ソイ・ディヴィジョン #7

翻訳チームによるサイバーパンクニンジャ活劇小説「ニンジャスレイヤー」リアルタイム翻訳 (原作:Bradley Bond-san & Philip Ninj@ Morzez-san) 日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ 続きを読む
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ジョウゾウ社の広大な敷地がうらめしい。このビジネス街廃墟を抜けて市街に出ねば、救援を要請することはできないだろう。「実際安い」「マグロンチ」「立ち食い」などの朽ち果てたカンバンが、彼の必死の逃避行を嘲笑っているかのようだ。激しい重金属酸性雨が、傷口から容赦なく体力を奪う。 25

2013-02-17 23:25:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シズケサは極めてプライドとプロ意識が高い、寡黙なシノビ・ニンジャであった。アマクダリ内においてさえ、彼と任務以外の会話を交わしたことがある者は極めて少ない、ミステリアスな存在だ。ただでさえニンジャ心理学は難解であり、シズケサの心中を推し量ることなど不可能といえるだろう。 26

2013-02-17 23:36:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ただ少なくとも……無敵の存在であった自分が、無力なモータルめいて泥の中を這って逃げるという屈辱……そして死への恐怖といった原始的感情は読み取れる。(((……だがまだ十分ではない……)))ネオサイタマの死神は、崩れかけた峻厳なアーチの上に踞り、接近するシズケサを睨んでいた。 27

2013-02-17 23:47:18
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハァーッ……ハァーッ…!」ガレキまみれの交差点を這い渡ったシズケサは、不意に何者かの視線を感じ取り、身体を起こした。味方か?あるいは、先回りされていたというのか……死神に?恐怖が心臓を鷲掴みにする。前方のアーチ状建造物……その首無し武田信玄像の上に……赤黒いニンジャの影! 28

2013-02-17 23:54:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シズケサは残った力を振り絞り、咄嗟に廃墟ビルの中へと逃げ込んだ。ステルスの仕切り直しを図るためだ。シズケサは独自の特殊なシニフリ・ジツを使い、心音とニンジャソウル痕跡すべてを遮断し、密かに匍匐前進する。だがニンジャスレイヤーの威圧的な足音が、ゆっくりと背後から聞こえてきた。 29

2013-02-18 00:05:32
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シズケサは残った力を振り絞り、咄嗟に廃墟ビルの中へと逃げ込んだ。ステルスの仕切り直しを図るためだ。シズケサは独自の特殊なシニフリ・ジツを使い、心音とニンジャソウル痕跡すべてを遮断し、密かに匍匐前進する。だがニンジャスレイヤーの威圧的な足音が、ゆっくりと背後から聞こえてきた。 29

2013-02-18 22:22:57
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シズケサのジツは完璧だ。音、気配、ソウル、全てを滅している。だが重傷状態では、この繊細なジツを維持したまま素早く移動する事は不可能。「かつてトザマ・ニンジャは、天守閣で敵に包囲された時、そのジツを長く使い過ぎ、完全に心停止して死んだという」ニンジャスレイヤーの声が聞こえる。 30

2013-02-18 22:28:45
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ハァーッ……ハァーッ」シズケサはジツを解き、息継ぎじみた心臓拍動を行う。そして再びステルス・ジツとシニフリ・ジツを用い、追跡者の目から逃れると、片足で立ち上がり方向転換した。だがどれほど遠くまで逃げられるか。「オヌシには随分と手子摺らされた」死神の声が廃墟に反響する。 31

2013-02-18 22:36:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

激しい雷が鳴った。影絵状に伸びたアーチとニンジャスレイヤーのシルエットが、行く手を遮った。狩人の勘がなせる状況判断だ。「……いくら待とうと、救援など来ぬぞ。これがオヌシの望んだ、職人めいた孤立というものだ……」威圧的なニンジャスレイヤーの声が、シズケサの心を砕きにかかる。 32

2013-02-18 22:57:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

シズケサは己の自尊心がもう一度奮い立つのを感じた。ニンジャスレイヤーはタタミ3枚の距離で腕を組み、仁王立ちになっている。シズケサはまだジツを解いていない。……敵にはこちらが見えているのか?見えていないのか?シズケサは静かに、敵の側面へと回り込むように前進する。敵は動かない。 33

