山本七平botまとめ/【不合理性と合理性①】/一種の無責任体制となってしまった日本軍/~合理的な組織である筈の日本軍が抱えていた不合理性とは~

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか』/第11章 不合理性と合理性/274頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【不合理性と合理性】日本軍は、外面的組織ではすべてが合理的に構成されていて、その組織のどこに位置づけてよいかわからぬ存在は、原則として存在しない。 組織は、それ自体として完結しており、少しも矛盾なき幾何学的図形のように明示できる。<『日本はなぜ敗れるのか』

2013-01-09 19:27:57
山本七平bot @yamamoto7hei

②各兵科別の指揮系統から各部(経理部・兵器部等)の指揮系統、さらに附属諸機関への指揮系統(簡単にいえば、慰安婦は部隊副官の指揮下)まで、完璧といってよい。 そしてその頂点が天皇であり、完全なピラミッド型になっている。

2013-01-09 19:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

③従って、その組織内でどう位置づけてよいかわからぬ不合理的対象は存在しない。 それでいて、まるで不合理が内攻したかのように、すべての組織が何らかの不合理性をもっていた。 たとえば次のような場合がある。

2013-01-09 20:28:02
山本七平bot @yamamoto7hei

④《【セプの街、灰となる】9月12日の第一回爆撃でセブの町の大半は燃えてしまった。兵站宿舎では何百という兵員が入ったまま、防空演習と間違って退避しなかったので爆死してしまった。屍臭がぷんぷんとして近寄ることもできない。 それでも墨痕鮮やかに忠霊碑が建ててあった。》

2013-01-09 20:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤こういう″事故″に等しい損害は、言うまでもなく組織的欠陥か個人的怠慢が原因で、それ以外には原因は求めえない。 合理的組織は、こういう場合即座に欠陥の場所と責任の所在とが明らかになり、従って、この損害を繰りかえさぬための処置と、責任者への調査・処罰が行なわれるはずである。

2013-01-09 21:28:11
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥同時に屍体の収容、残存兵器類の処理、またいわゆる戦場掃除による危険物の除去(それは、単に落された不発弾だけでなく、爆死した兵士のもつ手槽弾が不発だったら、これの暴発も危険である)が行われねばならない。

2013-01-09 21:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦しかし、それらは一切行なわれず、屍臭ぶんぶんとして近よりがたい状態に放置したまま、忠霊碑をたてて終りとする。 しかし忠霊碑をたてるのは、元来、戦闘員である軍人の仕事ではないはずである。 第一、事故死に等しい死に方をした兵士に「忠霊碑」はおかしい。

2013-01-09 22:28:04
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧もしこれが慰霊行為の一種なら、その前にまず、責任の所在を明確にして事故を防ぐべきであり、慰霊に関することは、いわばチャプレン(註:従軍牧師)が行うべきことであろう――アメリカ軍ならば。

2013-01-09 22:57:46
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨確かにチャプレンは、この事故には責任はない。 しかし本職軍人がこれを行なうことは、この責任のない位置に自らを立たし、忠霊碑を立てることによって、一部の責任を免除されるという結果しか招来しない。

2013-01-09 23:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩慰霊は勿論、組織における合理性に基づく行為でなく…生死という、人間の合理性では把握できぬ問題に対する非合理的対処である。 そしてそれによって死者への″債務″がなくなったとするなら、組織における責任の追及は逆に消失してしまって、一種の無責任体制とならざるを得ないであろう。

2013-01-09 23:57:44
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪これが前述の、合理的に見える幾何学的組織が、逆に、一種の不合理を内包して合理性が浮きあがってしまう状態である。 この状態はあらゆる面に出てくる。 人間のもつ知識と技術も、指揮系統の中に組みこめない場合があって不思議ではない。

2013-01-10 00:27:46