小鳥猊下のツイッター講座：第四回

小鳥猊下 @kotorigeika

学校という場は、あらゆる人々が必ず経なければならないため、あらゆる愛憎がそこへ集積する。ゆえに、だれもが学校を舞台にした物語を語り得るし、学校を舞台にしたあらゆる物語はその拙劣に関わらず、人々の感情を揺り動かす。通過点ゆえのエンドマークの置けなさが、そのままドラマとなるからだ。

小鳥猊下 @kotorigeika

最も汚れなき時代に、己を最も清らかさから遠いと感じる心性をこそ、青春と呼ぶのだろう。

小鳥猊下 @kotorigeika

（曲がり角から段ボールの鼻だけをのぞかせて）もうすぐ長めの連続ツイート出るよ。ファン以外はアンフォロー推奨だよ。

小鳥猊下 @kotorigeika

（広いスタジオの中央に布のかかったキャンバス。背なしの椅子に浅く腰掛けた段ボール鼻の外人、カメラに向かってにこやかに）やあ、どのくらいぶりかな。みんなをより良いツイートに導く、ツイッター講座の伝道師のトゥレットだ。

小鳥猊下 @kotorigeika

あの人気番組を、いまや自主制作のネット放送でお届けしている事実に、なんだか隔世の感がある。もはや何の後ろ盾もなくなってしまったけど、ぼくはぼくのできることをするしかない。それも世界を救うとかじゃなくて、自分の最も優れた部分を何もみかえりもなく捧げることが大事だって、最近わかった。

小鳥猊下 @kotorigeika

でもそれって、熱心なキリスト教徒だったマムがぼくに言い続けてきたことと同じなんだよ。当たり前のような標語にこそ、真理が含まれている。最近のぼくにとって、先人の書き記した言葉に実感を通わせることが、成長ってやつなのかもしれない。さて――

小鳥猊下 @kotorigeika

まだ君はこんなふうに考えているのかい？ 「+100のリツイートなんて、都市伝説さ！」「結局、リア充が現実の友だちから中身もなしにメンションされてるだけじゃないの？」「オフィスでは上司のつまらない書き込みにリツイートやいいね！を強要されるぼくに、屈託の無いツイートなんて無理だよ！」

小鳥猊下 @kotorigeika

大丈夫！　ぼくといっしょに学べば、どんな惨めなぼっちでもメンションされるし、上司のパワハラに損なわれた君のテンションはアゲアゲになる！ このメソッドはネットでもワンハンドレッド・トゥエニィ・パーセントの成功が実証済みなんだからね！　それじゃ、さっそく今日のテキストを見ていこうか。

小鳥猊下 @kotorigeika

（鼻段ボール、キャンバスにかけられた布を取る。表れる文字列）『一番清らかな時期に、自分を最も汚れていると感じる心を青春と呼ぶのだ』

小鳥猊下 @kotorigeika

（鼻段ボールをつまんで、手をふりながら）ウウップス！　こいつは臭うね！　一週間以上常温で放置して液状化したマグロの刺身を、しぼりたての雑巾牛乳でシェイクしたみたいだ！　このテキストの臭みを感じ取れないようじゃ、自家製のツイートを投稿するなんて百万年早い！

小鳥猊下 @kotorigeika

まず、「清らかな」と「汚れている」をストレートに使っているのが考えなしだね。君の唯一のビロンギングである素直さは認めるけど、ツイッターなんてのは世間よりちょっと進んだ自分を感じたい連中、つまり歪んだ自意識の掃き溜めなんだ。もっとヒネリを加えなきゃ、たちまちペシャンコにされちまう。

小鳥猊下 @kotorigeika

「清らかな」と「汚れている」の順序を逆にして、それぞれに否定語をつけくわえよう。意味こそ変わらないが、ポジティブからネガティブ、読解にワンステップ加わったことで、読み手は文意を理解するのにより長い時間が必要となった。ぼくはこれを、「心の滞空時間」と読んでいる。

小鳥猊下 @kotorigeika

長文を書くときは読み手のテンポ優先でできるだけこの滞空時間を減らすべきだけど、ツイッターは短文投稿サービスだろ？　できるだけねっとりと、与えたい印象や理解へ遠回りした道筋を用意してやることがコツなのさ！　簡単だろ？

小鳥猊下 @kotorigeika

『一番汚れていない時期に、自分を最も清らかではないと感じる心を青春と呼ぶのだ』

小鳥猊下 @kotorigeika

多少は改善されたが、まだまだだね。このテキストが浮ついた感じを与えるのは、書き手が文章のトーンを決めきれていないからだ。読み手と対等の立場で共感を得たいときは口語にするべきだけど、今回は青春に関する新たな切り口で読み手を啓蒙したい。文語調へ寄せよう。

小鳥猊下 @kotorigeika

「一番」と「最も」の表記ゆれも、ここで「最も」に統一しておこう。なに、なんで「一番」に統一しないんですか、だって？

小鳥猊下 @kotorigeika

ホワット・ワー・ユー・リスニング・トゥ？　これまで何を聞いてたんだよ！　「一番」はどう考えても口語じゃないか！　それに「最も」はベストとワーストの両方に使えるけど、「一番」はベストの強調にしかなれないだろ！

小鳥猊下 @kotorigeika

ここは「おかげ」と「せい」の区別もできない、「全然だいじょうぶ」のゆとり世代に向けた作文教室かよ！

小鳥猊下 @kotorigeika

それと漢字は脳が画像処理してるから、初見で冒頭部が「一番汚」という固まりで否応に認識されて、読み手の混乱をまねくだろ！　「右脳で漢字を画像処理、左脳で平仮名を文字処理」の日本語生理を元に文章を書くのは、常識以前の大前提だろ！　ユー・ダイ！　ダイ・スーン！

小鳥猊下 @kotorigeika

『最も汚れなき時代に、己を最も清らかではないと感じる心性を青春と呼ぶのだ』

小鳥猊下 @kotorigeika

フーム、グッと良くなったね。さっそくこれをツイートして……ドウ、ドウ！　イグザクトリー（その通りでございます）！　そう、ツイート作成にはキミのクソ人生で唯一他人に秀でたプロパティ、時間を最大限に活用するんだったね！

小鳥猊下 @kotorigeika

「あわてるベガーはキャッチが少ない」のことわざ通り、ここで一晩ツイートを寝かせるくらいの余裕を持たなくちゃ！　関心乞食の大あわててで、ひとつもリツイートやフェイバリットが返ってこない経験を何度もしてきただろ？　そう、このツイートにはまだ良くなる余地が残されている。

小鳥猊下 @kotorigeika

ひとつの文章の中で同じ言葉をリピートするのはマヌケの仕事だ。ここでは「なき」と「ない」、ほぼ同じ否定語の反復が気になるところだね。なに、「ない」以外の否定語が思いつかないって？

小鳥猊下 @kotorigeika

ハハ、どうしてそんなに怯えているんだい？　無知を叱ったりはしないさ！　それこそが、キミがこのレクチャーを受けている理由なんだからね！　さあ、以前にぼくが言ったことを思い出そう。

小鳥猊下 @kotorigeika

そう、シソーラス、類語辞典を活用するんだ。ここでは英語で言うところのファー・フロム、「から遠い」を使うことで否定に替えよう。なに？　「最も」も重複しているけどいいんですか、だって？