勝負?余興よ。いかに殺すか。それだけだ」 48
2013-01-08 15:27:10「ならば次の余興と行きますかな!」ジバヌチがオーバーウェルムの言葉を継いだ。「ウチの狂犬にひとつ稽古でも付けてやってくれんか」闇カネモチ達がどよめく。「コロセー!コロセー!」だれかが叫んだ。ガンダルヴァは彼らの高揚を見、頷いて見せた。「よかろう、よかろう、楽しき催しです」 49
2013-01-08 15:29:30「ボンジャン・モンクは神秘的戦士として知られておるが」オーバーウェルムはゆっくりと間合いを詰める。「要は山の上に隠れておるがゆえ、伝説めいて語られる、それだけよ」「イヤーッ!」アコライトが踏み込む!腰を落とし、中段突きを繰り出す!ボンジャン・ポン・パンチだ! 50
2013-01-08 15:35:21「イヤーッ!」オーバーウェルムはやや右へ瞬時にステップし、打撃を回避!肩めがけ8フィートの身体から恐るべき死神の鎌めいたチョップを振り下ろす!「イヤーッ!」「イヤーッ!」アコライトはその場でコマめいて回転!ポン・パンチを放ったばかりの右手で回転裏拳を繰り出し、チョップを弾く!51
2013-01-08 15:37:46チョップは重く、アコライトの身体はバランスを崩す。だが回転から放たれた水平ミドルキックはオーバーウェルムの胸を稲妻めいて打った!「イヤーッ!」「グワーッ!」アコライトは蹴りの反動で後転し、片足立ちのカラテを構えた。一方のオーバーウェルムは胸を蹴られても一切動じる事なし! 52
2013-01-08 15:40:38「ハーッ……やる!」オーバーウェルムは喜悦の色を浮かべた。「ボンジャン・モンクで、ニンジャ……成る程そのようなカラテになるか」「ワオオーッ!」闇カネモチ達が湧いた。彼らの傍ら、宴に参加する数人の代理戦士達は油断なき視線を二人のニンジャに向ける。イクサの空気が張り詰める……。 53
2013-01-08 15:43:34「イヤーッ!」アコライトが踏み込む!地面すれすれまで上体を屈め、滑るように接近!その速度が途中から十倍にも速まり、下から掬い上げるような掌打を瞬時に繰り出す!「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!?」……ナムサン!オーバーウェルムが上から振り下ろす掌打が先んじた! 54
2013-01-08 15:48:27右鎖骨に強烈な打撃を打ち込まれたアコライトは、コンマ数秒後、斜め上に吹き飛ばされていた。ヤリめいたサイドキックだ!恐るべきリーチ!そして速さである!「グワーッ!」オコトにぶつかり、粉砕破壊!「アイエエエ!」逃げ惑う演奏者!「アッパレ!」オーバーウェルムは獰猛に笑った。 55
2013-01-08 15:50:47戦士はガンダルヴァを見、頷いた。「余興はこんなところでよかろう!明日になればもっと楽しめる」「フム」ガンダルヴァは拍手する闇カネモチ達を見渡した。そしてジバヌチに言った。「なかなかの戦士をお抱えだ!」「ありがとうございます」ジバヌチはオジギをした。 56
2013-01-08 15:53:51「ウ……」アコライトは頭を振って淀んだ意識を覚醒させ、オコトの残骸から身を起こした。オーバーウェルムはアコライトを一瞥した。そして床でいまだ苦悶するオミトの首根を掴みあげると、高々と差し上げ、まずアコライトへ、それから闇カネモチ達へ示した。 57
2013-01-08 16:10:32「つつがなく」ガンダルヴァが両手をひろげた。拍手が沸き起こった。「……イヤーッ!」オーバーウェルムはオミトを頭から床に叩きつけた。顔面を砕かれ、オミトは絶命した。ナムアミダブツ!ガンダルヴァは優雅なオジギを行い、オーバーウェルムを伴って退出した。アコライトは歯を食い縛った。 58
2013-01-08 16:12:27拍手と笑いの中には、オミトの姉もいた。彼女は弁護士風の男に胸を揉まれながら、笑顔で拍手を続けていた。「強ーい!スゴーイ!」「こらこら肉親だぞ?」胸を揉みつつ弁護士が咎める。「だって、もう関係無いもの」 59
2013-01-08 16:16:32「どうだ?お前の中で気は済んだか」アコライトの目の前にジバヌチが居た。「……」老人は凄惨な笑みを向けた。アコライトは目を伏せた。その頬に、老人は張り手を食らわせた。「……!」「お前は何しにこの島に来た?エエッ?くだらんお遊戯をやらかして、スゴスゴ帰る為か?エエッ?」60
2013-01-08 16:25:16アコライトは鼻血を拳で拭った。彼は答えを口にしようとしたが、出てこなかった。「明日そんなブザマ晒しやがったら、銃殺させるぞ」ジバヌチは低く言った。 61
2013-01-08 16:51:26宮殿の中庭には箱庭じみたビオトープが作られ、リスや鴨が方々で寛ぐ。無数に生えたバイオ桃の木には様々な色の果実がなり、好きにもいで食べてよい。方々に立てられたノボリ旗には「仙人」「御利益」「先勝」などの神秘的カンジがショドーされ、まるでブッダ楽園大陸のミニチュアじみていた。 64
2013-01-08 17:29:59巨大な二本のバイオパインには横断幕が張り渡され、そこには「神前闘技戦う」と書かれていた。赤い布で覆われたヒナマツリじみた段差はガンダルヴァとオイラン達の為の桟敷だ。……然り。この中庭こそが今回の集まりの目玉イベント、何日にも渡って開かれるカラテ・エキジビションの舞台なのだ。 65
2013-01-08 17:35:41既に闇カネモチ達は赤く塗られたカラカサ(和紙パラソル)を備えた野外席に陣取っており、オイランにサケやスシ、ベントー、オモチを給仕されながら、イベントの始まりを待っていた。……その時!「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」66
2013-01-08 17:52:40中庭を囲む宮殿の南北の門から、無数の護衛戦士達が列を為し、バック転で入場してきた。彼らは一様に鍛え上げられた上半身に鋲付きベルトをX字装着し、膝丈のゆったりとしたハーフパンツとローマじみたサンダルを履いている。バック転の列が交差し、威圧的なアーミー整列を形作ってゆく! 67
2013-01-08 17:55:28「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」赤い桟敷の前に並んだ彼らはガンダルヴァの私兵であり、この島を、宮殿を護る者達だ。一糸乱れぬ動きの精鋭ぶり!「イヤーッ!」「イヤーッ!」その中から二人が前へ進み出る! 68
2013-01-08 17:57:55