犬とオオカミの間~合鍵の話

毎度おなじみゾンサバのパロディシリーズ。 便利屋+擬獣化という、結構なカオス。書いている本人達はとっても楽しんでいる。BLあり。
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ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 毛布の柔らかさが心地良い。でも、おかしい。彼がいない。暗闇を探すとベッドから穏やかな寝息が聞こえてきた。けれどいつもと違う。主の傍らで寄り添い抱き合う様に、昼間の男が寝ている。良かった、昼間は争っている様だったから。安堵すると共に何故か痛みが走る。分からない。

2013-02-02 23:17:03
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 携帯の着信音で目が醒める。6時半。まだ辺りは薄暗い。鳥羽からだった。どしたの。…あ、いいよ、代わる。寝てなよ。多分、眠気に解放された一瞬の隙を突いて電話をかけてきたのだろう。ごめんなさい、起こしたわね。そう言う彼女の方が眠そうだ。今度何か奢って。おやすみ。

2013-02-02 23:18:30
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 本当は今日は休みだったが仕方ない。俺まで休んだら椿が気の毒だ。傍らで穏やかな寝息を立てるベンジャミンを起こさないようにそっとベッドから抜け出す。にゃあ。仔猫が毛布の上で座っていた。何だお前、昨夜はずっと寝てたのか?…?元気ないな?どうしたんだ、どっか痛いのか?

2013-02-02 23:19:07
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 抱き上げ、頬ずりすると喉を鳴らしてくる。寂しい思いさせちゃったか?別にお前を仲間外れにするつもりはないんだよ。言い聞かせるとにゃあ、ともう一鳴き。ごはんにしような。ミルクを皿に注いでやるといつもと同じ様に美味しそうに飲み干す姿に安心する。

2013-02-02 23:20:38
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 鳥羽はいつも一番最初に事務所に入り、掃除をしてる。別に誰にやれと命じられたわけじゃないだろうが悪いことではない。彼女が休みの日は俺か椿どちらかがやるようにしてる。連絡を受けたからには俺がやるべきだろう。いつもより早いが支度を整える。朝食は後でもいい。

2013-02-02 23:21:20
ゆき。 @Yukilinus

@sasa_sep 俺が出ると察した仔猫は途端に不満げな態度を取り出した。ごめんって、ちゃんと代休貰うから。な?新しい玩具も貰ってくるよ。仔猫を宥め賺して、俺のベッドで眠っているベンジャミンの額にキスをする。あいつと遊んでやって。俺だけの便利屋に頼むとにゃあ、と良い返事が来た。

2013-02-02 23:22:29
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 鈴の音に目を開ける。枕元に置いたままだった合鍵の銀色が朝日を反射している。隣に照之はおらず、テーブルにメモが載っているのが見えた。僕の服は脱がされた時のまま壁際に散らばっている。二年ぶりに、と思うと頬が熱くなる。逢いたかった気持ちと同じ位、逢いたくなかった。

2013-02-03 20:54:41
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 別れを切り出した時は、どうか忘れて幸せになってほしいと願った。僕を送り込んだ連中の魂胆がどうあれ、鳥羽さんとなら正しい道に進める筈だと。でも、僕は結局この国に戻ってきてしまった。あの時、遠距離なんて俺には耐えられないと駄々をこねた照之は二年待ったのだという。

2013-02-03 20:55:44
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 一息に取り戻すように抱かれて、耐えられなかったのは僕の方だと思い知った。もし、照之の隣に誰かがいたら。触れたくもない過去だと退けられたら。真っ直ぐな視線から逃げたのは僕の方なのに。誰にも閉ざしていた心と体は、待っていた、逢いたかったと求められて歓喜に震えた。

2013-02-03 20:56:24
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus ベッドから降り、ズボンに脚を入れる。シャツを拾うところんと何かが転がり出た。…ああ、ごめん、君か。床に落ちた金色の毛玉のような仔猫に手を伸べるとぴゅっと逃げ出す。嫌われたかな、飼い主を独り占めにしたから仕方ない。ボタンを留め、二年前と変わらない部屋を見回す。

2013-02-03 20:59:35
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 今は仔猫の玩具と砂を敷いたトイレが置かれている。自分の痕跡は残さずに去ったつもりのここに、照之は戻れというのか。あの頃の僕たちは遮二無二抱き合って、見えている将来を見ないふりをしていた。僕は大切な相手だからこそ手放さなければと心に決めて、事実やり遂げたのに。

2013-02-03 21:03:11
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 照之の手にかかれば全てを壊されてしまう。自分を取り巻く思惑も僕の覚悟も、そんなもの関係ないと言わんばかりに。君は馬鹿だ。呟くと、にゃあ、と相槌のように鳴き声が聞こえた。振り返ると、仔猫が猫じゃらし型の玩具を口にくわえてこっちを見上げていた。しばし見つめ合う。

2013-02-03 21:04:42
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus …それで遊ぶ? 手を出すと隠れる。ため息をついて台所に立つと、コーヒーメーカーのサーバーにコーヒーが残っていた。カップに注いでいると足元を仔猫が音もなくすり抜ける。見ると、玩具がそこに落ちていた。拾ってカップと一緒にテーブルに運ぶ。書き置きのメモが目に入る。

2013-02-03 21:05:27
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 『留守番はそいつに任せて大丈夫 代わりに遊んでやって 戸締まりよろしく』簡潔な箇条書きに苦笑が漏れる。鍵を持って出なければ戸締まりは不可能だ。まんまと僕に鈴をつけたわけだ。こちらを窺っている仔猫に玩具を振って見せる。首輪もない、名前もどうやらないらしい仔猫。

2013-02-03 21:06:24
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus 最初は警戒していた仔猫もそのうち無邪気にじゃれつきだす。疑いなく彼の愛情を受ける小さな同居者。僕も、君みたいになれればいいのに。つい溢すと首を傾げられた。可愛らしい仕草に口元が綻ぶ。思えばこの二年、いや、下手をしたらもっと長い間、僕は何かで笑った覚えがない。

2013-02-03 21:06:48
長月笹良 @sasa_sep

@Yukilinus そう気付いて愕然とする。そして、血の気が多くて喧嘩っ早い照之も同じなら。仔猫に優しく微笑みかけていた横顔を思い出す。…君が、照之を守ってくれたのか。にゃあ。当然、という顔で返事をする仔猫に笑ってしまう。そうか、ありがとう。額を撫でるとごろごろと喉を鳴らした。

2013-02-03 21:07:57
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