推敲は遂行中。~第3回twitter小説大賞応募候補作一覧~

ええと、まとめてみました。
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あまたす @amatasu

娘の泣き声がしたので、慌てて駆けつけた。どうしたの。たんすがおててたべた! どうやら、引き出しに手を挟んだらしい。大丈夫、たんすは人を食べたりしないよ。ほら。引き出しを開ける。中はびっしりと牙が生えていた。娘が一瞬泣き止み、再び泣き出すのを、僕は闇の中で聞いた。 #twnovel

2012-06-28 04:16:16

あまたす @amatasu

子供の頃、風邪のときに飲む薬が嫌いだった。シロップに混ぜられた、変な色に変な味。「ねえ、どうしたの」「いや、なんでもない。子供、風邪なんだろ。旦那つかまらないなら早く行けよ」「うん」キスをした女の唇は、あの薬と同じだった。変な色に変な味。子供だましの、シロップ。 #twnovel

2013-02-09 05:59:47
あまたす @amatasu

お母さん、今日も来てくれたのね。嬉しいわ。ええ、あなたが心配だもの。早く退院してちょうだい。ベッドの上の祖母は、もう長いこと私を母親、つまり私の曾祖母だと思っていた。お母さん、お母さん。30年後、私の母は誰をこう呼ぶのだろう。大人のその先は、あまりにも、重い。 #twnovel

2013-01-14 04:26:31
あまたす @amatasu

飲み過ぎだよ。店の主人がそう窘める。平気だよ、夜は長いんだ。これで終いにしな。グラスが俺の前に置かれる。カクテルだろうか、藍色の酒に氷が光り、星空のようだ。飲み干すと、主人が出口を指し示してこう言った。さ、夜はあんたが飲み干しちまった。帰りな。窓の外が、明るい。 #twnovel

2012-10-17 03:58:05
あまたす @amatasu

「無人島に行くから、一緒に来て」朝起きるとそんなメールが届いていた。差出人はなぜか空欄。気味が悪くてすぐ削除した。その夜、夢を見た。無人島で誰かと自給自足で暮らす、妙にリアルな夢。相手は……誰?そこで目が覚めた。波の音が一瞬で私を包んだ。 #twnovel

2012-10-16 03:51:51
あまたす @amatasu

夏が終わろうとしていた。僕に残されたものといえば、遊園地の半券と、一度しか袖を通していない浴衣と、買っただけの花火。あとは、なにも残っていなかった。夜中、ベランダに出てビールをあおり、手で耳をふさぐ。波の音。終われなかった思い出が、僕の中を何度も寄せては返した。 #twnovel

2012-08-29 04:11:14
あまたす @amatasu

僕の目は前からちょっと変で、モノが二重に見える。といっても月が二つに見えるとかじゃなく、多重露光の写真みたいに全く別のものが見えるんだ。コップとマッチ棒とか、ビルと蝶々とか。だけど、きみを見るときだけなぜかきみが二人に見える。もう一人のきみは、いつも泣いている。 #twnovel

2012-08-01 03:04:57
あまたす @amatasu

男はな、人生の中で必ず女神に出会う。黙って野球中継を見ていた爺さんが、急に口を開いた。いいか、女神に会ったと気づくのは、会ってしばらく後だ。だがその時には、女神はもういない。いないんだ。そこまで言うと、爺さんはふっと静かになり、寂しげな目でまたテレビを見つめた。 #twnovel

2012-07-23 00:56:17
あまたす @amatasu

私は気づくと眠っていた。必死に髪を直していると、その隣で彼が目を覚ました。私は慌てて頭から布団をかぶる。彼はその隙間から手を差し入れて、ずっと隠してきた私のウサギ耳に触る。知ってるよ。なんで? ニオイ、だよ。彼は長い犬歯をむき出しにすると、私をそっと組み敷いた。 #twnovel

2012-07-21 03:16:58
あまたす @amatasu

今日、天使に会った。天使は翼にかかる雨も気に留めず、スリップドレス姿で、悲しげな瞳でマルボロをふかしていた。風邪、ひくんじゃないですか。僕は傘を差し出した。天使はそうね、と笑うと、翼を広げ、消えた。急に現れた太陽の下で、吸いかけのマルボロの煙が空へと昇っていた。 #twnovel

2012-07-08 02:36:45
あまたす @amatasu

書くというのは魔法だよ。心は見えないが、書けばそれが誰にでも見えるんだから。若い頃に文筆家を志していた祖父は、それが口癖だった。その祖父の形見分けで、私は万年筆と原稿用紙をもらった。次の日、気がつくと原稿用紙は文字で埋まっていた。そこには確かに祖父の心があった。 #twnovel

2012-06-29 03:20:58
あまたす @amatasu

失恋した。人生最後の恋、そのはずだった。辛くて、悲しくて、わたしは泣いた。ティッシュを二箱使い切っても、まだ泣いた。そうしているうちに、眠ってしまったらしい。冷たさに目を覚ますと、ベッドの外は一面の海で、わたしの頬に波が打ち寄せていた。わたしはまだ、泣いていた。 #twnovel