2013-02-18 23:04:28
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

完全に見えている訳ではない。ステルス・ジツとシニフリ・ジツが破られるはずはないのだ。しかし逃げ切るだけの体力は無く、このままではジリー・プアー(徐々に不利)。…シズケサは意を決し、ヤバレカバレで絞殺ワイヤを構えた。失った片手の代わりに歯を使う。背後へ回り込む。敵は動かない。 34

2013-02-18 23:11:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは腕組みし、虚空を睨みつけたまま敵に背後を晒す。ぼろぼろの装束に覆われた逞しい両肩が、静かに上下する。シズケサは息がかかる程の距離まで接近し、背後から敵の無防備な首筋に絞殺ワイヤーを回す。コメに文字を書くほどの精密な動き。それも、自らの心臓を止めながらだ。 35

2013-02-18 23:17:52
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

それは僅か4秒間の静寂であったが、4時間もの精神戦のように感じられた。あとは絞殺ワイヤーを引くだけでアンブッシュが完成する。だが、シズケサの心を疑念が蝕み始めた。敵は本当にこちらに気付いていないのか?攻撃の為にジツを解く、その一瞬を待ち受けているだけなのでは?先程のように! 36

2013-02-18 23:22:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニンジャスレイヤーは動かない!シズケサは目を剥き、ワイヤーを引きかける!その直前で動きが止まる!ジツはまだ解かれていない!心臓が悲鳴を上げる!再びワイヤーを引きかけ、止まる!シズケサの中では恐怖と自尊心が天秤にかけられているのだ!……そして勝利を収めたのは……恐怖であった。 37

2013-02-18 23:28:44
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ガクリ!シズケサは絞殺ワイヤーを取り落とし、白目を剥いて両膝をついた!ナムサン!心停止である!「イヤーッ!」ニンジャスレイヤーは背後を振り向き、敵の心臓部にワン・インチ・パンチを叩き込む!「グワーッ!」弾き飛ぶシズケサ!電気ショックめいた衝撃が走り、心臓が再拍動!ワザマエ! 38

2013-02-18 23:34:23
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そう簡単には殺さぬ、聞きたい事が山ほどある」ニンジャスレイヤーが歩み寄った。その顔は愉悦ではなく苦痛に歪む。フジキドの精神力も限界が近い。一瞬でも集中力が途切れれば、死んでいたのは彼だったろう。シズケサは半ば放心状態で、天井を仰いだ。セプクする精神力は残っていなかった。 39

2013-02-18 23:41:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「アマクダリ・アクシスの全貌を、洗いざらい話すがよい」「……」だがシズケサは黙して語らず。「オヌシが親チバ派であることは、先刻お見通しだ。そしてオヌシはもはや生きては帰れぬ……」頭の横へと歩み寄ったニンジャスレイヤーが、有無を言わさぬ目でシズケサを睨みつける。僅かな動揺。 40

2013-02-18 23:49:39
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ネコソギ・ファンド社とラオモト・カンの亡霊が、未だこのネオサイタマに取り憑いていることは知っている。だが、その参謀にして執事、アガメムノン=サンという男の正体が掴めぬ……」「……奴は……」シズケサが重い口を開いた。己はここで死ぬと悟ったからだ。 41

2013-02-19 00:04:27
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「……ただ独り生き残った……」雨音と雷鳴が、二人の会話を帳のように覆い隠した。「……電子戦争が無ければ……」幸いにも今宵のネオサイタマは慈悲深く、誰ひとりとして彼らのインタビューを咎める者はない。「……世界の支配者として君臨していた血筋の……」ひときわ大きな雷鳴が聞こえた。 42

2013-02-19 00:12:41
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

インタビューの時間は短かった。二者の精神と体力は、限界に達しようとしていたからだ。己の死期を悟ったシズケサはラオモト・チバを讃えるハイクを詠み、ニンジャスレイヤーは彼を容赦なくカイシャクした。シズケサは爆発四散した。窓の外では、武田信玄像が救いを求めるように天を仰いでいた。 43

2013-02-19 00:26:22
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

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2013-02-19 00:40:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

……それから暫くして。まだ肌寒いデイ・オブ・ザ・ウォーター(訳注:水曜か)の午前九時。 45

2013-02-19 00:43:05
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

傾いた鉄筋構造の先端から滴る重金属酸性雨の水滴が、安物のブラックLED傘を、機械的なスネア・ドラムのように叩く。彼は白い息を吐きながら、ガレキの山へと変わり果てたジョウゾウ社のプラント跡……通称ソイ・ディヴィジョンの廃墟を眺めていた。 46

2013-02-19 00:48:12