山本七平botまとめ/【不合理性と合理性④】/戦犯容疑者収容所の日本人捕虜集団が暴力支配に陥った理由とは/~”ものまね”組織の崩壊が自己の伝統的秩序すら打ち壊す~

山本七平著『日本はなぜ敗れるのか』/第11章 不合理性と合理性/286頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①そしてこういう純人為的な輸入組織から解放された時、人々は、大きな解放感を味わう。 そして、その反動で、今までと全く逆の無組織状態となるが、その無組織状態は、常識に根づいている伝統的秩序に基づく組織さえうちこわす。 小松さんは次のように記している。<『日本はなぜ敗れるのか』

2013-01-10 16:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

②《【反動】長い軍隊生活の反動か、PW(日本人捕虜)は整列したり、号令で動くことが大嫌いでまるで烏合の衆だ。規則を守ることも大嫌いだ。PWを指導することはなかなか難しいことだ。 明治維新に封建制度の反動で旧物打破と称じ古い物はすべて捨ててしまった。》

2013-01-10 16:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

③《其の無意識に捨てられた物の中にはかなり良い物が沢山あった筈だ。軍国主義的なものの中にも良いものも少しはある筈だ。良じ悪しの鑑別をしてから革新してもらいたいものだ。》

2013-01-10 17:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

④自己の伝統的組織の延線上にあるものは、この状態を現出しない。 それは、日本軍に収容された米英人や、同じようにシベリヤで虜囚だったドイツ人の、日本人捕虜との対比によく現われている。

2013-01-10 17:57:40
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤だがそのことは、必ずしも、日本人が無秩序民族だということではなく、自らの伝統的合理性に基づかない組織の中に強制的に組みこまれ、これが逆に、伝統的秩序をさえ破壊してしまったということであろう。 それは小松氏の次の記述に示されている。

2013-01-10 18:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥《【軍隊の階級意識失せて人間の階級現わる】投降後も、昔ながらの軍隊の階級を保持しようと上級者は常に努めていた。…実力のなき者、人格のなき者は月日がたつにつれ、段々とうとんぜられ、…(四カ月目位)には、階級を振り回す者は、余程の馬鹿以外なくなった。》

2013-01-10 18:57:47
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦《一方下級者の中には、階級がなくなった事は自分が偉くなったものと思い違いして、威張り出す大馬鹿者も沢山いた。…時のたつにつれ、色々の事件、仕事を通して、人徳のすぐれた人、社会的に実力のある人、腕力のある人等が段々尊敬されてきた。 自然と人間としての階級が現われてきた。》

2013-01-10 19:27:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧《部隊長級の将校の中にも極少数は肩章を外しても人間の階級中上位に座る人があった。こういう人の部隊は…部下を完全に掌握していた事も段々分ってきた。 日本軍の礼儀教育は肩章の星の数に対する礼儀だったので、人間、いや一般社会の礼儀とは大分違っていた。日本軍隊の大きな過ちの一つだ。》

2013-01-10 19:57:39
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨英国の将校は、知能・知識はもちろん、腕力の点ですら、兵より優ることを要求されているという。 いわば、この収容所の自然発生的「人間の階級」が階級であらねば、指揮などできるはずはないという、きわめて常識的な発想に基づいているのである。

2013-01-10 20:28:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩そして、人間の組織が一つの合理性をもちうるなら、この点にしかその基準はないであろう。 こういう組織なら、いくら強打されても崩壊することはありえないが、それを遊離したものは、いかに幾何学的完璧さを誇ろうと、虚構の組織にすぎず、一瞬にして崩壊しても不思議ではない。

2013-01-10 20:57:41
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪この不安は常に内蔵され、それが逆に無意味な権威づけと虚勢になる。 一言でいえば「からいばり」であり、大仰なジェスチュアとスローガンと大声によって、人びとの思考と探究を停止させ、いわば個人を思索的に骨抜きにすることによって、虚構の世界に組み込もうとするわけである。

2013-01-10 21:27:55
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫これが、一つの大きな不合理として現われてくる。 《【思想的に日本は弱かった】独系の米兵がいうのに、米国は徹底した個人主義なので、米国が戦争に負けたら個人の生活は不幸になるという一点において、全米人は鉄の如き団結を持っていた。》

2013-01-10 21:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬《日本は皇室中心主義ではあったが、個人の生活に対する信念が無いので、案外思想的に弱いところがあったのだという。》

2013-01-10 22:28:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭個人としては、天皇も東条首相もまた大本営の首脳も、何一つ静かなる自信をもっていなかった。 また確固たる思想があるわけでもなかった。 従って、一個人の目から見れば、それは自分の生涯には全く関係なき、一つの無目的集団であった。

2013-01-10 22:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮実際、日本軍自体が具体的に何を目的として行動していたかは、いまともなると、だれにもわからない。 ましてそれがどう行動しようと、各個人の生活は、それによって被害をうけることはありえても、何らかのプラスになりうるとは、だれにも考えられなかった。

2013-01-10 23:27:56
山本七平bot @yamamoto7hei

⑯アメリカ人は、自己の生存と生活を守るというはっきりした意識の下に戦争に参加した。 しかし日本人は、自己の生存と生活を守る為には、何とかして徴兵を逃れようと、心のどこかで考えていた。 従って、戦争に参加せざるを得なかった者には一種の空虚感があり、徴兵を免れた者への羨望があった。

2013-01-10 23:57:42
山本七平bot @yamamoto7hei

⑰そしてこの空虚感は虚無感となり、何も思考すまいとは考えても、自らの思想を、あらゆる意味の修養という形で形成して行こうなどとは、だれも考え得なかった。 だが、このことは、何も日本軍だけの問題ではなかったと私は思う。

2013-01-11 00:27:45