2012-06-11 01:50:33
あまたす @amatasu

くらやみ坂には気をつけなさい。人をさらうお化けがいるからね。この街の子供は、皆そう教えられる。くらやみ坂がどんな場所か、知るのは少し大人になってからだ。「レイナさん、アフターのお客様お待ちです」はーい。私はニヤけた顔のオッサンと腕を組み、くらやみ坂を下っていく。 #twnovel

2012-06-07 03:24:15
あまたす @amatasu

同僚が無断欠勤した。そういや、消えたいとよく漏らしていたな。トイレに立つと、無人の空間に社員証が浮いていた。同僚のものだ。俺だ。社員証から同僚の声がする。俺、消えちまったんだ、体が。待て。ということはお前、いま全裸か。俺は後ずさった。同僚の表情は無論、見えない。 #twnovel

2012-06-01 03:57:49
あまたす @amatasu

声が出ない。妻におはようと言ったら、声の代わりに口から「おはよう」の四文字が飛び出したのだ。文字は妻に当たって、床にがらがらと落ちた。混乱しつつも考えた末、ゴミ袋と息子の虫取り網を用意した。行ってくる。その五文字を網で捕らえてゴミ袋へ入れると、私は家を後にした。 #twnovel

2012-05-22 03:29:35
あまたす @amatasu

やっと仕事が見つかった。小学生の家庭教師ということだが、破格の高給だ。浮かれつつ迎えた初日。この子です、と部屋に通されて驚いた。机の前には一匹の猫が座っている。教科書は机の上です。ではよろしくお願いします。部屋のドアが閉められる。俺と教科書と猫は互いに睨み合う。 #twnovel

2012-05-01 04:03:26
あまたす @amatasu

毎晩、部屋に猫が来るようになった。仕事から帰ってくると、まるで僕を待っているみたいにベランダに座っている。なんだか猫を飼っている気分になって、ある日、餌をあげた。すると、猫は口を開けて「アンタね、そんな教科書通りの応対で女が喜ぶと思ってるの?」と、確かに言った。 #twnovel

2012-05-01 03:45:38
あまたす @amatasu

子供の頃、寝る前に母が聞かせてくれる物語が何より楽しみだった。ろうそくの明かりの中で聞く、数々の不思議な物語。物語に合わせて私の前には虹がかかり、花が咲き、風が吹いた。それらが母の「ちょっとした演出」だとは思いもしなかった。母が世界最高の魔法使いだと知るまでは。 #twnovel

2012-04-29 04:19:52
あまたす @amatasu

父は桜専門の写真家だ。毎年、桜前線を追って長い撮影旅行に出る。昔は、卒業式にも入学式にも来てくれない父を恨んだ。でも、私はこの春から写真の専門学校に入学する。蛙の子は蛙、だ。頑張れよ、さくら。うん。父が追い続けるものと同じ名前をもって、私は新しい一歩を踏み出す。 #twnovel

2012-04-14 05:47:21
あまたす @amatasu

「では、このお店自慢の一品をいただきます!」ぱくり。「ソースがひどいな。全体のバランスが台無しだ。それに……」しまった。ディレクターが凍りついている。うっかり、本音の舌で食べていた。建前の舌は、その上だ。「すみません、今のカットで」俺は2枚の舌をぺろりと出した。 #twnovel

2012-01-26 04:24:46
あまたす @amatasu

日の光で干した洗濯物に「お日様の匂い」がつくなら、月の光で干したら「お月様の匂い」がつくのだろうか。満月の夜、試しに洗濯物を干してみた。翌朝確かめたが、柔軟剤の匂いがするだけ。やっぱりか。そう思って取り込んだ洗濯物は、薄暗い部屋の中、ぼんやりと青白い光を放った。 #twnovel

2012-01-13 05:42:49
あまたす @amatasu

今日、さびしがり屋でさびしさを買ってきた。家に帰ってそれを眺めていると、急に背中のあたりが寒くなった。胸が妙にざわつくような感じがして、どうしようもなく苦しい。そうだったのか。きみはずっと、こうだったんだね。僕は久しぶりに泣いた。求めても得られないものを想って。 #twnovel

2011-10-02 03:08:09
あまたす @amatasu

フリマで見つけた金魚鉢がかわいくて、金魚を飼うことにした。毎日、毎日、金魚鉢の中でゆらゆら金魚は泳ぐだけ。今日もそう。「あんたは毎日同じね」そう言いながら餌をあげようとすると、金魚と目が合った。「そう。同じ。でもね。傷つかないわ。あんたみたいには。傷つかないわ」 #twnovel

2011-09-22 03:48:01
あまたす @amatasu

かちゃ。と、とん。深夜の台所に拙い音が鳴っている。ニンジンの切り方を携帯で調べるうちに鍋が沸く。何度もレシピを見たのに味は決まらない。冷蔵庫に貼ったレシピをまた確認して、その隣に貼ってある写真を見る。そうよ。決意とともに計量スプーンを握る。もうすぐ、もうすぐ。 #twnovel

2011-09-05 04:50:09