犬とオオカミの間～合鍵の話

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 卑怯な問いかけ。首を横に振る。ついさっき自分から唇を奪ったくせに。散々食べ散らかして僕にも獣になれとねだる。僕が。ん？僕がどれだけ悩んでも君はお構いなしだな。いつものことじゃん。あっけらかんと言われ思わず苦笑する。僕の決意なんて君の笑顔であっさり崩される。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 子供みたいに貪欲で、正直で容赦がない。君は変わってない。腕を伸ばし、頬を掌で包む。唇を啄ばむと、彼の喉が鳴った。獣に食べられる。それは恐ろしい筈なのに体が疼く。欲望を一度許してしまうと堪えがきかなくなる。照之。何？会いたかった。…認めるのが遅えよ。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 苦笑交じりに呟かれ、掌に口付けられた。そのまま引き寄せられた 指を口に含まれ吸われ、思わず息を吐く。黒い瞳が熱を帯びて揺らめいた。 やっと飢えを満たせると言わんばかりに獣は嗤う。そんな顔あの仔猫に見せたら逃げられるぞ。彼の愛を一身に受けた仔猫は幸せそうに眠る。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 珍しく出勤した仔猫は疲れていたのだろう、いつも俺の温もりがないと起きて探しにくるくせに、毛布に包まれて穏やかに眠り続けていた。今起きてこられても腕枕はしてやれない。けれど少し寂しい勝手な飼い主の気持ちなんか知りもせずに寝ている仔猫の傍で、獣の様に貪りあう。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 壁に凭れ、荒い呼吸を繰り返しているベンジャミンのベルトをずらし、ズボンも床に落とす。恋人ごっこを４年続けただけに俺が何を考えているのか分かったのだろう。溶けた深緑の瞳に抵抗の色が生じる。駄目。短く言い置き、指を肢の間に侵入させると苦しげな悲鳴が上がった。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep だから、仔猫が起きるってのに。指の侵入を阻むそこをゆっくりとほぐしていく。苦しげにそれでも堪え、受け入れようとするベンジャミンを見て思う。良かった、これなら俺以外の男に抱かれてないだろう。我ながら酷い男だ。額にうっすらと浮かんだ汗を舌で舐め取る。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 服を脱ぎながら、食い散らかした獣を見る。少し怯えた様に揺れる深緑の瞳。仔猫のそれは、胸が締め付けられる。慌てて抱き寄せ、頭を撫で安心させたくなる。けれどこいつのそれはこちらの情欲を煽る。骨までしゃぶり尽くしたくなる。足を持ち上げると、待て、と慌てて言ってくる。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 待った、2年も。俺の言葉にベンジャミンは顔を強張らせた。もう待たない、寄越せ。…ここで？うん。嫌だ。知らない。この期に及んで逃れようとする体を抱き上げる。照之！肉体労働の成果が意外なところで生きた。今度爺さんに酒でも奢るべきだろうか。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 腰を掴み、そこへ潜るとベンジャミンは息を詰め、苦しげに顔を歪める。噛み切られるかと思うほど締め付けられながら揺さぶると、腕を首に回され、しがみ付かれた。まるで駄々をこねる子供をあやす様に抱き締める。どちらかと言うと、駄々をこねてるのはこちらだろうが。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 待ち侘びたと言わんばかりに深緑の瞳が潤む。素直に欲しいって言え、この獣。もう少し焦らしてやりたい。でもこっちも限界だった。引き摺り込まれる様に、深く貫く。２年もほったらかしやがって。もっと恨み言はあるのに、照之、照之とうわ言の様に名前を呼ばれ、理性は奪われる。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 奥へ奥へと突き、ねだると徐々にほぐれたそこは柔らかく受け入れ、熱を増して溶ける。ねえ、気持ち良い？耳元で囁くと知らないと泣きそうな声で呟く。嫌ならやめる。心にもないことを言うと首に回された腕の力が強くなった。柔らかい金髪がくすぐったい。汗の匂いがそそられる。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 切なげに喘いでいたベンジャミンの呼吸が荒くなる。…もう限界？荒い息を吐きながら、首を縦に振られたので揺さぶりを早く強くしてやると待ってと悲鳴が上がった。だから、待たねえってさっきも言っただろ。嫌だ、一緒に。駄目、我慢しないで。違う、嫌だ。知らない。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 駄々をこねる子供を押さえ込み、愉悦の波で襲ってやると途方に暮れた様な悲鳴と共にゆっくりとそれは吐き出された。絡みつき、絞ってくる内側にこちらも襲われ、小柄な体を抱き締め、吐き出す。ぐったりと力の抜けた体を抱えたまま、ようやくベッドへ腰を下ろした。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 君は、本当に。まだ呼吸を乱しながらベンジャミンは俺を睨みつける。気持ち良かったくせに。どっかの仔猫みたくたまには素直に甘えたらどうだ。何か飲む？額にキスしながら問うと、ああ、と短く気だるげな返事。ベッドに小柄な体をベッドに下ろして冷蔵庫から水を出して渡す。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep …で、話って何よ。もっとも、大体の予想はつく。これきりにしようとか、そういうことだろう。これだけ俺に溺れてまだそんな寝言をほざくならベッドでもう一戦交えてやる。俺の物騒な考えを察してかベンジャミンは首を横に振って忘れたとだけ呟いた。正しい判断だ。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 勘違いするなよ、俺はお前の為に家を捨てたわけじゃないから。最初からそうするつもりだったし、祖母ちゃんと話はついてたんだ。それを勘違いした馬鹿どもが俺を担ぎ出そうとして、それに応じた馬鹿な連中が監視役を送ってきた。茶番だ。俺がその監視役に夢中になったことも含め。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep …だとしても、僕が君に近付いたのは監視の為だった。それは変わらないんだ。分かってるよ。前みたいに、君の傍にはいられない。…じゃあ、また監視しといてよ。俺うっかり気が変わるかもしれないよ？だって今の仕事、肉体労働だわ薄給だわ上司最悪だわ割に合わねえもん。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 相続放棄はしたんだろう？したよ。だったら今更君が動いたところで何も。…どうだろ、お前本気でそう思ってる？獰猛な獣の様に笑われ、何も言えなくなる。俺、祖母ちゃんから色々教わってる。やっちゃ駄目よって言われて教えてもらったことばっかりだけどな？

