【竹の子書房】 140字の街角

街の風景やら人などを140字で書いていく。
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つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

140字の街角投下『おはようとただいま』 #tknk

2011-04-13 18:20:57
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

その朝、徳治は黄色い旗を持って駅前に向かった。登下校の学童を横断させる仕事を請け負ったのだ。退職して暇を持て余す彼を見かねた友人の勧めである。最初の組が来た。「行ってきまぁす」「あ。あぁ、行ってらっしゃい」結局、徳治は七十五回挨拶を交わした。一気に七十五人の孫ができたようだった。

2011-04-13 18:21:19
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

「ありがとう、これ」寺本君が、綺麗に畳まれたセーターを渡しながら微笑んでくれた。ゼミのコンパで酔った彼に掛けてあげたセーターだ。「あ、うん…」バカみたいな返事をして見送る。セーターには、寺本君の匂いが残っていた。直接包まれることのない匂いを確かめながら、私は少し微笑み少し泣いた。

2011-04-15 14:09:46
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

佳奈は高校卒業を待ちかねたように働き始めた。僅かなりと母を助けたい一心である。幼い頃、母さんが大好きだから結婚すると言った佳奈にすれば当然の選択だった。初めての給料で、母に安いセーターを買った。あれから二十年が起つ。母の遺品の中に、そのセーターを見つけ、佳奈は子供のように泣いた。

2011-04-16 09:35:04
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