藤原編集室(@fujiwara_ed)さんのアンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』収録作紹介
- boppggun2012
- 2283
- 0
- 0
- 0
アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』(国書刊行会)見本出来。鈍く輝く銀色に表題を大胆にあしらった装丁は、ポケミス・リニューアルでおなじみの水戸部功さん。発売は来週末になります。
2013-01-18 09:57:09アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』見本を国書刊行会で受け取り、水戸部さんの仕事場に届けて帰宅。一応画像をアップしてみたけれど、スキャナーではこのつややかな銀色をとらえきれない。ぜひ書店で手にとってご覧ください。来週末発売。
2013-01-18 21:01:48『アサイラム・ピース』刊行に向けて、収録作をピックアップしてご紹介。巻頭の「母斑(あざ)」は、岸本佐知子氏編訳の名アンソロジー『居心地の悪い部屋』でお読みになった方もおられると思う。
2013-01-21 10:58:52異国の町で列車を待つ間に古城を訪れた私は、ガイドツアーの順路を外れ、いまも使われている地下牢が覗ける空間に迷いこんでしまう。薄闇の中、鉄格子の奥で囚人の差し伸べた腕には・・・ 「囚人として運命づけられた人間」というカヴァンの中心的テーマが静謐な恐怖のうちに提示される。
2013-01-21 11:02:30カヴァン『アサイラム・ピース』収録作2作目は「上の世界へ」。霧に包まれた寒い冬の町で孤独な毎日に耐え切れなくなった私は、上の世界にいるパトロンに会いにいく。エレベーターで上がっていった雲の上の世界は暖かく、明るい陽光にあふれていた。私はパトロン夫妻に窮状を訴えるが・・
2013-01-22 09:50:39寒くて孤独で惨めな下界の生活に対して、暖かで明るく幸福な上階はまるで天国のよう。二つの世界を結ぶのが高層エレベーター、というイメージが鮮烈な寓意的作品。
2013-01-22 09:58:19同じ家に七年も住んでいると、不思議なことが起こるようになる。住み始めた当初は新しい家だったのに、今では半分が何世紀も前に建てられたものになってしまった。古い部分は、どうやら私がここで暮らしている間に成長していったものらしい。―『アサイラム・ピース』より「変容する家」。
2013-01-22 14:59:30「夜になると、古い家が冷酷な石の目を開き、内部に向けて耐えがたいまでの敵意を放射しつつ、私を凝視する。古い家の壁はどこも透明な憎悪のカーテンをまとっている。獲物を待ち伏せる獣のように、私をうかがっている家―犠牲者たる私はすでにその中に飲み込まれてしまっている。」
2013-01-22 15:00:20アンナ・カヴァン「不満の表明」の主人公は、なにやら不可解な訴訟に巻き込まれている。頼りは助言と援助を業務とする公式アドバイザーのDだけ。しかし、状況の悪化とともに、私はDの熱意と誠実さに疑念を抱きはじめる。私はアドバイザーの変更を当局に願い出るのだが・・・
2013-01-22 18:25:41カヴァンを語るとき、カフカの名前がしばしば引き合いに出されるが、これはその影響がとりわけ顕著な一篇。この名前のない主人公は、このあと『アサイラム・ピース』中の数篇に登場し、「私」をとりまく状況は作品ごとに(理由のわからぬまま)悪化の途をたどっていく。
2013-01-22 18:27:11幻のカヴァンをもとめて書店を彷徨う方々が増殖中。『アサイラム・ピース』(国書刊行会)は24日(木)取次搬入、一般の書店に並ぶのは25日以降になります。いましばらくお待ちください。
2013-01-22 18:32:20@unspiritualized ご意見ありがとうございます。訳者の山田和子氏も次の企画を検討中とのことですし、カヴァンの紹介は今後もすすめていきたいと考えています。(フリーの身ゆえ、一冊一冊が勝負になるのですが)
2013-01-23 10:39:22アンナ・カヴァン『アサイラム・ピース』の表題作はスイス山中、湖のほとりにある精神病クリニック(アサイラム)が舞台。入院患者やその家族、従業員など、それぞれの視点から描いた八つの断片(ピース)をくみあわせた作品。
2013-01-23 15:28:12自分はもう完治したと思っているハンス。残してきた家族や事業が心配で何度も手紙を書くが返事は戻ってこない。ハンスは次第に不安にとらわれていく。みんなは僕を忘れてしまったのか・・・
2013-01-23 15:29:32入院している娘に会いにきた夫婦。しかし主治医は、いま会うのは症状を悪化させるだけといって、面会を許可しない。両親が自分に会わずに帰ったことを知った娘は・・・
2013-01-23 15:30:10クリニックの生活を満喫しているようで実はすべてに倦怠しているマルセル。湖でボートを見つけた彼は、それに乗りこんで対岸をめざす。向こう岸はフランス、そこから家に帰ることができる・・・
2013-01-23 15:31:17フレダを訪ねてきた夫。今度こそイギリスに連れ帰ってくれるはず。外出許可がおり、久しぶりに年上の夫とふたり、近くの町に出たフレダは興奮してはしゃぎまわるが・・・
2013-01-23 15:32:17舞台となる精神病クリニックは、本書執筆の前に作者自身が深刻なメンタルブレイクと薬物中毒の治療のために滞在した場所をモデルとしている。全篇に満ちているのは、崩れゆく精神への不安と恐怖、「囚われの身」であることに対する痛切な叫びだ。
2013-01-23 15:38:07「ゆっくりと心が冷えていく痛ましい過程を、いったい誰が語れるというのだろう。やがて地獄よりも深い淵になる、その最初の小さなひび割れに気づいたのは、いったいいつのことだったろう。」
2013-01-23 15:39:30「時間は過ぎていく。時にゆっくりと、時に一瞬の閃光のように。いずれにしても、時間は容赦なく私を終わりの時に向けて導いていく。いかなる猶予も与えることなく過ぎていく時間を、私はひたすら信じられないという思いで見つめつづける。」――アンナ・カヴァン「終わりはもうそこに」
2013-01-24 12:24:06「そう、ついに "それ" は私のもとにやってきたのだ。あまりにも長い間待ちわびてきた宿命の時、終わりなき終わり、結局のところ兄弟のように近い存在であるらしい敵の旗幟なき勝利。」――アンナ・カヴァン「終わりはない」
2013-01-24 12:27:46