小熊英二『インド日記』まとめ

小熊英二氏の『インド日記』からの引用をまとめました。社会科学的な示唆に富んだ、すばらしい本です。
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読書メモ @masashy_log

値切るという行為は、いわばその行為を通して、「顔見知り」になる手間を支払うことであるともいえる。…貨幣はすべての価値を数字に換算する強力無比のコミュニケーション・メディアだが、人情や顔見知りといった他のコミュニケーション手段が、貨幣の威力の適用範囲をとどめている(『インド日記』)

2013-02-01 14:39:56
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もっとも、人情の適用範囲が「同じ村の人間」とか「同じ宗教や民族の人間」といった境界内になりがちである以上、閉鎖性と人情は表裏一体ともいえる。その意味で外国人にとって「身内に甘い人情村」の世界は、限りなく閉鎖的かつ不公正に見える、住みにくい世界となりやすい(小熊英二『インド日記』)

2013-02-01 14:45:52
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体調がおかしいがゆえに日本食を欲しいとは感じるが、実際に食べてもうまいとは限らないのである。ナショナリズム全般にいえることだが、現状が悪いときにはシンボリックなもの(「日本」)に希望を託すが、それそのものを入手すると期待が裏切られたりする。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-01 19:20:28
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「日本人」という意識、あるいはナショナリズムは、交通の発達や身分制度の解消といった、近代化の結果として生まれてくるのである。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-01 21:09:12
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インドがカーストで輪切りにされた社会だとすれば、現代日本は学歴や会社名で輪切りにされた社会だ。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-02 10:46:39
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イランには子供を主人公にした映画が多いが、直接に社会批判をやると検閲にひっかかるため、子供の目を通して社会問題を描くのである。こういう具合に表現が間接的なので、…評論家に評判がよい一因になっているのだろう(小熊英二『インド日記』)

2013-02-03 01:10:53
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1930年代の日本で高群が直面した問題は、日本の文化的アイデンティティの保持と女性の地位向上をどう両立させるかだった。西洋的なフェミニズムを導入すれば自国の文化的アイデンティティが失われ、文化と伝統を保持しようとすれば女性の地位が向上できない(小熊英二『インド日記』)

2013-02-03 23:49:04
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それに対し高群がとった手法は、「伝統」や「神話」の再解釈だった。つまり、『古事記』や『日本書紀』の時代、古代神道のもとでは女性の地位はむしろ高く、その後に儒教の影響で女性の地位が低下したのだ、というのが彼女の見解だった。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-03 23:52:10
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日本では中央政府がすべての「公共活動」を独占する形で近代化が成功したが、インドではよくも悪くもNGOが補ってやらないと、政府だけでは国の運営がうまくゆかないのだ。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-04 12:36:32
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「インドでは『政府』と『私』の中間に『公共』という観念があるが、日本には最近まで『国家』と『私』しかなかった」(小熊英二『インド日記』)

2013-02-04 12:38:01
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一つ印象に残ったのは、伝統はつねに人びとによって活かされ直すということ。「伝統」はつねに現代の必要から再解釈されることで、人びとの武器として使える。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-05 01:58:55
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何が「伝統」かは、自分で決めてよい。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-05 02:23:45
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現代では、最初の骨格を決める作曲家がいわば頭脳、演奏家はその手足という分業が、あたかも理性と身体の分離のように成立している。そこでは、作曲家が特権的な位置に立ち、譜面に書かれた内容に「著作権」という概念が成立する。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-05 17:10:25
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ほんとうは音楽では、楽譜に現れないニュアンスや音色が大切で、演奏家の真骨頂もそこにあるのだが、近代では「紙の上に記録されないものは存在しない」のだ。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-05 17:12:02
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外国体験や学問などは、「世界を別の角度から見ること」、すなわちそれまで「当然と思っていた同一性」がいったん破壊され、そのあとに新しい世界観が開けてくる契機となる、いわば人間の感覚や思考を拡張するための手段であり、半端なドラッグ以上の働きをする。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-06 15:24:31
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「近代社会では、仕事ができてお金を稼げる時期、業績のあげられる時期だけが人生だとみなす。だから引退後や死ぬ直前は、人生の残りかすだとみなされる。しかし仏教では、働く時期は人生のうち四分の一の意味をもつにすぎないとみなすのですね」(小熊英二『インド日記』)

2013-02-06 16:05:58
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歴史の描写というものは、「過去はこうだ、だから未来はこう進むべきだ」という筋書きをたどることが多い。だから、想定されている「未来」、ないしは現在の政治的課題によって、歴史描写は無意識のうちにせよ影響をうける。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-11 12:10:07
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事実の断片というものは、自覚的に捉えられ総合されることによって、はじめて「歴史」となる。たとえ祖父母から直接に話を聞く機会のある家庭ですら、本などによって視点が与えられなければわ当人にとっての「歴史」にはならないのだ。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-11 19:05:56
読書メモ @masashy_log

世界の各地で、国家や宗教の対立のかたちをとって多くの暴力があり、人びとが似たような傷を抱え込みながら、国境を一つ越えると互いの悲劇に無関心という状況。悲劇の構造はどこも同じ、忘却や無関心の構造もほとんど同じなのに、人びとは分断されたままである。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-11 19:11:21
読書メモ @masashy_log

考えてみれば、自分自身の解釈よりも、政府や学者が教えてくれる「真実」のほうが信じられるという感覚のほうが、むしろおかしいのかもしれない。なんらかの権威が示してくれる「真実」を得られなければ、不安になってしまうというのは、むしろ危険というものである。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-11 19:21:11
読書メモ @masashy_log

人びとが自分の状況を表現する言葉を持たずに苦しんでいるとき、鬱積したエネルギーを放出する回路をつくる手助けをする。そうしたいわば助手役になるのが、「言葉を与える」ということだ。(小熊英二『インド日記』)

2013-02-11 21:43:21