【竹の子書房】 140字の街角

街の風景やら人などを140字で書いていく。
12
前へ 1 ・・ 7 8 次へ
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

妻と買い物に出かけた。今日は鍋にする。白菜、椎茸、豆腐、春菊、鶏肉。今年の正月、子供達は帰って来なかったから、妻と二人きりの食卓だ。ふと横顔を見る。少し皺と白髪が増えた。それでも尚、美しい。「他に忘れものは?」「そうだね…あ、一つある。手を貸して」帰り道、久しぶりに手を繋いだ。

2011-01-24 14:09:58
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

140字の街角投下。元ネタは加藤先生の実体験。『父親』 #tknk

2011-01-27 22:32:54
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

いつも無口で無愛想な父が私を手招いた。「今じゃなきゃ駄目?」結婚式前日、花嫁がどれほど忙しいか判らないのかしら。「これ、持ってけ」父の小銭入れだ。いつもと同じく、パンパンに膨れている。「何これ」「やる」全くもう、無愛想にも程がある。開けてみた。中には、折り畳まれた万札が二十枚。

2011-01-27 22:33:06
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

真紀は外語大の二回生だ。春休みのバイトを携帯で探している最中、母からメールが届いた。『父さんが変な事を言ってます。母さんには判らないので、翻訳してください』一体なんだ。慌てて続きを読む。『なぁ母さん。真紀は春休み忙しいのかなぁ』真紀は苦笑し、切符予約のサイトを探し始めた。

2011-02-01 16:13:53
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

140字の街角投下。『町の本屋』せんべい猫さんからの依頼です。 #tknk

2011-02-02 20:06:06
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

帰り道、駅前の本屋に立ち寄った。小さな店だが、手書きのPOPが推薦する本には外れが無い。いつもよりも客が多いようだ。皆、店主に向かって口々に「ありがとう」と言っている。店頭には『本日で閉店します』の文字。もう補充されない棚は、丁寧に掃除されていた。また一つ、街角から色が消えた。

2011-02-02 20:06:14
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

祖父は渋面を崩さぬ人であった。男はヘラヘラ笑うもんじゃねぇ、それが口癖だ。先日、そんな祖父が笑った。場所は、長年連れ添った妻の病室。痩せ衰えた手を握り、祖父は笑って言った。「先に行って待ってろ」直ぐに「下手くそな笑顔だわ」と切り返された。確かに下手くそな、けれど暖かい笑顔だった。

2011-02-04 11:13:47
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

今日は暖かいっすなぁ。140字の街角を投下しときます。『戦友』 #tknk

2011-02-07 09:57:46
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

荷物を運び出し、部屋はただの箱になった。窓から見える景色は四年前と変わらない。俺が変わっただけだ。この街で夢を見て、闘って、傷を癒して、そして結局あきらめて。ここでまた誰かが同じように生きるのだろう。「頑張れ。お前なら絶対できるさ」見知らぬ戦友にエールを贈り、俺はドアを閉めた。

2011-02-07 09:56:18
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

久しぶりに140字の街角を投下。『その時を待つ』 #tknk

2011-02-24 07:49:44
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

朝からの快晴に温められた草の上で、猫は大きく背伸びした。何とかこの冬も乗り越えられた、とでもいうように己の首筋を掻く。猫は、この町に住み着いてからは寅と呼ばれている。以前は何という名前か、或いは名前など無かったか、どちらにしても大差ない。できる限り生きて、時が満ちたら死ぬだけだ。

2011-02-24 07:50:09
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

そろそろ停電の時間だ。千代はポットのお茶を湯呑みに注ぎ、窓を開けた。戦時中の灯火管制と違い、爆弾が落ちてくるわけでもない。静かな夜が訪れるだけだ。ふ、と灯りが消えた。途端に空は、降るような星で溢れた。天国へ下見に行ったきり戻らない夫に向かって、千代は胸のあたりで小さく手を振った。

2011-03-14 04:53:31
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

始めたばかりなのに、理恵は結婚式のテーブルを任された。チーフや先輩に叱られながら、夢中で給仕する理恵に初老の女性が話しかけてきた。「新人さん?」「あ、はい」「あそこの新郎新婦もこれからだけど、貴方もこれからよ。頑張ってね」涙がこぼれそうになる。今日、理恵は少しだけ前に進めた。

2011-03-20 20:50:10
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

圭一がタクシーの運転手になって三年になる。その夜、最後の客はホステスだった。「高槻まで」疲れた声に聞き覚えがあった。昔、別れた女だ。結局、幸せにできなかった。向こうが気づかないのを幸いに、圭一は黙り通した。「お釣りはいいわ」渡された万札にはメモが挟んであった。『カゼひかないでね』

2011-03-26 05:14:47
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

乗車率120%の車内は、様々な諦め顔の品評会が開催中だ。突然、派手な音楽が鳴った。「あぁ、ちぃちゃん?テツだよん」喜色満面で中年男が携帯に出た。会話の内容から察するに、相手はキャバ嬢のちぃちゃんだ。「俺はまだ手の内全部見せてないからさぁ」男の言葉に誰かが突っ込んだ。「丸見えだよ」

2011-04-04 09:32:55
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

目覚めてしばらくの間、自分がどこにいるか判らなかった。そうだ、今日から一人だ。父の下手な鼻歌や、母の笑い声もない。自由で静かで、少し寂しい。あれ?母さんからメールだ。『御飯はちゃんと食べること』はいはい。判りました。ありがと。真新しいカーテンを開けると、遠くにキャンパスが見えた。

2011-04-07 11:03:50
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

140字の街角投下『名も無き中年の騎士達』 #tknk

2011-04-12 07:41:10
つくね乱蔵・厭系実話怪談作家 @t_ranzo

いつもより三本早いだけなのに、電車は人間の缶詰めだった。皆、大人しくシェイクされ、缶から出られる時を待っている。視界の下に黄色い帽子が見えた。赤いランドセルを背負った女の子だ。二年生ぐらいだろうか。苦労もせず立っている。何人かが、さり気なく壁になっていたのだ。私も仲間入りした。

2011-04-12 07:41:34
前へ 1 ・・ 7 8 次へ