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 僕の気を惹く為の戯言でないことは分かっているだけに背筋が寒くなる。相続を放棄させ、ほとんど無一文で彼を放り出したくせに今でも動向を探りたがる連中は決して彼を過大評価していないだろう。な、監視する必要あるだろ？子供みたいに無邪気に笑って彼は言う。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 別に君の監視をするためにこの国に戻ってきたわけじゃない。あ、そう。じゃなんで？親父さん亡くなったんだろ、良かったの？…他に身寄りはないし、研究室の教授が気にかけてくれて。ふうん。蓮見は呟いて僕の手から水を奪い、口に含む。何より、君のいる国だから。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 言葉は口に出さない。口に出す資格はない。なあ、またあの店行ってもいい？シチュー食べてみたい。僕の店じゃないんだ、勝手に行けばいい。シチューはついでで、お前に会いに行きたいんだけど。…いつもいるわけじゃない。お前ほんとにしぶといな。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 溜め息を吐くと蓮見は鞄から鈴を出し投げてきた。はい、お守り。鈴についていたのは銀色の鍵。…だから、もう君とは。今決めなくてもいいだろ。俺は２年待ったんだぜ？傍らで眠る仔猫の首には首輪がついていない。なのに僕には鈴をつけるのか。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep あと、俺の帰りが遅くなるとこいつ不安になるみたいでさ。代わりに様子見に来てやってくれねえ？勿論、お前にその時予定がなければって話だけど。…それは構わない。良かった、気になってたんだ。ほっとした笑みを浮かべながら蓮見は仔猫を撫でる。この子は、どうしたんだ？

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 拾った、雪の日に。どーも悪質なブリーダーのとこから逃げてきたみたいでさ。…そういえば先日、近くの違法ブリーダーが検挙されたって新聞で読んだが。ああ、それ多分こいつのとこだと思うよ。うちの所長がどっかにチクってたから。

ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep あの頃、本当は欲しいと願っていたこの部屋の合鍵。けれど自分がねだる資格はないと思っていた。今でも僕が持つ資格はないのではないか。僕の思いなんかおかまいなしに、蓮見はベッドに入り抱き寄せてくる。もう帰る、言いかけたのを察したかのように唇を奪われる。